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金曜日。 夜。
「かんぱーい!」
の掛け声が上がって一時間ほど。
居酒屋は十何人の大学生の一団で賑わっていた。
その中には大輔、正治、そして由香の姿もあった。
最初のうちは、みんなでがやがやと話していたが、一時間も経つと自然と仲のいい仲間同士で集まって、他愛もない話をし始めていた。
そんな中で大輔と正治が、ゼミの教授の悪口を言って盛り上がっていると、
「どうもー。 楽しんでる?」
と言いながら、さっきからくるくるとあちこち動き回っていた幹事の由香が、二人の席に腰を降ろした。
正治は、
「え? あぁ、もちろん楽しんでるさ。 こんな美人の幹事がいるんだからさ。 な、大輔?」
と言って、大輔に話を持っていった。
大輔は少し顔を赤くしながら、
「え? あ、うん… とても楽しんでるよ。 森川さん、本当に今日は、ありがとう」
と、すこししどろもどろになりながら答えた。
「ううん、お礼を言うのはこっちの方よ。 わざわざ来てくれて、ありがとう」
と、由香はぺこりと頭を下げた。
「ね、ところで秋津君、今何の話してたの? 随分面白そうだったけど」
と、今二人が何を話していたのか気になったのか、由香が聞いてきた。
「え? あ、その…」
突然そんな事を聞かれた大輔が、さっきよりしどろもどろになって答えようとした。
大輔のその様子を見てまどろっこしいと思ったのか、それとも助け船を出したのか、代わりに正治がさっきまでしていた話を繰り返すと、由香は声を出して笑いながら、
「そうそう、そうよねぇ、あの教授」
と、いかにも楽しそうに相槌を打った。
それから十分ほど、三人でゼミの話題で盛り上がっていたが、不意に、
「ねぇ、秋津君、大丈夫? 顔が赤いよ」
と、大輔の横顔を見て、由香が言った。
「え? そ、そう、かな? そんな事ないと思うけど…」
大輔が答えると、
「そう? 本当に大丈夫? お酒飲み過ぎたんじゃないの?」
由香が心配そうに大輔の顔をのぞき込んだ。
すると正治が、
「あー、大丈夫大丈夫。 こいつはね、森川さんと一緒にいるだけで舞い上がっちゃってさ。 照れて顔が赤くなってるだけだから」
と、横からチャチャを入れるように言った。
由香はそれを聞くと、
「やぁねぇ、からかって。 ね、秋津君」
と言って、大輔の方に向き直った。
大輔はその通りの事を言われたのをごまかすように、
「そ、そうだよ正治。 からかうなよ。 顔が赤いかもしれないのは、さっきからちょっと暑いと思ってたから、そのせいだよ」
と、早口になりながら言った。
「ほー、そうかい」
と正治がからかうような口調で相槌を打つと、大輔は一層ムキになったように、
「本当にそうだってばよ。 いやー、暑い暑い」
といいながら、ジョッキに半分以上残っていたビールを、一気に飲み干した。
「ちょ、ちょっと秋津君、大丈夫なの?」
由香が心配そうに声を掛けたが、大輔はその心配をよそに、
「大丈夫大丈夫。 全然飲み過ぎなんかじゃないから。 すいませーん、ビールおかわり!」
と、おかわりを頼んでは飲み干し、頼んでは飲み干しを繰り返した。
その様子を見てさすがに正治も心配になったのか、
「おい本当に大丈夫か、大輔? 無理すんなよ」
と声を掛けたが、大輔はその言葉を無視するようにおかわりを繰り返した。
もう何杯飲んだか自分でも覚えていないくらいにおかわりを繰り返しているうちに一次会は終了し、二次会のカラオケに行こうと、一同は会場の居酒屋を出た。
「随分飲んだみたいだけど、本当に大丈夫? 秋津君?」
と、居酒屋の店先で、心配そうに由香が声を掛けた。
大輔は耳どころか頭のてっぺんまで真っ赤になりながら、
「…あ、大丈夫です。 ちゃんとしてます…」
と、少しろれつの回らない口調で答えた。
しかし足元はきちんとしているようなので、見た目ほど酔っ払ってはいないようだ。
本人の言うとおり、傍目で見るほど心配をする必要はなさそうだ。
「大輔、森川さんに送ってもらったらどうだ?」
おせっかいなのか本当に心配しているのか、正治が大輔に言うと、大輔は、
「何言ってんだよ、大丈夫だよ。 それに森川さんは幹事だろ。 この後二次会もあるんだから、他のみんなをおいておく訳にはいかないじゃないか」
と、ろれつが回らない割にはまともな事を言った。
「でも、ちょっと飲み過ぎたな… 悪いけど、二次会はパスかな」
大輔が続けてそう言うと、由香は、
「そう? あまり無理しない方がいいかもしれないしね」
と、少し残念そうに由香は答えて、
「じゃぁ悪いけど、わたし達、二次会に行くね。 楽しかったわ、秋津君。 今日は来てくれてありがとう」
と続けた。
「…あ、いえ、こっちこそ楽しかったです…」
大輔はさっきよりも少し顔を赤くして答えた。
「じゃ、お疲れ様」
「…あ、はい…」
大輔と他の連中はそこで別れて、大輔は家に帰る道を歩き始めた。




