下僕ライフ。
よろしくお願いします。
「それは、貴方を新しい下僕にしようとしていたからです」
俺が、下僕?
下僕って、あの下働きの可哀想な男か?
は?意味わかんねぇよ……。
「俺はな、ひとりの人間だ。人間には人権が有るんだぞ。発言の権利も有るんだぞ」
だから、俺は下僕なんかに……
「貴方は『下僕』なのです。下僕には何の権利も、人権もありません」
人間以下ってことかよ。ふざけんなっ。
「下僕になるのが嫌なの?」
偉そうなアリスの声。
「当たり前じゃねぇか」
普通そうだろ。
「あたしみたいな高貴な貴族の下僕になれるなんて幸せなことなのよ。嬉しいことなのよ」
自意識過剰っていうんだぜ、あんたみたいな人。
「断る」
これが無難だよな。俺は早く人間界に帰って夏休みを満喫するんだから。
「じゃあ……」
なんだ?
俺がアリスのほうに顔を向けると、そこにあったのはあの奇麗に整った顔じゃなくて、恐ろしいモノだった。
細くて、銀色で、シャンデリアの光を浴びて輝くモノ……剣。
「死んで」
おい、待てって。
「待ってくれ。ちょっと考えさせてくれないか?」
こんな簡単に死ぬのはイヤだぜ。つか、俺死んだんじゃねぇの? それとも、人間界では死んだけどこっちの世界では生きてるみたいな感じか?
「考える? 働くか、死ぬかを?」
「ああ。少し時間をくれ」
アリスの目が怪しく光を帯びる。
「敬語!!」
剣を振り上げるアリスは生き生きしていた。
メイドといい、アリスといい……魔界では殺人はいいことなのか?
「えっとぉ。少し時間を下さい」
「いいわ。10秒よ!10、9、8……」
短すぎだろ。俺はどうすればいいんだ?
「はい、タイムアップ。で?」
「殺して……」
死んだ方がましだ、本物の天国に行ってやる。下僕なんて有りえないかんな。
・・・
「え?殺してもらうなんてイヤ? 下僕になる? あら、そう」
酷い。こいつ、死なせてもくれねぇのか……。
人の話も聞いてくれねぇのか……。つまり、俺は姫様とやらの”下僕”になるってことか。
「そういえば、貴方。名前は?」
聞くの遅くね?
「月方 京也」
「ツキガタ キョウヤ?ふ~ん、じゃあ貴方のことは『ジル』と呼ぶわ」
ジル?
なんで?俺の名前「じ」も「る」入ってねぇし。
「あたしの一番最初の下僕の名前よ。いい黒猫だったわ。ちなみに貴方は315代目の下僕よ」
下僕、多すぎね?てか、俺は黒猫の名前で呼ばれるのか……。
「ソフィア、ジルに『下僕の10か条』を教えてやって」
「かしこまりました」
『下僕の10か条』ってなんだ?めんどくさそう……。
「ジルさん、しっかり覚えてくださいね。
第壱条、アリス様とは敬語で話す。
第弐条、アリス様の指示にはかならす従う。
・
・
・
第十条、アリス様を守ること。」
長すぎだろ、覚えらんねぇよ。俺はな「五箇条のご誓文」が限界なんだよ。
―――――――――こうして俺の『下僕ライフ』は幕をあげた。
読んでくれて有難うございました。