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俺、下僕です。  作者: 猫宮 胡桃
14/26

レザン。

お待たせしました!今回も遅くなってしまいました。ごめんなさい。

今回は「前の話から数日たった日」と言う設定です。長男のレザンが登場します!楽しんでいただけると嬉しいです。

「アリスお嬢様、レザンお坊ちゃまを知りませんか?」

 新人のメイドだと思う。最近城の従業員を増やしたとは聞いていたが、王族と直接話が出来る身分の者だとは思っていなかったためアリスは眉をひそめた。

「レザンお兄ちゃんがどうかしたの?」

「もう食事の時間だというのにリビングにいらっしゃらないんですよ」

 レザンは常に時間を気にしているため、時間に遅れるなどめったに無いことだ。有り得るとすれば『研究』しているときのみ。(研究を三度の飯より愛しているらしい)よって今、レザンは研究室に居るというのが最もな意見だと言える。

「居る場所なら分かっているわ。あたしが連れて行くから他のみんなには先に食事を取るよう言っておいて」

 レジーム家は家族そろって食事を取るのが習慣となっている。兄弟げんかが酷かった次期に誰かが(おそらく父)「行動を共にすれば仲も良くなる」などと言ったのがきっかけで今や当たり前のようにになっている。

 新人メイドは元気に返事をすると食堂に向かって走り出した。そんな初々しい姿を見てアリスは笑みがこぼれた。

「さて、と。研究室に居るはずよね」

 アリスも足早に研究室へ向かう。研究室は兄弟の間では別名『隠れ家』や『秘密基地』などと呼ばれている。その理由は行ってみれば分かる。複雑な隠し扉を数十箇所通過しないとたどりつけないのだから。何度か言ったことのあるアリスだってたまに迷ってしまう。

 苦労の末、数十分で研究室にたどり着くことが出来た。ドアを数回ノックするが返事は無い。代わりに聞こえてきたのは爆発音。少々身の危険を感じたがアリスは研究室に足を踏み入れた。

「レザンお兄ちゃん?」

 アリスの視線の先にはところどころ焦げている白衣を身にまとったレザンの姿と、床に散乱したたくさんの実験用具たちだった。

「アリスですか。どうかしましたか?」

 いろんな液体やら機械やらをいじりながらそっけなく訊ねる。

「もう夕食の時間よ」

 アリスもそっけなく返す。

「ああ、もうそんな時間ですか」

 ピタリと会話が終わってしまった。どっちもそっけないからこの2人の会話はいつもこんな感じなのだ。

「わざわざ来てあげたのに御礼も無いのかしら?」

 アリスが不満そうに呟く。しかしレザンはアリスの言葉には反応せず、ふいっとそっぽを向いた。

「レザンお兄ちゃん、無視するのはやめてって言っているでしょう。あたしが何かしたって言うの?」

 アリスは少し怒りを込めて言う。

「早くリビングに戻った方が良いのでは?ボクみたいなのと居るよりずっとマシでしょう?」

 アリスは前々からレザンの一人称が「ボク」なのを不思議に思っていた。今も、絶対「私」の方がしっくりくるよなぁ。などと考えつつ、今日のレザンがやけにネガティブなのに気が付いた。

「本当になにかあったの?」

 ふれてはいけないような気がしたが好奇心で訊ねてみる。

「ボクみたいな黒髪眼鏡のダサい奴とは話さないほうが良いって言っているじゃないですか」

 その言葉でアリスはレザンの考えを悟った。「黒髪眼鏡のダサい奴」でだいたい見当は付く。レザンにグランとの会話を聞かれていたんだと。

「レザンお兄ちゃんのこと話してたわけじゃないわよ、きっと勘違いじゃないかしら」

 アリスは我ながら見苦しい言い訳だと思った。無論、レザンもアリスの言葉を信じない。

「そうですか、ではこれを見て下さい。記憶メモリー

 レザンが言うと同時にアリスの目の前にある画像が映し出される。まるでスクリーンでもあるかのように見える。そこに映し出されたのはムーンライトの花とグラン、そしてアリスの姿だった。

『……グランなんてレザンおにいちゃんみたいにダサい格好になっちゃえばいいのよ』

『は?何が悲しくてあんな黒髪メガネなんかにしなくちゃいけねぇんだよ!』

 声まではっきり気こえ、アリスは青ざめる。

「これ、ボクの勘違いなのでしょうか」

 勝ち誇ったような強気な光がレザンの目に宿っている。

「……悪かったわ」

 アリスが折れた。証拠を見せられては仕方が無い。

「本当に悪かったと思っているのですね?」

 レザンが確かめるように言う。

「ええ」

「それなら、償いをするべきではないですか?」

 いつものレザンはここまでウザくない。ここまでウザいのも珍しいからただ事ではないのは察しが着く。このままレザンのペースに流されてはいけない気がした。

「別にそこまで酷いこと言ってな……」

「ボクは自殺を考えるほど落ち込みました」

 レザンは試験管を片手に持っていう。その中では毒々しい赤がぶくぶくといっている。アリスはこの液体を飲んで自殺しようとしていたのだと思った。

「少しくらいなら償ってあげないことも、無いかもしれないわ」

 かなりめんどくさい言い方ではあったがアリスは償うと言ったのだ。その瞬間、眼鏡の下でレザンの目が妖しく光ったように見えたのは気のせいだろうか。

「では、これの飲んでください。ボクの薬の実験台になるのです」

 ずいっと試験管を突き出す。

「レザンお兄さまはあたしを殺したいのかしら?」

 震える声で訊ねる。もし、これが本当に自殺するために作られたのならアリスの言っていることは最もだ。

「何を言っているのです?これは美変薬ですが。死にはしませんよ。もしアリスがどうしても命で償いたいと言うのなら話は別ですが」

 どうやらこれを飲んでも命に別状は無いらしい。

「びへんやくっていうのは何なのかしら?」

「そのまんまですが。美しく変身する薬ですよ」

 レザンは自殺ではなく美しくなることを目的にこの毒々しい液体を開発したようだ。アリスも美しくなるのなら死ぬよりマシだと思い「飲むわ」と言う。

「そうですか、ではどうぞ」

 改めてみるとやはり気持ち悪いのに変わりは無いが、目をぎゅっと瞑って一口で飲み干す。喉が熱くなってアリスは咳き込んだ。

「大丈夫ですか、アリス」

「ええ。それでこの薬品は成功作なのかしら?」

 恐る恐るアリスは聞くがレザンが珍しく笑顔なのを見て安心した。おそらく成功したのだろう。

「良かったわ」

 アリスも自然に笑みがこぼれる。しかし、そこへ降ってきたのは氷より、いや恐らくドライアイスより冷たいであろう言葉だった。

「本当、良かったです。アリスで試して。ボクが失敗作を飲むなんてことは避けられました」

 そう言ってレザンは眼鏡を人差し指でクイっとした。

「レザンオニイサマ?」

 不安でいっぱいのアリスにレザンは無言で鏡を差し出す。

 そこに映ったのは金髪のアリス。

「あ~あ。栗色の髪の毛、奇麗だったのに……。金髪なんてあのグランとお揃いじゃないですか。良かったですね」

 そうニッコリ笑ったレザンの顔はアリスの《恐怖の思い出ランキング・ナンバー1》にランクインしたのであった。

 魔力で作られた薬品ゆえ、染めることも出来なければ、再び栗色の髪が生えることも無いのだ。あまりのショックにアリスはしばらく立ち直ることが出来なかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆(その後)

「おはようございます、アリス」

「……」

 挨拶してくるレザンをアリスはあらかさまに避ける。

「無視はいけないと思いますが」

「……」

 またまた無視。しばらくして、この沈黙を破るように陽気な声が聞こえた。

「アリス!おっはよっ!」

 次女・モネだ。アリスはまだモネには恨みが無いため普通に挨拶を交わす。

「おはよう、モネ」

 この日、レザンは初めてアリスの声を聞いてのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。いつもより長くなってしまいました。

さて、次回はモネが登場する予定です。よろしくお願いします。

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