パーティー。
「ジル、靴を磨いておいて」
「はい……」
今日も元気に下僕やってます。
にしても「靴磨き」って、つまんなすぎだろ。
下僕の制服とやら(案外立派。)を身に付けて、布巾を片手にガラスの靴と格闘中。もともとピッカピカな新品の靴をどう綺麗にしろってんだよ。
―――それから1時間
「行ってくるわ」
アリスが玄関へ来たときには従業員皆が、奇麗に整列していた。その数ざっと100人! 下僕は俺だけみたいだがな。
「いってらっしゃいませ。」
俺も列の端に並んでぎこちなくおじぎする。
どこに行くのだろうと思っていたら、タイミングよく隣に並んでいたでっかい男の従業員が教えてくれた。まるで俺の心を読んだかのように……。
「アリス様は叔父のシャール様の家で行われる舞踏会へ行くのです。」
舞踏会ってマジであるんだな。きっとご馳走がいっぱいなんだろうな。俺も行きてー。
「下僕などの分際で舞踏会なんて行けるわけがありませんよ。」
ああ、やっぱり。って、なんでお前……。エスパーか? さっきから気持ちわりぃ。
「勘だけはよろしい様ですね。気持ち悪いとは失礼ですが」
こ、こいつ、マジでエスパーだ。てか、ごめんなさい、酷いこといって……。
「いえ」
それっきり男は黙ってしまった。
やっぱり、ここは魔界なんだなぁ。エスパーいるし。
「う、うあぁぁぁぁあああああ!!!」
耳を劈くような悲鳴。
どうしたんだ?
悲鳴がしたほうで何があったのかは俺の居るところからは見えないが、従業員達のざわめきが広がる。
「ドクターを呼んできて」
アリスのキリっとした声が響く。
アリスの指示で人だかりが徐々に無くなっていった。
そして、見えたんだ。
アリスの護衛の横たわる姿が。口からたくさんの血をはいた護衛の目には、もはや生気など欠片も無かった。
殺しても死ななそうなほどに頑丈な体つきの男が、目の前で死んだ。
よくある事なのか? なんて恐ろしいとこなんだよ、魔界って。
「あたしはパーティーに行かなくてはならないわ。代わりの護衛が必要よ、誰かいないのかしら?」
皆、口をぎゅっと結んで、首を縦に振らない。
まぁ、仕方ないよな。こんなことがあったんだから。
まるでアリスがパーティーに行くのを拒むかのように護衛が殺されたんだ。だから、アリスの護衛をしても生きて帰ってこられる保障なんて無いんだろう。
「まったく、誰もいないの? じゃあ、ジル。あんたにする。早く来て!」
「ふぇ?」
舞踏会の護衛に下僕を連れて行くなんて、聞いたことねぇぞ。
俺は驚きのあまり、間抜けな返事しかできなかった。
俺は、行かなきゃいけないんだよ、な?
アリスは馬車に乗っていた。馬車って、時代遅れじゃねぇか? でも父さんのワゴン車よりもずっと高そうだ。
ふかふかのソファに、やっぱりここにも小さなシャンデリア……。金持ちなんだな。
「乗って!」
俺はアリスの向かいのソファに腰をおろした。
「アリス……様。なんで俺なんですか?」
やっぱり敬語は難しい。
「従業員には人権が有るんです。強制はいけませんので」
アリスの隣のソフィアが変わりに答えてくれた。
つまり、下僕の俺ならどんなコトだって強制できる。ってことか……。
「ジル、護衛の服に着替えなさい」
俺はアリスに渡されたソレに別部屋(馬車なのに5部屋はあるらしい)へ行って着替えた。さっきの護衛とおそろいの黒のタキシード。
死体とおそろい……。
あまりいい気はしないが仕方ない。部屋にあった鏡に自分の格好を映してみる。自分で言うのも悲しい気がするが、ぎこちない。少なくとも護衛には見えないな。
つか、舞踏会に中学生の餓鬼連れてくってどーよ。
馬車の揺れが止まった。どうやら着いたようだ、舞踏会会場に。
「ジル。よ、よろ……し、く」
アリスはそっぽを向いて言った。
アリスはお姫様だから、きっと人に物を頼むのが苦手なんだろう。それなのに、俺のために頑張って言ってくれたんだと思うと嬉しかった。自惚れすぎかもしれねぇけど、こんくらい思わないと正直下僕なんてやってられないぜ。
「任せてください、アリス様」
それっぽく言って、白い手袋をはめた拳を胸にあててお辞儀してみる。
あからさまに「馬鹿じゃない?」みたいな視線をアリスに向けられたけど……
今日だけは立派な護衛になってやる!!!
―――――――だから、元の世界に、人間界に帰らせてくれよ……
読んでくれて有難うございました。これからもよろしくお願いします。




