ケイヤク。
よろしくお願いします。
この妖精(てか武器?)にお願いすればいいんだよな。
「えっと、俺の武器になってください」
これでいいのか?
『………………』
なんだ?この沈黙は。
「ふふふ、ばっかじゃないの」
は?あれじゃダメだったのか。ソフィアがお願いしろって言うから、お願いしたんじゃないか。てかその話し方はなんなんだよ、いつもなら敬語で話すのに。
「何が違うんだ?」
「契約呪文、いってないじゃん。あはははは」
契約呪文?そんなの聞いてないぞ。恥じかかせやがって。
「てか、何?その話し方。お前、ソフィアだよな?」
「私はソフィアよぉ。あと、この話し方は気にすることないってぇ」
いやいや、気になるよ。普通。
「私、血を吸うとテンション上がるんだよねぇ」
さすがヴァンパイア。でもその変わり様は異常だろ。
「で、契約呪文だっけ?教えて」
「いいよぉ。うんとねぇ『妖精よ、我が名はジル。我と契約を交わし、我がものとなれ』って言えばいいんだよぉ」
酔っ払ったみたいな話し方の割には、呪文のとこだけははっきりしてたな。えっと、その呪文を言えばいいんだな。
「妖精よ、我が名はジル。我と契約を交わし、我がものとなれ」
いいんだよな、これで。
「我が名は妖精2。その契約、お受けいたしましょう」
「我が名は妖精98。その契約、受けよう」
最初に剣が、次にピストルがしゃべった。そのとたん、俺はうなじにかなりの痛みを感じた。それからは覚えていない。というか、気を失っていたようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
小さくうなり声をあげて重たいまぶたを開く。まず見えたのは白い天井とシャンデリアだった。見覚えのある風景。アリスのとこに戻ってきたのか?
「大丈夫ですか?」
そう言って俺の顔をのぞきこんだのはソフィアだった。
「ああ。でも、俺はさっきまで牢獄に……」
どうやって戻ってきたんだ?あんなとこから。
「気を失ってしまったようでしたので、私がここまで運んできました」
運んできたって、よく運べたな。って、ヴァンパイアだからか。あの扉を開けたときみたいに力使ったんだろうな。
「ありがとな。でもなんで俺は気を失ったの?」
「契約を交わしたからですよ。妖精と契約を交わすと体にかなりの負担がかかるので」
あ、じゃあうなじが痛んだのもそのせいか。てか俺なさけなすぎだろ。それくらいで気を失うなんてな。
「じゃ、俺は契約に成功したんだ?」
「はい。無事成功いたしました」
よかったぁ。てか話し方、また元に戻ってるじゃん。やっぱソフィアと言えば敬語だよねな。
「で、その妖精は?」
俺が聞くと、ソフィアはだまってどこかへ行き、2人を抱えて戻ってきた。
「おお、これが俺のパートナーか。よろしくな」
俺は2人に握手を求めた。
1人は緑系の服を、もう1人は赤っぽい服を着ていた。まさにクリスマスカラーじゃないか。んにしても、やっぱり目つき悪いなあ、こいつら。いじめっ子って感じだな。
「はい」
緑が答える。
「おう」
こっちは赤。
そっけねぇ。ま、とりあえず名前でも聞いとくか。
「なぁ、おまえら名前はなんていうんだ?」
「妖精2です」
と緑。
「妖精98だ」
と赤。
それ、名前だったのか。番号はさすがにおかしいだろ。
「じゃあさ、俺が名前付けてやるよ」
どうするかな。う~ん……。『みどり』と『あか』じゃ可哀想だよなぁ……。英語で『グリーン』と『レッド』とか?単純すぎっていうか、俺センス無さすぎだろぉ……。
「あの、必死に考えているところ悪いのですがあと30分で12時ですが。アリス様のところに行かなくてもよろしいのですか?」
やばっ!早く行かなきゃ!
「アリスはどこ?」
「屋上だと思います」
「屋上って何階?」
「最上階」
んなこと知ってるっつーの。
「だから何階だよ?」
「78階」
「エレベーターはどこ?」
「ありません。階段で行くしか……」
は?金持ちならエレベーターくらいつけろよ。しかも階段?ざけんなっ。
「私が連れて行きましょうか?私も行くので」
連れてくって、どうせ階段に変わりはねぇだろ。
「私の力なら10秒あれば行けますが」
あの、見えない力を使ってか?
「頼む!!!」
「はいっ!」
威勢良く返事をするとソフィアは俺を抱えて急上昇。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ」
情けなくも、絶叫してしまった。今まで乗ったどんなジェットコースターよりも怖かったし、早かったと思う。
速度が落ちたのを感じてぎゅっとつむっていた目を開くと、そこはもう屋上だった。
「アリス!!」
「アリス様!」
俺たちは急いでアリスの元へ駆け寄った。
「おそいわ。どうしたらこんなに遅くなるのよ!」
いろいろあったんだよ。契約交わして、気失って……。
「申し訳ありません!」
「悪い」
肩で息をしながらも頭を下げる。
「で?もちろんもう戦えるようになったのよね?」
「ああ」
もちろんさ。
「妖精を使うことにした。こいつら」
俺は手に抱えていた妖精をアリスに見せた。我ながら落とさなかったのはすごいと思う。あんなスピードの中で。
「ふ~ん。で名前は?」
いや、それは俺も考えたんだけどピンとくるのが無くてさ。って、そんな「もう決まってるんでしょ」みたいな目で見ないでくれ。
「えっと、『グリーン』と『レッド』?」
ごめんよ、妖精たち。
「ジルにしてはなかなかいい名前ね」
いい名前なのか?アリスの趣味はよく分からん。
「うぅ、ひっく、ぅぅぅ」
ん?レッドとグリーン、泣いてんのかよ。まあ、そりゃ嫌だよな。服の色で呼ばれるのなんて。だから悪いって……。
「あのさ、名前なんだけどごめ……」
「ありがとうございます!」
「嬉しいぜ」
は?なに?喜んでんの?あの名前で?不思議な奴らだ。ま、喜んでもらえたならいいか。
俺は新しい仲間と共に戦いの始まりを、12時を迎えようとしていた。
ありがとうございました。次回、いよいよレジームゲームが始まります。どうぞお楽しみに!よろしくお願いします。
今回も読んでいただきありがとうございました。