グラン。
投稿、遅くなっちゃって本当にごめんなさい。
今回は次男・グランが登場します!アリスが6歳の時の話です。ちなみに当時グランは12歳です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
『午後の授業が始まります。各自、指定の場所へ移動してください』
城中に機械じみた声がひびいた。ここ、レジーム家では授業の始まりはこのように放送で知らされる。各自というのは、みんな受ける授業が違うからだ。今回のアリスの授業はバイオリン。アリスは譜面やバイオリンを取りに自分の部屋へ戻るところだ。
「バイオリンなんてやらなくても死なないわ」
などと言いながら自室の扉を開ける。
「ア~リ~ス♪」
「キャ―――――」
誰もいないと思っていた部屋の中から声がしたため、アリスは驚いて絶叫した。思わず閉じてしまった目を恐る恐る開くとそこにはツンツンした金髪でピアスをジャラジャラつけた、いかにも不良らしい格好の男、次男・グランの姿があった。
「……グラン?」
「うん♪”グランおにいちゃん”でしょ♪」
性格は不良とはかけ離れているが。
「どうしてここに?」
アリスは不法侵入(?)されたことに怒りを覚えながらも訊ねる。
「アリスさ、今日バイオリンの授業だろ?オレ、ピアノなんだよね~」
「それで、何?」
「オレと一緒にさぼらねーか?何時間も怒られるより、反省文のが楽だと思うけど?オレも手伝うからさ♪」
実際、アリスはバイオリンが大の苦手だった。他のことなら人並みに、いや人以上に出来るのだがこれだけはダメらしい。それに比べてグランのピアノの腕はすごいものだ。しかし「男らしくない」といってやりたがらないのだ。
「そうね、今日くらいならいいかもしれないわ。そのかわり、反省文の8割は書いてよね」
レジーム家一の問題児と共犯者になるのは気が引けたが、アリスは授業をサボることにした。
「8割!?オレの分とあわせて180枚か~。せめて5割ならやってあげても……」
「グランお兄ちゃん、10割じゃ……ダメ?」
グランの言葉をさえぎるようにしてアリスは言う。アリスは、というかレジーム家の人間はグランを従わせる方法を知っている。とっても簡単なことだ。『グランお兄ちゃん』と呼べばいいだけ。これは女性限定なのだが。
「いいよ♪アリス♪お兄ちゃんに任せて♪」
グランのテンションは会話の中の「♪」の数に比例する。
「ありがと。で、どうすればいいのかしら?授業が終わるまで」
「それならオレに任せて♪いい場所知ってるぜ♪絶対見つかんないとこ♪」
グランはそれだけ言うと、アリスを片手で抱えてもう一方の手を窓枠にかけた。
「ぐ、グラン?何をするつもりな……キャ――――――!!」
アリスの疑問は途中で悲鳴に変わった。グラン(アリスを抱えた)が窓から飛び降りたのだ。アリスたちが居たのは32階。普通なら足の骨を折るだけじゃ済まないものを、グランは怪我1つせずに飛び降りて更に全速力で走り出したのだ。もちろん、アリス(放心状態)を抱えたまま。
人気の無い森に入って2、3分経ってからだろうか。グランが口を開いた。
「アリス~、もう大丈夫だぜ。もうすぐ着くからさ♪」
「え?あ、ん~」
アリスは我に返った。
「ちょっとグラン!なんて危ないまねを……!」
「せっかくこんないいとこに連れてきてやったのにな~。ちょっとくらいのリスクは付き物だぜ♪」
そう言われて辺りを見回すとアリスは絶句した。あまりに素敵なところだったから。たくさんの木が青々と茂っていて木漏れ日が銀色の花をより一層輝かせている。
「な?いいとこだろ♪オレとアリスしか知らない秘密の場所だぜ♪」
「まぁまぁ気に入ったかもしれないわ」
そんなアリスを見てグランは呆れたように言った。
「はぁ~、アリスも素直じゃないなぁ。まったく……」
「あたしはいつだって素直じゃない」
「どこが素直だって……」
グランはアリスに睨まれて言いかけた言葉を止めて話題を逸らした。
「あの銀色の花はさ、たぶんここでしか見られないんだぜ。絶滅したって言われてる”ムーンライト”なんだ。月の光のように輝くっていう意味らしいよ♪」
「月の光?奇麗な色ね……す、少しだけだけど」
「奇麗だと思うなら奇麗って言えばいいじゃないか。気に入ったなら気に入ったって言えばいい。嬉しいなら嬉しいって。”ちょっと”とか”少し”なんて付けなくてもいいんだぜ。付けるなら”すごく”とか”とても”にしろよ」
いつに無く真剣なグランにアリスは少し驚いたが、その言葉一つ一つが心にしみた。
「素直になりゃいいじゃん♪」
「ぐ、グランにしては良いこと言うじゃない」
「まあな♪珍しいな♪アリスが人のこと褒めるなんて」
グランはアリスから目を逸らしてニヤッと口元を吊り上げた。
「そうかしら」
グランはてっきり「べ、別に褒めてなんか無いわよ」的なことを言われると思っていたため、一度大きく目を見開くとゆっくりとほほ笑んだ。
「アリス、このムーンライトはな人を素直にする力があるんだぜ♪知らなかっただろ」
アリスはこの花の存在自体、今日初めて知ったのだからそんな力も勿論知るはずが無かった。
「知らなかったわ」
「そうだろ~な♪だって嘘だし♪」
「は?グラン、あたしに嘘ついたの?」
「ま、こんくらい可愛いもんだろ♪」
グランはにっこり笑ったものの、アリスの怒りは収まらない。
「最低!グランなんて大っ嫌い!グランなんてレザンお兄ちゃんみたいにダサい格好になっちゃえばいいのよ!」
「は?何が悲しくてあんな黒髪メガネなんかにしなくちゃいけねぇんだよ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、グランは200枚の反省文を書かされた。アリスの方はというと、
「ちょっと!勝手に人のこと連れ出したんだから、早く書きなさいよ!馬鹿グラン!!」
グランに嘘をつかれたのが気に障ったらしく、更にツンデレ度が増したのだった。
読んでいただきありがとうございました!さて、今回からスタートした番外編ですが、どうでしたでしょうか?感想や、評価いただけると嬉しいです。
※今、番外編を書いていますがこれが終わったら本編の内容に戻ります。