ハジマリ。
楽しんでいただけるとうれしいです。
青々と茂るたくさんの木々に囲まれて、俺は真夏の暑い太陽の下。
もちろん、何の意味もなくこんな無駄に暑い中で山道を歩くほど俺は馬鹿じゃねぇ。ちゃんと”家に帰る”って目的があってのことだ。
俺の通っている学校はなぜか山の頂上にある。学校紹介のパンフレットなんかでは”見晴らしがよく、毎日素敵な景色を見ることが出来ます”なんて書いてあるが、俺たち生徒にとっちゃいい迷惑だ。
でも仕方ないんだ、まだ義務教育の分際で贅沢なことなんて言ってらんねぇ。だから、歩くさ。蒸し暑い山道を男とな。
「なぁ、京也。今日は何日だ?」
こいつ。俺の幼なじみでダチ。チビでバカで、名前は田中……何だったか。
「知らね」
「そうか……」
こんな無意味な会話を何年つづけてきただろう。
さすがに飽きる。
「なぁ、今日は何曜だ?」
「知らね」
「そうか……。なぁ今日は……」
「お前、なんなんだよ。いいかげん、ウザいぞ」
「そうか……」
こいつ、頭いかれてんじゃねぇか。
どんだけ「そうか」が好きなんだよ……。
まぁ、仕方ねぇか、暑いからな。おかしくなるのも分かる。
でも本当、並みの暑さじゃねぇ。今年で一番かもしれない。「嵐の前の暑さ」ってやつか? 今日なんか大事件でも起こったりして。って俺まで頭おかしくなってきたかも。
やべぇ、田中の「バカ」が感染病だったなんて!
「なぁ、京也」
「今度はなんだ?」
それでこそ俺だ。俺は冷静な奴なんだ。田中のペースに巻き込まれるんじゃないぞ、俺!
「明日から夏休みだな」
なんかマシなこと言ってるぜ、田中が。
「ああ」
そう、俺らは明日から夏休みなんだ。
運良く補習も逃れられたし、家でのんびり過ごす予定だ。
勿論、となりにいるバカは補習だけどな。
……。
…………。
………………。
「つまんねぇ」
マジでつまんねぇよ。
暑いし。
田中は頭いかれてるし。(俺は大丈夫)
アブラゼミはうるせぇし。
暑いし……。
「つまんねぇなんて言うなよ。『笑う角には福来る』っていうだろ。そんなこと言ってるとマジでつまんなくなんぞ。とりあえず笑っとけ」
このバカ、なにげにいいこと言ってやがる。
でもつまんねぇもんはつまんねぇよ。
「あははははは」
それに、笑えって。んな簡単に笑えっかよ。
◆◇◆◇◆◇
「あの」
背後から凛とした声がした。
ん?田中……じゃないよな。誰だ?
「お、おい。京也、後ろ」
目を大きく見開いてぽかんと口をあけている田中。
「あ?後ろ?」
振り返って俺は絶句した。
サラサラのベリーショート。
パッチリとした二重の瞳。
フリルのいっぱいついた服。
そう、よく都会でお目にかかれる。
メイド様。
俺は久々に感動した。
まさか、こんな田舎でメイド様にお会いできるなんて。幻覚じゃないよな。
「あの、ちょっと一緒に来てもらえませんか?」
――ああ。
俺は無意識にうなずいてしまった。
てか、メイド様にたのまれて断るなんて男じゃねぇ。
「では、行きましょう」
メイド様は俺の手をとって走り出した。
山の奥深くへと……。
行くところなんてどこでもいいさ。
だって俺。メイド様と手つないでるんだぜ。
「ちょっと~、オレはぁ? 京也だけずるいぞ~」
後ろで田中の声がするが、んなこともどうでもいい。てか、今日まじで大事件起こったよ!
「おっと……」
メイド様が急に止まるもんだから俺は危うく転びそうになった。
「見てください。奇麗でしょう」
俺の目の前にはあまり大きいとは言えないが、たしかに奇麗な湖があった。
おもわず、見とれてしまった。ここで「君のほうが奇麗だよ」なんていったらロマンチックな雰囲気になるか、しらけるかだな。
俺は後者の可能性も考えた末、黙って湖を眺める。
そのときだった。
「失礼」
は?
その瞬間、俺は背中につよい衝撃を感じた。
つまり、メイド様に突き落とされたんだ。湖に……。
なんとか這い上がろうと必死にもがいても、身体はどんどん吸い込まれるようにして沈んでいく。
ごぼっと一気に大量の水が口に流れ込む。
いくら現役中学生でも限界ってもんがあるんだ。
苦しい……
俺はそのまま意識を失った。
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