ファリーヌ。
更新、また遅れてしまってごめんなさい。
さて。今回は三女のファリーヌが登場します。よろしくお願いします。
「アリスちゃ~ん。遊ぼうよぉ」
朝早くからアリスの部屋に侵入し、甘えた声でアリスの睡眠を妨害しているこの人物こそがレジーム家の三女・ファリーヌである。
「いま何時だと思ってるの?起こさないでくれないかしら」
アリスは布団から顔を出すとファリーヌをキッと睨みつけた。
「いまは4時32分だと思ってるよぉ。少なくともぉ、わたしの時計ではそういう事になってるのだけど……」
ファリーヌは腕時計を外すとアリスに突きつける。たしかにその時計は4時32分を指していた。
「早すぎるわ。あたしは6時になったら起きるから他の人と遊んだ方がいいと思うわよ」
ファリーヌは首を傾げたかと思うと、急に難しい顔になって何か考え始める。そしてアリスが再び眠りに付こうとした時だった。
「わたしはぁ、今日はアリスちゃんと遊びたいからぁ、6時になるまでここでアリスちゃんを見てるよ。だから寝てもいいよ?」
そう言ってファリーヌはアリスのベッドの横にちょこんと座った。しかしアリスの方はと言うと、
「見られてちゃ眠れないわよ。出て行ってくれるかしら?」
さっきにも増して目を吊り上げたのだった。
「ああ、それならいいわぁ。わたしのことなんてぇ、気にしなくてもいいわよぉ~」
アリスはファリーヌのことが好きではなかった。無神経で天然で甘え上手で人懐っこくて。アリスとは真逆の性格だったから。こういう感情は『嫌い』じゃなくて『羨ましい』とも言うのかもしれない。
でもやっぱり『羨ましい』から自分に劣等感を感じて『嫌い』になってしまう。アリスがファリーヌに抱く気持ちはそんな感じのものだった。
「出て行ってって言ってるでしょう!」
アリスはつい大きな声を出してしまった。それに対してファリーヌはしゅんとして涙を流し始めてしまった。そしてフラフラと部屋を出て行ってしまう始末。
アリスはドアが閉まる音を聞いたとたん、自分の取った行動を後悔した。他の兄弟ではなくて自分のところに来てくれたのが本当は嬉しかったのに、自分の意地っ張りな部分が邪魔をした。
「ごめん、ファリーヌお姉さま」
呟くがこの声は誰にも届かない。何もかもが嫌になって、アリスはもう一度眠ってしまおうかと思ったが出来なかった。頭に浮かぶのはファリーヌの無邪気な笑顔と泣いた顔……。
しばらく真っ白な壁を見つめてぼーっとしてるとドアがノックされた。時計に目をやると6時。てっきりメイドが起こしに来たのだと思って声をかける。
「起きているわ、入っていいわよ」
「はい」
メイドだから「はい」と答えるのは当たり前のことなのだが、アリスは少し違和感を感じた。ゆっくりと開くドアに目をやるとやっぱりメイド……だと思ったが、そこに居たのはファリーヌだった。メイド服を着ているファリーヌ。
「どうしたのよ、その格好。王族がそんな格好をして良いとでも思っているの?」
アリスはつい厳しいことを言ってしまった。でも、やはりファリーヌ格好は不思議すぎる。好奇心でこんなことをするとも考えにくい。
「お嬢様、朝食をお持ちいたしました」
ファリーヌは本物のメイドのように一礼すると少し大きめなお皿を持ってアリスのほうへ足を進める。
「あなた、ファリーヌお姉さまよね?」
アリスは最初は不思議がっていたものの、段々と心配になってきた。
「ファリーヌお姉さま、頭でも打ったの?大丈夫?あなたは王族で、レジーム家の三女なのよ。覚えてる?」
「覚えてるからぁ、心配しなくていいよ~」
アリスはその独特な口調と柔らかな笑顔に安心した。
「じゃあどうしてそんな格好を?」
「メイドさんが羨ましくなって、アリスちゃん専属のメイドさんの服をねぇ、奪ってきちゃった☆」
アリスの頭の中は?マークでいっぱいだ。分からないことが多すぎる。まず、なんでメイドが羨ましかったのか。それからどうしてメイド服をわざわざアリスのメイドから奪ったのか。今、本物のメイドは無事なのか?そもそもこの行動の意味が分からない。
「わたしの考えてること、アリスちゃん分かってないでしょ~?」
ファリーヌの言うとおりだった。
「当たり前じゃない」
「もぉ~、仕方ないなぁ~。説明してあげるよぉ。えっとぉ、わたしね、いつもアリスちゃんの傍にいるメイドさんが羨ましかったのぉ!だからぁ、メイドさんになったらずっとアリスちゃんと一緒にいられるかなぁって思ってねぇ、こうしてアリスちゃんの専属メイドに変身したのぉ!アリスちゃんにはすぐにばれちゃったけどねぇ~。なんでだろぉ~?」
考えても見なかった答えにアリスは驚く。そして同時にファリーヌらしいと思った。
「あたしの傍にいたくてこんなことしたの?」
「うん!」
「別にそんな事しなくても良いじゃない」
「え、でも……」
ファリーヌはまたもやしゅんとしてしまう。アリスはまた悲しませたらいけないと思い、言葉を付け足す。
「普通のファリーヌお姉さまのままで一緒に居ればいいじゃないの。あ、でも別にあたしは一緒に居たいわけじゃないわよ。お姉さまが煩いから案を出しただけで……」
「ありがとぉ、アリスちゃ~ん。わたし、これから一生アリスちゃんの傍を離れないよぉ」
アリスが微笑ましい気持ちでファリーヌのほうを向くとまた目に涙をためていたが、この涙は素敵だと思った。
「ところで、あたしのメイドはどこ?」
「えっとねぇ、頼んでも服貸してくれなかったからぁ、無理やり奪ってぇ、あたしの部屋に閉じ込めておいたよぉ」
アリスはメイドのことが心配でたまらなくなった。
「あなたの部屋にいるのね?怪我はしてないわよね?」
「うん」
ファリーヌの言葉でほんの少しの間、安心した。そう、ほんの少しの間……。
「手足を縛ってぇ、口も塞いでおいたからぁ、逃げることは出来ないもん。あ、でもぉ服奪っちゃったから寒いかもぉ」
メイドといえど、結構長い付き合いだ。赤の他人とはいえない彼女の危険にアリスは真っ青になった。
「ファリーヌお姉さま!至急私のメイドを助けてきなさい!」
「え?あ、はいぃ!」
アリスの迫力に恐怖を感じたファリーヌは急いで部屋を出て行く。アリスはファリーヌの置いていったお皿にのっているものに興味が湧いた。布で覆われているため、ソレが何か分からないのだ。そっと布を取ると甘い香りが漂う。そこにあったのは小さなマドレーヌ。アリスが小さい頃好きだったものだ。何かあるたびに口にしていたのを、ファリーヌは覚えていたのだろう。彼女はモネと違って料理が上手いから安心してアリスはソレを口にする。少し甘すぎる気もしたが、優しい味だった。
◇◆◇◆◇◆◇
あれ以来、どこへ行くにもファリーヌがついて来るため、アリスはうんざりしていた。
「ルジェ」
アリスはメイドの名前を呼ぶ。
「なんでしょうか?アリス様」
「あたしの代わりにファリーヌの相手をしてやってくれる?」
その言葉を聞いたとたん、ルジェが青ざめる。彼女はあれ以来「ファリーヌ恐怖症」になったらしい。
「ごめん、だめだったわね」
「すみません」
ルジェが頭を下げる。
「ふふ」
どこからか馬鹿にしたような笑いが聞こえる。アリスはこの声が誰のものなのか検討がついた。
「マリンヌお姉さまね?」
「ええ、貴方のメイドは出来が悪いのかしら?可哀想ね、アリス」
読んでくれて、ありがとうございます。嬉しいです。
少し長めになってしまいましたが、どうだったでしょうか?楽しんでいただけたのなら幸いです。
次回は長女のマリンヌが登場します。よろしくお願いします。