サクセンカイギ
またまた遅くなってしまい、すみません。。
「ウィーヴァルということは……犯人はグランお兄さまでほとんど間違いないわね」
そう言ってアリスが目を輝かせる。犯人に近づけたのがよっぽど嬉しいんだろうな。
「ノーム、ウィーヴァルの詳細を説明してくれるかしら?」
もう悲しそうな目もしてないし、いつものアリスに戻ってる。
「いいじゃろう。ウィーヴァルは現在グランの率いる部隊に属しておる、魔術師じゃ。他人の体の中に入り込む能力を持っておる」
人の体に入り込む?どういうことだ??
「ノームさん、もう少し分かりやすく説明していただけますか?おそらく、ジルが理解できていないので」
悔しいけど、ソフィアの言うとおりだ。第一、人間界じゃ”人の体に入り込む”なんて表現めったに使わねぇし。
「まったく……仕方ないのぉ。つまり、ウィーヴァルは他人の体の中に自分の魂を送り込んでその人物を操ることが出来るのじゃ」
呆れた表情をして、たまにため息を付きながらもノームは俺にも分かるように説明してくれた。にしても、やっかいな能力だな。結界って魂の侵入も防げるもんなのか?
「あんな気持ち悪い奴の魂を自分の中に入れるなんて……そんなこと、私は絶対させません!気持ち悪すぎですよ!」
ソフィアって結構毒舌だよな。ウィーヴァルだっけ?あいつもこんなに女の子から気持ち悪いって言われるなんて可哀想な奴だ……。
「ウィーヴァルってそんなに気持ち悪い奴なのか?」
俺、この前会ったときはあいつの顔見てねぇんだよな~。声しか聞えなかったし。
「ん~いつも仮面を付けていて、誰も素顔を見たことなんて無いわ。だから見た目は何とも言えないのだけど、性格が気持ち悪いのよ」
性格?うっわぁ。性格が気持ち悪いとか最悪じゃねぇか。俺だって性格が気持ち悪いなんて言われたこと無いぜ?つかアリスにまで言われてるし。
「そうですよ!仮面オタク&ナルシストなんです!ちなみに口癖は「この美しき仮面は世界一美しい我のために存在しているのだろう」です。たいして奇麗でもない仮面をあそこまで褒められる神経が私には理解できません。それに、仮面なんて誰が付けても似たようなものじゃないですか!」
ソフィア……。ウィーヴァルにそんなにも恨みがあるのか?ま、敵だしな。つかあいつ、マジで気持ち悪いんだな。”性格が気持ち悪い”の意味が分かったような気がする。
「で?ノーム。あいつの弱点は?」
「うむ。あいつは精神的に弱っている者の体にしか入り込むことができぬのじゃ。それが奴の弱点かのぉ」
ってことは、今まで殺された人たちはみんな”精神的に弱ってた”ってことか?じゃ、ソフィアが目を付けられたのも精神的に弱ってる……から?
「ソフィア!なんか悩みでもあんのか??」
「は?なんでそんな話になるのですか?」
キツイ口調に少しびっくりした。ウィーヴァルへの恨み?を俺にぶつけるのは止めてくれ。
「確かにそうね。何かあってからでは遅いわ。何か不満でもあったら言って?ソフィア」
珍しく優しい口調のアリスにソフィアは目を大きく見開いた。
「いえ。そんな……アリス様のお傍にいられるだけで私は幸せです!」
必死に訴えようとするソフィア。でもきっとソフィアのアリスに対する気持ちはアリス自身が一番よく分かってるんじゃないかな。
「ありがとう。でも貴女だってやりたいことはあるでしょう?どんな小さなことでもいいわ。この際、言ってくれないかしら?」
アリスってこういう優しいところもあるんだな。たまにはこういうのもいいかもな。
「えと、では……そのぉ…………」
何か言おうとしてるな。てっきりソフィアのことだから「アリス様のお傍にいられるだけで私は幸せです」で通すのかと思ってた。アリスも俺と同じだったみたいで、驚いたような、嬉しそうな表情をしている。
「何?あたしだって貴女に頼ってばかりじゃいられないわ」
優しくほほ笑むアリスに、ソフィアは気まずそうにしている。
「あの、私、アリス様を……笑わせたいです!」
ソフィアは頑張って言ったんだろうけど、その場にいた皆はポカンとしている。もちろん、俺も。
「笑わせたい?」
アリスも予想外だったようでソフィアに聞き返す。
「はい!最近はアリス様の笑ったお顔を見ていないので。私などがアリス様を笑わせるなど、やっぱり……」
どんどん声が小さくなっていく。アリスの前ではやけにネガティブだな……
「ふふ……あははははは!」
アリスは一度驚いたような顔をして、いきなり笑い出した。
「ソフィア、ふふ…もう十分笑わせてもらったわ。貴女、私とは関係ない欲望とかは無いの?……ふふ」
よく分からないが、笑ってくれたアリスにソフィアも自然に笑顔になっていった。俺もたぶん、いま笑っていると思う。大切な女の子たちの、自然な笑顔を見ることが出来たのだから。もしかしたら今日、初めて見たかもしれない。
考えてみればアリスもソフィアも人間界だったら中学生か高校生くらいだろ?友達とわいわい騒いでる年頃だろ?そんな子が心から笑えないような環境なんて俺は嫌いだ。2人からずっとこの笑顔が消えないといいな。なんて俺らしくもないことまで思っちまった。
これから起こることとは裏腹に、アリスの城には平和な空気が漂っていた。
読んでいただき、ありがとうございました!
次回、ウィーヴァルが登場するはずです。よろしくです。