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夢みるクスリ  作者: 松田 かおる


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5/6

–5–

月曜日。 大教室。

先に席に座っていた正治を見つけた大輔は、その隣に座ると挨拶をかわして、下らないヨタ話に花を咲かせていた。

すると後ろから、

「おはよう」

と言う声が聞こえてきた。

二人が振り向くと、そこには由香が立っていた。

「やぁ、おはよう」

と二人が挨拶を返すと、

「ここ、いい?」

そう言って由香は、正治の隣の席に座った。

「そうそう、金曜日はお疲れ様でした。 秋津君、ちゃんと帰れた?」

と、自分の席から身を乗り出すようにして、由香が聞いてきた。

「え? あ、うん。 なんとか無事に帰れたよ。 二日酔いになっちゃったけど」

大輔はおとといみた夢のせいもあってか、それほど緊張せずに返事をする事ができた。

それを聞いた由香は、

「そうよねぇ。 あれだけ飲んだら二日酔いになっても仕方ないわよねぇ」

と、特にあきれた様子でもなく答えた。

「そうだよ。 調子に乗って、飲み過ぎなんだよ、お前は」

正治が茶化すように言うと、

「はいはい、勉強になりました」

と大輔が答えた。

そのやり取りがおかしかったのか、由香がくすくすと笑ったところで、ちょうど始業のチャイムが鳴った。


その日の晩、大輔のアパート。

「うーん…」

大輔はテーブルの上に置かれたパラフィン紙を前に、改めてうなっていた。

「やっぱすごいよなぁ、このクスリ。 自分が思ったとおりの夢をみられるようになるなんて…」

もう何度言ったかわからない言葉を、また口に出していた。

「おかげで森川さんと楽しく話もできたし…」

講義が終わった後、大輔と正治、そして由香の三人して喫茶店で盛り上がった事を思い出して、思わず大輔の頬が緩んだ。

「…でも、薬局の主人にお礼を言えなかったのは残念だったけど…」

日曜日に二日酔いが治ったので、薬局の主人にお礼を言おうと思って出かけたのだが、シャッターは降ろされたたままだった。

念のために今日帰り道に立ち寄ってみたのだが、やはり同じくシャッターが降ろされたままだった。

既に土曜日に店じまいしてしまったのだろう。

それだけが残念だった。

-二日酔いでない時にちゃんとお礼を言いたかったんだけど… まぁ、いいか。 今夜夢の中でお礼を言えばいいか…-

大輔はパラフィン紙から一粒クスリを取り出して口に放り込むと、電気を消して布団に潜り込んだ。


一週間ほど経った頃。

「森川さんてさぁ…」

カレーライスを食べていた大輔が、不意に口を開いた。

「森川さんが、どうした?」

正治が聞くと、

「意外と照れ屋なんだよねぇ」

と言った。

「…そうか?」

正治が言うと、大輔はそうだと言わんばかりに頷いて、

「そうなんだよ。 ああ見えても彼女、結構照れ屋なんだよ…」

どことなくぼーっとした口調で、大輔は言った。

「ふーん…」

正治はそう言って特に返事をするでもなく、ラーメンをひとくちすすった。



さらに二日後。

「昨日森川さんと一緒に映画を観たんだけどさぁ…」

教室の移動中、大輔が思い出したように口に出した。

「昨日?」

正治が不思議そうに聞くと、大輔は、

「そう、昨日渋谷で映画を観たんだ、二人で。 楽しかったなぁ…」

そう言って大輔は、「昨日観てきた」という映画の話を始めた。

しかし正治は話の途中で、

「ちょっと待て。 その映画、もう2年も前のやつじゃないか。 本当に観たのか? それに昨日、彼女は…」

そこまで言って正治は、はっと何かに気付いたように話を止めて、大輔の方を向いた。

すると大輔は、どこか虚ろな視線で、

「あ? そうだっけか? じゃぁ別の映画だったかな?」

と、やけに気の入っていない口調で答えた。



そのまた次の日。

「森川さんて、ジェットコースターが苦手なんだね。 かわいいよなぁ、女の子らしくって」

大輔が愉快でたまらないと言った口調で、正治に話し掛けてきた。

「どうしたんだ、やぶからぼうに?」

正治が聞くと、

「だって彼女、遊園地でジェットコースターに乗ろうって誘ったら、『ああいうのは苦手なの』って、一生懸命いやがるんだ。 その仕草がまたかわいくってさぁ…」

大輔はその時を思い出しているのか、一層にやにやして答えた。

「遊園地に、行ったのか? 二人で?」

正治が聞くと、大輔は、

「そうだよ。 二人で行って来たんだ」

と、それが当然であるかのような口調で答えた。

「ふーん…」

正治はそう言ったきり、急に口数が少なくなった。

「由香、ジェットコースター大好きなはずだけどなぁ…」

誰にも聞こえないような声で、正治はつぶやいた。

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