火刑にされて目覚めたら4歳になっていた。両親を信じられないわたくしはとっととこの家を出て行きます。
声のあらん限り叫び声をあげて飛び起きた。
荒い息を吐き、体中から汗が噴き出していた。
ノックもなく扉が開かれ入ってきたのは父、ゴードン・バックウェル公爵だった。
「キャシディー!! どうした?!」
荒い息が整わないまま父に抱き締められる。
「お父様⋯⋯」
思わず嫌悪が立つ。
父は強く抱きしめながら背中を優しくなでているがやめてほしいと思っていた。
父の後ろには母がいて心配そうに見ている。
その目には愛があふれていて私が知る母の目とは全く違うものだった。
固く目をつぶり息を整える。
「お父様⋯⋯。お話ししなければならないことがあります」
「今はもう遅い時間だ。話は明日聞こう」
「お願いします。どうせわたくしは眠れません。わたくしの話を聞いてくださいませ」
父はわたくしに気圧されるように一つ頷いた。
「わかった。聞く。だが汗が酷いようだ。まずは入浴を済ませて身なりを整えてから話をしよう」
確かに酷い汗で着衣は体に張り付き、髪は汗を吸ってべったりと肌に張り付いていた。
心配そうな侍女たちには「ごめんなさい。説明はできないのだけど⋯⋯お父様に話を聞いてもらうことができたらそれで安心できることだから、急いで準備をしてもらえるかしら?」
侍女たちは少し驚いた顔をした後、てきぱきと動いて準備を整えてくれた。
一時間後、わたくしは両親と向かい合って座っていた。
「夜中に驚かせてしまって申し訳ありません。
信じてもらえないような話なのですが最後まで聞いてほしいのです」
「わかった」
「まず、わたくしは今何歳なのでしょうか?
それと今は何月何日なのでしょうか?」
両親は顔を見合わせてから父が「ベルナード歴815年2月15日で、キャシディーは今4歳だよ」と教えてくれた。
「4歳⋯⋯」
己の手の小ささに納得がいく。
「2月15日ならまだわたくしの婚約相手は決まっていませんよね?」
「ああ。よいお話はいただいているがまだ返事はしていない」
「第一王子、レブリアント殿下との婚約ならば断わってくださいませ。
王族からの申し込みとはいえ公爵家の我が家ならお断りすることは可能でしょう?」
「それは、まぁ、可能だが⋯⋯。とてもいい話ではないか? いや、待て。どうして王家からの婚約の申し込みを知っているのだ? まだエリシュリーノにも話していないのに⋯⋯」
「信じてもらえないかもしれませんが⋯⋯わたくしは一度20歳まで生きて20歳の誕生日に磔にされて火刑に処されたのです」
「夢を見たという話か?」
「お父様、本日寝る前のわたくしと今のわたくしではまるで違うことに気が付きませんか?」
「ええ。まるで違うわ。今のキャシディーはまるで成人した人のような話し方をしているわ」
そう答えたのは母だった。
「4歳らしさがどこにも見当たらないわ」
「わたくしは6歳の誕生日の数日後にレブリアント殿下と婚約しました。そして殿下に裏切られて裁判を受けることなくお父様とお母様も助けてくださることなく生きたまま火刑に処されたのです」
「生きたまま?!」
「わたくしたちが助けなかったというの?!」
「はい。助けてくださいませんでした」
「⋯⋯火刑といえど生きたままなどありえん!!」
「裁判をされなかったので可能だったのです」
父は何度も「ありえん!!」と口にしている。
「現在お母様は妊娠されています」
「なんだと?」
「今はまだお母様がもしかしたら妊娠しているかもしれないと疑っているだけに過ぎませんが妊娠していらっしゃいます。そして今年の年末に男の子が生まれます」
「本当か?!」
父はわたくしの話は信じていないけれど、男の子が生まれるという話を喜んだ。
「本当です。待望の男の子が生まれたことでお父様とお母様の愛情は弟に注がれることになります。そしてはるか先の未来、わたくしへの興味を失ってしまいます」
「そんなことはっ!!」
「そうよ。弟が生まれたからと言ってキャシディーへの愛情が減るなんてことはないわ!!」
「⋯⋯それはもう、いいのです。お父様とお母様がどれほど公爵家の跡取りを望んでいるかは知っていますし、それが理由でもないので」
「キャシディー⋯⋯。私たちはお前を愛しているよ」
それだけは信じてほしいと言うように訴えてくるけれど、わたくしはすでに両親から興味をなくされてしまったという体験をしている。
前は前、今は今なんて割り切れるわけもない。
そういう意味で両親を信じることはできなかった。
「弟が生まれて1年半後にもう1人弟が、そしてその2年後に妹が生まれます。
今まで妊娠しなかった理由は去年亡くなったお父様の母親であるお祖母様にあります」
「はぁ?!」
「お祖母様はお母様のことを嫌っていたことは周知の事実でしょう? わたくしはお祖父様に似て生まれたのでお祖母様には可愛がられていましたけれど、ふとした時に憎まれているのではないかと思うことがありました。
お母様には心当たりがあるでしょう?」
「な、何のことかわからないわ。⋯⋯お義母様が何の関係があるのです?」
母はどこか落ち着きのない態度で聞いてくる。
「妊娠させない薬をお母様のお茶に入れるようにお祖母様が命じていたのです。
そしてそれを実行していたのはお祖母様の侍女だったミルカでした。
お祖母様が亡くなったことでミルカがこの屋敷から居なくなったことでお母様が妊娠できるようになるのです」
「跡継ぎが必要なのに母がなぜそんなことを?!」
母は黙り込んでしまったので少しごまかすように父と会話を続ける。
「お祖母様のお気に入りのデスフェーリ・ジョンカッターノ様を後添いとしてバックウェル家に入れるおつもりだったようです」
「後添いって⋯⋯!!」
「お祖母様はお母様を殺すおつもりだったようですが、お祖母様の寿命のほうが先に尽きてしまい念願叶わないままになってしまいました。
わたくしがこの話を知ったのは前の人生の13歳の時のことです。
お祖父様が体調を崩されたので見舞うことを王家に許されたとき、お祖母様の日記を見つけて知りました。
お祖父様に尋ねたところお母様が憎いというよりかデスフェーリ様こそがお父様の相手に相応しいと思い込んでいたのだそうです。
この話が本当か噓かはお祖母様の日記が見つかれば確認できると思います。
ですがお父様とお母様はお祖母様の日記は読まないほうがいいと思います。
日記を見つけてもお祖父様に渡して読んでいただいて必要な内容だけを教えていただくのがいいと思います」
本当のことと噓を織り交ぜて伝えた。
「肝心のお祖母様の日記の場所を伝えておりませんでしたね。
お祖母様の日記はお祖父様が住んでおられる屋敷の二階の南側、階段から4つ目の部屋のクローゼットの最奥左側の天板が動くようになっていてその中に隠されています」
「信じられん⋯⋯」
「調べていただければわかることなのでこの話はここまでとさせていただきますね。くれぐれもお父様とお母様は読まないようにしてくださいませね」
「⋯⋯ああ。わかった」
「多分今は何を言っても信じてもらえないと思いますので弟が生まれたらわたくしをお母様側のお祖父様の養子にしてくださいませ。
元々子供が何人か生まれたら一人はカリバーサル公爵家に養子にやるというお約束だったでしょう?」
「どうして知ってる?!」
「これからの未来を知っているからです」
「未来を知ってる?!」
「ええ⋯⋯。それと何度も言いますが大事なことなので。
レブリアント殿下との婚約はお断りしてくださいませ。わたくしは20歳という年齢で死にたくはありません。
婚約の申し出のお断り理由としてカリバーサル公爵家に養子に出さなくてはならないからという理由でかまいません。
それ以外の理由でも構いませんのでとにかくレブリアント殿下との婚約だけはお断りしてください!」
両親は顔を見合わせて首を傾げている。
「だがレブリアント殿下との婚約なら名誉なことだろう?
それにこれから子だくさんになると言われてもな⋯⋯。
私たちがキャシディーを愛していることは疑わないでほしい」
「⋯⋯先ほども申した通りこれからは子だくさんになりますからわたくしがいなくなると清々すると思われるようになるのですよ」
「そんなことはありえない!!」
「そうだと、いいですね」
母の顔が引きつっているのをわたくしだけが見ていた。
母の表情を見ながらわたくしは小さく咳払いをして話を続ける。
「とりあえずお祖母様の日記を探してみてください。そして日記が見つかったらレブリアント殿下との婚約は無かったことに。
そして弟が生まれたらわたくしをカリバーサル公爵家に養子に出してくださいませ」
「今はまだ何も約束はできない!! 妊娠しているかもわからないし」
「ええ。今はまだレブリアント殿下との婚約さえ先延ばしでも構わないので6歳でわたくしを婚約させないでくださいませ。
最後に一つ」
父の右腕であるヨルダンにカードと封筒を用意してもらい、そこに弟二人と妹の名前を書く。
カードを封筒に入れてきちんと封をする。
ヨルダンにその封筒を差し出す。
「ここに弟二人と妹の名前と生年月日を書きました。
弟が生まれたらヨルダンが封を切って弟の名前と生年月日がこのカードに書かれている名と同じか確かめてくださいませ。
生まれてからですよ。
そしてその後に生まれてくる弟と妹の名前は伝えないでくださいませね」
「かしこまりました」
ヨルダンは封筒を受け取り懐へと仕舞った。
「お話はここまでといたしましょう。
お父様たちが眠れるかはわかりませんが、4歳児のわたくしの体は限界のようです」
「⋯⋯ああ。ゆっくりと休みなさい」
「ありがとうございます。では失礼いたします。
おやすみなさいませ」
「おやすみ。キャシディー。愛しているよ」
それは今だけのことだと思いながら両親と別れた。
部屋に戻ると汗で濡れていたシーツが交換されていた。
「シーツ、交換してくれたのね。ありがとう」
待機番の侍女に礼を述べる。
「ごゆっくりお休みくださいませ。お嬢様」
「ありがとう」
両親は何も言わなかったけれど翌日の昼から父の姿が見えなくなったのでお祖父様のところに行ったのだと思う。
父が日記を読まないことを願いながら4歳児であるわたくしに課されている日常を過ごした。
母はわたくしに話しかけようとするけれど何を言っていいのかわからないという風で言葉を掛けずに頭を一つ撫でるだけで立ち去るということを繰り返している。
三日が経ち、父がお祖父様のところから帰ってきた。
青ざめた父の顔を見てどこまで知ってしまったのかわからないまま応接室に呼び出された。
わたくしと母が横に並んで座り、父は正面に座った。
「⋯⋯キャシディーが言っていた場所に母の日記が隠されていた。
私はその日記を読もうとしたのだが父に止められてしまい日記は読めなかった」
母は細く長い息を吐きだした。
わたくしはぐっと堪えた。
父は数瞬ためらった後に話を続けた。
「キャシディーが言った通り母がミルカに命じてエリシュリーノに妊娠させない薬を飲ませ続けていた」
母が小さな悲鳴を上げ両手で口元を押さえた。
「エリシュリーノ。すまない。まさか母がそんなことをするなんて思いもよらなかった」
「⋯⋯いいえ。⋯⋯いいのです⋯⋯」
母がお祖母様を責めることはできないでしょうね。
お祖母様はわたくしが父の子供なのか叔父様たちの子供なのか、はたまたそれ以外の誰かの子供なのかと疑い続けていたのだから。
お祖父様に似ていたので父か叔父たちの子だとは思っていたけれど、今後生まれる子が誰の子か信じられないのだから母の妊娠を嫌うのは当たり前だったと思う。
母は前の人生では気の多い女性だった。
妹が生まれた後、両親はもう子供を作らないことに決めた。
お祖母様が母に飲ませていた薬を自主的に使うようになって母は父を裏切ることに躊躇いを見せなくなった。
それまではバックウェル公爵家以外の血はまずいくらいの認識で母は叔父たちと関係を持っていた。
だからわたくしと弟妹たちの父親はだれかわからない。
枷が外れた母は父にばれないようにうまくやっているつもりだったのだろうけど、父は母の裏切りにすぐ気が付いてしまった。
そして母と叔父たちとの関係も知ってしまう。
バックウェル公爵家の顔立ちはしているけれど、父よりも叔父たちの誰かに似ているわたくしと弟妹たちのことを自分の子供ではないのではないかとすぐに疑い始めることになる。
母にもわたくしと弟妹たちが父の子なのか叔父たちの子なのかわからないのだと思う。
実子であるか調べる方法はあるけれど、父と叔父では血のつながりがあるためどちらの子なのかまでわかる判定はできない。
父はわたくしと弟妹たちのことを疑って疑って、わたくしたちへの興味を失ってしまった。
弟妹たちが父や叔父たち、祖父に似ているので血筋には間違いないのだろうと長男のエルバンドを跡継ぎに選ぶけれど子育てには一切興味を持てなくなり外に安らぎを求めるようになった。
そこでも子供が生まれるのだけどその子は父の子ではないと直ぐに判明してしまう。
それからの父は誰か一人を大切にすることはなくなり、女性とは一度だけと割り切った関係を続けることになる。
母も父が顧みなくなってから歯止めを失ったように一夜の恋を繰り返す。
本当に似た者夫婦だと思う。
前の人生では悩んで苦しんだけれど、今回の人生では両親のことで苦しむのはやめることにした。
自分の身の保身に全力を傾けることにする。
前の人生では弟妹たちとも距離があった。
誰もわたくしのことを心配してくれなかった。
「お父様、わたくしの婚約の件はお願いしますね」
「だが、レブリアント殿下と婚約すればキャシディーは王妃になれるんだぞ?!」
「お忘れですか? わたくしはレブリアント殿下と婚約すると20歳で火刑なんですよ」
「⋯⋯そう言っていたな。
だが⋯⋯」
「お父様のお考えはわかりますが、火刑にされる娘がいる家が繫栄すると思いますか?」
「それは⋯⋯!!」
「少し考えればわかりますよね?」
「そうだな⋯⋯。⋯⋯だが未来は変わるかもしれないだろう?!」
「そうですね。変わることはあるでしょう。けれどレブリアント殿下と婚約すればわたくしが火刑になることは変えられません」
「そう、なのか?」
「わたくしの今後の話をしても長いだけの話になってしまうので話すつもりはありません」
「わかった。王家からの婚約の申し出はお断りしよう」
「お願いします。弟が生まれたら養子の件もご検討くださいませ」
「考えて、おく」
前の人生と同じ日、同じ時間に同じ名前、エルバンドという弟が生まれた。
ヨルダンに渡した封筒の封が開けられ誕生日と名前が一致したことが両親に伝えられた。
その一年半後にはドリスタンという名の弟が生まれ、そのあとセレナーディという名の妹が生まれた。
ヨルダンはセレナーディに名がつけられた後わたくしが書いたカードを両親に見せた。
誕生日も名前も同じで疑っていたわたくしの話を信じるしかなくなった。
けれど今はまだわたくしに向ける父の愛情は薄れていない。
そのためにわたくしを養子に出すことを躊躇していた。
わたくしは母方の祖父に両親の結婚時の約束通り、わたくしが養子になると手紙を送った。
祖父はそれを喜んで受け入れてくれた。
本当のところ下の弟が欲しかったのだろうけど、わたくしで納得してくれるようだった。
母方の祖父が屋敷にやってきて養女の書類を父の目の前に置いた。
わたくしのサインはもうしてある。
両親と祖父の間で何度も話し合われ、両親もわたくしが養女になることを認めた。
バックウェル公爵家を出る最終日に母に二人だけで話があると声を掛けた。
「お母様たちがすでに話し合って子供を作らないと決めたのかどうかは知りませんが、弟妹たちのことが可愛いと思うのならば叔父様との関係も、そのほかの方々との関係も終わらせたほうがいいですよ」
母が息を呑んだ。
指先が微かに震えている。
「なぜ? と聞いても、いいかしら?」
「お母様は子供を作らないと決めてからお父様だけでは満足できなくて多種多様の方々と関係を持たれます。
今までのように叔父様たちだけでは我慢できなくなるのです。
お母様はお父様にばれることはないと高を括りますが、お母様の浮気は三人目でばれます」
母の反応は無視して話を続ける。
「叔父様たちとの過去のこともばれて、わたくしたちきょうだいの父親はだれなのかとお父様は疑いを持ちます。
実際わたくしたちきょうだいは叔父様たちの子なのかお父様の子なのかお母様にすら判別できないでしょう?
わたくしたちきょうだいが誰の子なのかお母様は答えられますか?
お母様の浮気からバックウェル公爵家は石が坂道を転がるように傾いていくことになります。
お父様も浮気するようになり、いろいろあってお父様は人間不信になりわたくしたちが誰の子かと疑い続けることになります。
今、ここで踏みとどまれば上辺の平和は保たれます。
ですがお祖父様はわたくしが息子たちの誰の子かわからないということを知っています。
多分弟妹たちの父親のことも疑っているでしょう。
お祖父様はお父様と叔父様たち誰かの子供だと思っているので今は黙っていますが、これから先の未来はわたくしが養子に出るという形に変わってしまうのでわたくしにもわかりません。
どうぞ平穏を、弟妹達のことを思うのなら浮気はされないほうがいいと思います。
わたくしはバックウェル公爵家という泥船からさっさと逃げ出させていただきます。
お母様が浮気をするかどうかでこの家の未来が決まることだけは知っておいてくださいませ。
わたくしの話は以上です。
では失礼いたします」
母は呆然としたままわたくしを見送った。
跡取りのいないカリバーサル公爵家の養女になってわたくしは平穏な日々を暮らしている。
レブリアント殿下はブルースター侯爵家の次女アンジェリカと婚約している。
何の感慨もなくアンジェリカがわたくしの代わりに火刑に処されるのだと黙って見ている。
関わってもいいことなどないことは嫌というほど知っている。
レブリアント殿下は前の人生と同じようにピンクの髪でピンクの瞳を持つ男爵家の娘、ビアンカ・ジャニケットにご執心のようだ。
アンジェリカはわたくしとは違いビアンカに直接的な嫌がらせをしている。
嫌がらせを何もしなかったわたくしは火刑だったけど、直接的な嫌がらせをしているアンジェリカはどんな刑罰が下されるのだろう。
わたくしは遠く離れたところで婚約者のフェリチーノと仲睦まじくしている。
前の人生でフェリチーノはアンジェリカの婚約者で仲睦まじくしているのを羨ましく見ていたものだ。
そのフェリチーノがわたくしの婚約者で満足している。
入り婿になるので祖父、今は養父がフェリチーノのことを調べつくしている。
養父は何も心配することはないと請け負ってくれているのでわたくしは何も心配していない。
前の人生ではレブリアント殿下から贈り物一つ頂いたことがなかったけれど、今はたくさんの想い出ある品々に囲まれている。
母は浮気をしなかったのか弟妹たちと父の仲は良いようだ。
弟妹達が時折遊びに来て両親の仲がいいことを話してくれる。
わたくしから両親に会いに行くことはない。
父から不満の手紙が届くけれど関わりたくないという思いでいっぱいだ。
学園を卒業して一年間交流を深めてわたくしとフェリチーノは結婚した。
フェリチーノはカリバーサル公爵家を養父の力を借りつつ上手く回している。
養父から個人的に使える人材を引き継いだ。
とっても有能でこの人たちがいればフェリチーノに何かあってもわたくし一人でもカリバーサル公爵家を動かしていくことはできるだろう。
20歳の誕生日前に男の子を生んだ。
養父はカリバーサル公爵家の跡取りが生まれたと大喜びだ。
運命のわたくしの20歳の誕生日が来た。
アンジェリカは何事もなく生きていた。
何事もないというのは違う。
レブリアント殿下からはまるで相手にされていない。
愛されているのはビアンカ。
アンジェリカの誕生日の日が来て、わたくしは子供が生まれたばかりという理由で王家主催のアンジェリカの誕生会を欠席した。
フェリチーノは必要な挨拶を済ませるとすぐに帰ってきた。
わたくしの時と同様に陛下御夫妻と宰相夫妻は外交で国を留守にしていた。
レブリアント殿下を止められる人はこの国に今はいない。
養父が真っ青な顔をして帰ってきたけれど「お疲れのようなのでお休みください」と養父を部屋へと送った。
翌日、朝食の後話があると養父に言われフェリチーノと二人で養父の執務室へと足を運んだ。
前世のわたくしと少し違ってアンジェリカはレブリアント殿下に責め立てられ顔を切り裂かれてそのまま庭に連れ出されてアルコール度数の高いお酒を浴びせかけられ火を付けられた。
熱さでのたうち回るアンジェリカをレブリアント殿下とビアンカは指を差して笑っていたそうだ。
あり得ないほどの噂話が貴族、平民の間を駆け抜けていたけれどレブリアント殿下とビアンカは何事もなく過ごしていた。
陛下夫妻と宰相夫妻が外交を済ませて帰ってきた。
レブリアント殿下とビアンカのしたことをブルースター侯爵から聞かされ陛下は激怒されたと噂話で聞いた。
陛下はアンジェリカがしたこと、レブリアント殿下とビアンカがしたことを詳しく調べたそうだ。
アンジェリカは無実とは言えないが、侯爵令嬢が男爵令嬢にしたことだと考えるとそれほどの罪ではないと陛下は判断されたらしい。
レブリアント殿下をビアンカの男爵家に入り婿にすることを決めたそうで、結婚式もなくいつの間にかレブリアント殿下はジャニケット家に婿入りしていた。
フッとわたくしが死んだ後も同じだったのだろうか? と頭をかすめたけれど知りようのないことに頭を悩ませても仕方ないことだと思い考えるのをやめた。
両親からわたくしとレブリアント殿下の婚約を結ばなくてよかったと手紙が来た。
その手紙には孫の顔が見たいと書かれていて一週間後に訪問するとも書かれていた。
来たいならくればいいと装飾した言葉で返事した。
父たちの到着を告げられ応接室に行くと両親と弟妹、二人の叔父がいた。
父と叔父たちをみてどの人が父親なのだろうと考えたけれどその答えは一生見つからない。
弟妹も大きくなった。
父が弟妹に愛情を注げなくなってももう問題はないだろう。
それにわたくしにはもう関係ないことだ。
声のあらん限り叫び声をあげて飛び起きた。
荒い息を吐き、体中から汗が噴き出していた。
ノックもなく扉が開かれ入ってきたのは優しい父、マックス・ブルースター侯爵だった。
「アンジェリカ!! どうした?!」
荒い息が整わないまま父に抱き締められる。
「お父様⋯⋯」
たくさんの方に読んでいただきありがとうございます。
久しぶりに表紙に入れたと喜んでいたら日間で一位になれました。
皆様のおかげです。
これからも書いていこうと思えました。
心よりの感謝を⋯⋯。




