マリンヌ。
遅くなってしまい、本当にごめんなさい!今回もよろしくお願いします。
「今日は合同授業ですので、皆さん魔術室にお集まりください」
魔術室とは兄弟全員で授業を行う際に使われる部屋だ。丈夫に作られているため、大規模な魔術を使うことができる。魔力は規模が大きいほど、時間の流れに歪みを生じさせたり物を破損したりしてしまうリスクが高まるのだ。それに耐えうる唯一の部屋がこの部屋と言うわけである。
「授業くらい一人でゆっくり受けたいものです」
「あ~あ、めんどくせぇ。オレはさぼる♪」
「よしっ!がんばろーなっ!」
「わたしも今日はがんばる~」
「騒がしいわね……」
みんな様々な言葉を口にする。分かるとは思うが上から順にレザン、グラン、モネ、ファリーヌ、そしてアリスだ。あと、もう一人……
「合同授業なんて、そんな低レベルなことやっていられませんわ。でも仕方ないので今日は低レベルな皆さんに付き合ってあげますわ」
偉そうなことを言って、偉そうに「おーっほほほほ」と高笑いするのはレジーム家の長女・マリンヌだ。
この声だけを聞けば派手なイメージがうかぶが、実際はそれとはかけ離れた姿をしている。まず目立ちたがりの彼女らしい金髪。そこまではいいが他は三つ編み&メガネの地味で真面目な格好で服装も白いワンピース。しかもそのワンピースには何の飾りも、フリルさえも無いのだ。性格とは矛盾した容姿に大抵の者は驚く。
そもそも彼女がこんな格好をしているのにはわけがある。「学校とやらで一番偉いのは委員長だと聞いたわ。その人は三つ編み&メガネのイメージが強いらしいのよ!だから一番偉い私もそうしたほうが威厳があると思うのよね」と言う風にいつも力説している。まあ、それに共感できる者はかなり少ないのだが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こほん、今日は拡大魔法の試験を行います。皆さん、順に教卓まで来て好きなものに魔法をかけてみて下さい」
教授と呼ばれる白ひげの老人が言う。それを聞いて一番に教卓に向かったのはレザン。優秀な彼はもちろん成功する。次はマリンヌ。
「私はこのジュエリーを」
ネックレスについている琥珀色の小さな宝石を無理やりちぎり取る。
「拡大魔法ですわ!!」
高い声で叫んだとたん、宝石がむくむくと膨らんでいく。ビー玉サイズからどんどん大きくなっていき、マリンヌの身長を越してもまだ止まらずに膨らみ続ける。彼女の魔力は兄弟のなかでも一番優れている。しかし、それを自分で制御しきれないのだ。
「皆さん、非難してください!」
教授の声でその場にいた全員が教授と膨らみ続ける宝石を残して部屋を出て行く。アリスは教室の前で固まっているマリンヌの手を取ってなるべく遠くに逃げる。魔術室といえど、制御できる力には限度があるのだ。ある程度離れたところで足を止める。
「お姉さま、大丈夫ですか?」
「え、ええ。私を誰だと思っているの……」
言ってることとは裏腹にマリンヌは脅えきった様子だ。
「お姉さまの力は人より優れています。だからこそ、それを受け入れて扱わなければダメなんじゃないでしょうか?」
「私だって頑張ってるわ!私は長女ですわ…だから、出来ないことなんて……」
震える声のマリンヌにアリスは優しい声で言う。
「みんな分かってるわ。お姉さま、いつも夜遅くに魔術室で魔法の練習しているでしょう?」
温かい笑顔でほほ笑むアリスは少し、大人びた表情をしていた。
「ど、どうしてそれを?私としたことが情けない……」
マリンヌは唇を噛み締め、悔しそうにうつむく。プライドの高い彼女にとって必死に頑張る姿を見られたのはかなり屈辱的だったのだろう。
「あたしはお姉さまを尊敬してるわ。必死に頑張るお姉さまは偉いもの。でも、それを隠そうとするお姉さまは好きじゃない」
アリスは自分と同じくプライドの高いマリンヌに親近感を抱いていた。だから、その所為もあってかマリンヌの前では少しだけ素直になれた。
「アリス、ありがとう」
それはマリンヌも同じらしい。
「いえ」
2人は視線を交え、温かくて柔らかな笑みを浮かべる。意地っ張り同士だからこそ自然につくれた表情……。それは他の兄弟には見ることが出来ない、特別なものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――――数日後、マリンヌの部屋にて……
「お姉さま、教授が魔術室に今すぐ来るように言ってるわ」
アリスはさっき廊下を歩いていたら偶然、教授と会ってマリンヌに伝言を頼まれたのだ。
「この私がどうしてあんな白ひげのためだけに歩かないといけないのよ。アリス!どうしても話がしたいなら自分で来るように伝えなさい!」
いつも通りの偉そうなマリンヌに少し安心しつつも、アリスは思い足取りで白ひげこと教授の元に向かった。
読んでいただき、ありがとうございました。姉妹愛(?)をほのぼのした感じで書きたいと思いこんな風になりました~。どうだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。