–1–
学生達で賑わっている食堂の一角で、なぜかそこだけが妙に静かな雰囲気を漂わせていた。
「…おい」
「…ん?」
「ここにあったエビフライ、どうした?」
大輔が空っぽの皿を指差すと、
「食った」
正治が悪びれた風もなく答えた。
それを聞いて大輔は、ムっとした感じで、
「俺の皿に乗ってたやつだろう? なんで黙って食ったんだ?」
と言うと、正治は、
「黙ってなんて失礼だな。 ちゃんと聞いたぜ? 『おい、そのエビフライ食っていいか?』って」
と答えて、
「で、返事がないから頂戴した、って訳」
と続けた。
大輔は一瞬「え?」といった表情を見せて、
「そんな事、言ったの?」
と聞くと、正治は、
「お前人の言う事聞いてなかったな? どうせ何か考え事とかしてたんだろ。 森川さんの事とか」
と、少しあきれた口調で言った。
それを聞いて、大輔は言葉に詰まってしまった。
正治の言ったとおりだったからだ。
「まぁ、お前が何を考えようが自由だけど、せめてメシ食ってる時くらいは他の事考えろよ」
「べ…別にいいじゃないか。 俺が何考えてたって… それよりエビフライどうしてくれるんだよ」
口をとんがらせながら大輔が言うと、正治は軽く肩をすくめて、
「わかったよ。 エビフライのお礼にいい事教えてやるよ。 今度の金曜日にクラスの連中でコンパをするんだけどな、森川さんが幹事なんだよ」
と言った。
「森川」という言葉を聞いた大輔は内心どきっとしたが、
「ふーん…」
と、わざとそっけないふりをして、お茶をひとくち飲んだ。
そんな様子を少しにやついた表情で見ていた正治が、ちょっともったいつけて
「どうだ? 来るか?」
と大輔に聞いてきた。
「…しようがないな。 お前の誘いとあっては断るわけにはいかないからな。 行くよ」
と、しようがなさそうな口調で答えた。
正治はそれを聞くと、まだにやにやした表情でうなずいて、
「わかった、じゃ森川さんに伝えてくるわ」
そう言って席を立とうとすると、
「お、ちょうどいい所に」
と、食堂の入口の方を見た。
大輔がその言葉につられて入口の方を見ると、ちょうどその話題の主、森川 由香が他の何人かの友達と一緒に、食堂に入ってくるところだった。
「森川さん!」
正治が呼ぶと、由香は「あら」といった表情を見せて、二人が座っているテーブルに向かって歩いてきた。
「どうしたの? 吉野君」
二人のテーブルのそばに立った由香が言うと、正治は、
「今度の金曜日の件なんだけど、大輔も参加するって言うからさ、それを幹事に伝えとこうと思って」
と答えた。
由香はそれを聞いて、
「えー? 本当? もう大歓迎よ。 秋津君ぜひ来てね、待ってるわ」
と言って、にっこりと微笑んだ。
大輔はそれを見て耳まで赤くなりながら、
「…こ、こ、こちらこそ、よろしく…」
と、完全にあがってしまった口調で、顔を伏せながら答えた。
その様子を見た由香が何か言おうとすると、
「由香ー!」
向こうから友達の呼ぶ声がした。
「ちょっと待っててー」
由香は、友達のいる方に向かって声を掛けて、
「ごめん、あんまり待たせちゃうと悪いから、これでね。 じゃ、金曜日にね」
と言って二人に小さく手を振ると、友達の方に戻っていった。
しばらくお互いに黙ったままだったが、
「…よかったなぁ。 『ぜひ来てね』だってよ」
と、正治がにやにやしながら茶化したような口調で言った。
「ななな、何言ってんだよ。 あれは単なる挨拶じゃないか。 『社交辞令』ってやつじゃないか」
どもりながら大輔がそう言うと、冷めきった味噌汁の入ったお腕に手を延ばしてひとくちすすって、思いきりむせた。




