対策パッチ?
朝、会社の空調は壊れていない顔をして、壊れていない温度を吐き続けていた。
壊れているのは人間だけだ。
壊れているのに動けるなら、壊れていない扱いになる。
壊れているのに「了解しました」と返せるなら、返せる方が悪い。
相沢悠は、席に座って、モニターを点けた。
画面の白が眩しい。眩しいのに眠くない。
眠くないのが怖い。身体は限界のはずなのに、脳だけが空回りしている。歯車が噛み合わないまま回転する音が、耳の奥でずっと鳴っている。
鬼塚のチャットが点滅していた。
開いた。
今日は開いてしまった。開かなければ「未読のまま放置した」が罪になる。開けば「読んだ上で対応が遅い」が罪になる。どちらを選んでも罪なら、早い方の罪を選ぶ。それが社畜の最適化だ。
「昨日の件、提出ありがとう。念のため、差し戻し。ここの表現もう少し固く。あと数字の出典明記」
念のため。差し戻し。
この人の「念のため」は、他人の夜を削る呪文だ。丁寧な言葉遣いで、刃だけがよく研がれている。
「了解しました」
文字を打つ。送信する。
送信した瞬間、身体から何かが一グラム抜けた。
了解しました、了解しました、了解しました。
毎日この文字を打つたびに、自分の中の「嫌です」が一ミリずつ削られていく。削られた分がどこに行くのかは、知らない。知りたくない。
午後、社内チャットの雑談チャンネルがざわついた。
「NEOSPHERE、緊急メンテ入るらしいよ」
「昨日の告知、今日も出てる」
「なんかログ壊れるバグがあるとか」
「あの草原のやつだろ」
草原。
画面の中を流れていく文字の中に、その二文字が混ざった瞬間、指が止まった。
心臓が一拍だけ速くなって、すぐ戻った。
自分に関係があるのかないのか、わからない。わからないことが一番疲れる。
関係ない、と思うことにした。
自分は遊んでいるわけじゃない。
あの草原は遊び場じゃない。
沈む場所だ。
でも「緊急メンテ」という単語は、沈む場所の地盤が揺れることを意味する。
眠れなくなるかもしれない——その可能性だけで、午後の残り三時間が灰色になった。
定時を過ぎても帰れず、鬼塚の「念のため」を二つ処理して、終電一本前に会社を出た。
コンビニで何か買った気がするが、何を買ったか覚えていない。袋の重さだけが手にある。
帰宅。靴を脱ぐ。脱いだ靴が倒れる。直さない。
部屋の電気を点ける前に、VRギアに手が伸びた。
今日は、いつもより早く被った。
部屋が狭い。壁が近い。天井が低い。
息が浅い。浅いのに吸えている振りをしている。
早く沈みたい。
現実から手を放したい。
草の冷たさが欲しい。何も要求しない場所が欲しい。
目を閉じた。
---
視界が暗転して、次に開けた時——空は真っ白だった。
いつもと違う。
いつもは草原の朝に直接浮かぶ。風と光の中に、ぽんと置かれるように意識が戻る。
今日は違った。
白い空間の中に、白い文字が浮いている。
```
NEOSPHERE ONLINE
Emergency Maintenance Completed.
SLEEP TRACE v1.0 — updated
Patch Notes:
- Improved sleep record stability
- Enhanced anomaly detection
- Adjusted safe zone behavior
```
文字を読んだ。
読んだけれど、半分は意味がわからなかった。
「睡眠記録の安定性向上」。「異常検知の強化」。「安全地帯の挙動調整」。
全部、自分のことじゃないか。
自分のことなのに、自分に向けて書かれていない。
「ユーザーの皆様へ」の体裁で、たった一人に刺さっている。
少しだけ、安心しそうになった。
運営が手を入れた。改善された。これで夜の記録が残って、あの不気味な欠損が消えるかもしれない。
——安心しそうになって、自分で止めた。
安心すると、期待する。
期待すると、裏切られる。
期待の後の裏切りは、最初から期待しなかった場合の十倍疲れる。
現実で学んだ。
鬼塚の「検討します」に三回期待して、三回全部差し戻されて、学んだ。
白い空間が溶けて、視界が切り替わった。
草原。
朝だった。
朝露が光っている。鳥が鳴いている。風が冷たくて、優しい。
世界はいつも、何も起きなかった顔をする。
YUは身体を起こした。
——眠れた。
沈んで、浮かんで、それで一日が成立する。
その骨格に、昨夜、運営が手を突っ込んだ。
草原の端を見る。
人影はある。でも輪がない。
昨日あった「距離の線」が、今日はさらに広がっている。
誰も近づかない。近づけないのではなく、近づく気が失せたように見える。
線の外側に、灰色のローブが二体立っていた。
`OBSERVER`
見ている。記録している。
昨日と同じ配置。昨日と同じ焦点。
でも今日は——OBSERVERの足元に、小さなエフェクトが追加されていた。
淡い青の円。記録中を示すインジケータ。
パッチで足された機能だろう。「記録していますよ」と可視化された監視。
(……見せるための目になった)
隠れて見ていたのが、堂々と見ていることに変わった。
どちらが怖いか、わからない。
インベントリを開く。
増えている。
金属片。宝石。紋章。黒い布。`???`。
一度も減ったことがない。一度も説明がついたことがない。
(落とし物だろ)
その言い訳が自分に効かなくなってきている。
でも他の説明を探す気力がない。落とし物でいい。落とし物じゃないと困る。
画面の端に通知が出た。
見慣れた場所に、見慣れない文言。
```
System Notice:
Sleep record successfully saved.
```
——え。
指が止まった。
成功した。保存された。
ずっと壊れていたものが——今日は「成功」と出ている。
心臓が一つ、大きく打った。
パッチが効いた? 記録できた?
なら——夜の間に何が起きたのか、分かる?
あの欠損の向こう側に何があったのか、ようやく——
期待が浮かんだ。
浮かんではいけないと知っているのに、浮かんだ。
水面に顔を出すように、一瞬だけ息を吸った。
次の瞬間。
通知がもう一行、追加された。
```
System Notice:
Sleep record integrity check failed.
Data partially corrupted.
```
保存された。でも壊れている。
成功した。でも失敗した。
二つの通知が、縦に並んでいる。
上の行が希望で、下の行がその否定。
(……結局、同じじゃん)
浮かんだ期待が、そのまま水底に引き戻された。
浮かんだ分だけ、沈み方が深い。期待しなければ、この落差はなかったのに。
パッチは入った。文言は増えた。通知の行数が一つ増えた。
それだけだ。
結果は同じだ。夜の記録は壊れている。
「変えようとした痕跡」だけが通知欄に残って、夜は変わらない。
——会社と同じだ。
改善提案を出す。承認される。実行される。でも結果は変わらない。
「改善しました」の報告書だけが増えて、残業時間は減らない。
世界を作った側が手を入れても、夜は揺るがない。
それは——怖いことなのか、安心することなのか。
どちらでもない。ただ、疲れる。
---
初期村に向かうと、門の前の風景が変わっていた。
変わった、というより——硬くなっていた。
木の掲示板の隣に、金属フレームの公式告知板が立っている。
ファンタジーの村に、現実のデザインが刺さっている。フォントが違う。色が違う。温度が違う。
周囲の木と石と草の中に、一枚だけ「会社の通達」が混ざっている。
```
Official Notice:
Grassland area is under enhanced observation.
Please refrain from unauthorized gathering near the designated zone.
Violation may result in account penalties.
```
罰則。
ゲームの草原で寝ていたら、罰則。
何もしていないのに、「するな」と書かれている。
この書き方を知っている。
会社の「コンプライアンス研修のお知らせ」と同じ書き方だ。
やるなと書くことで、やった場合の責任をこちらに移す。
禁止する側は、禁止した事実だけで仕事が終わる。
露店は消えていた。
手書きの草原マップも、非公式ガイドも、「記録がありません」の旗も——全部ない。
祭りが終わったのではなく、祭りが潰された。
潰したのは運営だ。「罰則」の二文字で、熱を冷ました。
ORACLEは、いつもの場所に立っていた。
白ローブ。腕章。背筋は正しい。
でも今日は、その正しさの中に——怒りがある。
怒りという言い方は正確じゃない。
ORACLEの怒りは、声が大きくなる種類のものじゃない。
静かになる種類のものだ。いつもより言葉が少なく、いつもより目が据わっている。
腕章の列も、整列が微かに歪んでいた。
昨日までの「信じる熱」が、公式の掲示で冷やされた。冷やされたけれど、消えてはいない。
冷えた金属は、熱い金属より硬い。
RAMPARTは門の内側。今日も言葉はない。頷くだけ。
でも盾の角度が昨日と違う。ほんの少し、前に傾いている。
守りの構えが、一段階上がっている。
YUが通り過ぎようとした時、腕章の一人が小声で囁いた。
「——神は、試されておられる」
声が震えていた。
震えているのに、信じている声だった。
怖がっているのに、逃げない声だった。
ORACLEが静かに頷いた。
「運営は、神を計測しようとしている。計測できるものは、神ではない。——計測を超えたものだけが、ここに残る」
計測。
その言葉が、胃に落ちた。
自分も計測されている。会社で、毎日。
工数管理。進捗報告。稼働率。生産性。
人間を数字にして、数字が足りなければ「念のため」が来る。
ここでも同じことが起きている。
運営がYUを計測しようとしている。パッチを当てて、OBSERVERを置いて、記録を強制して。
ORACLEはそれを「神への冒涜」と呼ぶ。
YUにとっては——ただ、疲れる。
計測される疲労は、現実で十分だ。
何も言わなかった。
何も言わないことだけが、ここでは安全だ。
---
夕暮れ。
草原に向かう道が、静かすぎた。
野次馬が消えた。公式の「罰則」が効いている。
怖いもの見たさの群衆は、罰則の二文字で霧散する。好奇心は無料だが、アカウント停止は有料だ。
その代わり、残った視線が重い。
数は減ったのに、圧が増えている。
軽い百の目より、重い十の目の方が、背中に刺さる。
草原の線の外側に、OBSERVERが——三体になっていた。
増えた。パッチと一緒に、目も増やしたのだ。
三体とも同じ灰色のローブ。同じ薄い造形。同じ焦点。
足元に青いインジケータが回っている。「記録中」。
三つの「記録中」が、草原を三方から見つめている。
線の内側には、RAMPARTがいた。
盾を地面に突き立てている。突き立て方が深い。今日はここから動かない、という意思の深さ。
ORACLEは膝をついていた。
メモ帳は閉じている。今日は祈りだけだ。
祈りの声は聞こえない。聞こえないけれど、唇が動いているのは見える。
その外側に——白銀の光があった。
《REGALIA》。
ASTER本人ではない。部下らしき数人が、運営の掲示に従って黙って立っている。
黙って、観測している。運営とは別の目で、同じものを見ている。
運営の目。トップギルドの目。信者の目。守護者の目。
全部が揃って、草原で一人の初心者が眠るのを見ている。
(……なんだこれ)
笑えない。
笑う気力も、突っ込む気力もない。
ただ——「寝るだけなのに、こんなに大勢の目が集まるのか」という事実が、重い。
会社では誰も見てくれない。
ここでは誰もが見ている。
どちらも、欲しい形じゃない。
YUはいつもの場所に座った。
草。冷たくて、硬くて、でも要求しない。
この感触だけが、変わらない。
通知は変わった。人の数は変わった。運営が手を入れた。OBSERVERが増えた。
でも草の冷たさだけは、初日と同じだ。
それだけで——少しだけ、息が吸える。
目を閉じた。
```
SLEEP MODE (Beta)
Safe Zone detected.
Proceed? [Y/N]
```
Y。
迷わない。迷うためのリソースは、鬼塚の「念のため」に全部持っていかれた。
横になる。
草が冷たい。頬から首に伝わって、首から肩に伝わって、肩から——ゆるむ。
```
Resting...
```
意識が沈む。
鬼塚の「念のため」が遠くなる。
同期の「顔色」が遠くなる。
パッチの文字列が遠くなる。
ORACLEの祈りが遠くなる。
OBSERVERの青いインジケータが——残っている。
記録中。記録中。記録中。
三つの目が水面の上で回り続けている。
他の全部が沈んだのに、あの青い光だけが沈まない。
でも——沈む。
沈むしかない。沈まないと、明日が来ない。
手を放す。
何の手を放したのかはわからない。でも、何かを握っていた手が開いて、指の隙間から意識が零れて——
落ちる。
---
闇。
音が消える。
草のざわめきが消える。風が止まる。鳥が黙る。
いつもの闇だ。沈んだ先にある、何もない場所。
——のはずだった。
今回は、何かが違った。
闇の中に、光が走った。
細い光。青白い光。ファンタジーの光ではない——データの光だ。
運営のUIに似た、硬い直線。モニターの残像みたいな人工の光が、闇の中に格子を描いている。
```
SLEEP TRACE ACTIVE
Recording...
```
運営のフォント。現実のフォント。
夜の底に、会社の通達みたいな文字が光っている。
記録している。
パッチが生きている。スリープの中に手を伸ばして、何が起きているかを書き留めようとしている。
光の格子が広がる。
闇を区切るように、測定するように、計測の網が夜に被さっていく。
OBSERVERの三体が——一斉に“焦点”を寄せた。
物理的には動かない。
でも、視線だけが一点に集まる。
三つの「記録中」が、三方から同じ場所を刺す。
接触しない。干渉しない。ただ見て、ただ書き留める。
それだけのはずだ。
光の格子が、もう一段階密度を上げた。
その瞬間——
格子が歪んだ。
歪んだのは光ではない。
光を通そうとした空間そのものが、拒んだ。
書き込もうとした先に、紙がなかったのではない。
紙が、避けた。
OBSERVERの足元の青い円がちらついた。
回転が不安定になる。
記録しようとした瞬間だけ、何かに弾かれている。
文字列が乱れた。
読めない文字が一瞬だけ混じって、すぐに消えた。
次に浮かんだのは、短い拒絶だった。
```
ACCESS DENIED
```
主語はない。
でも拒絶の輪郭だけは、はっきりしている。
OBSERVERの一体が、沈黙した。
焦点が外れる。
目が「見ていた形」に戻る。
青い円が止まり、光が抜ける。
二体目も、同じように静かになった。
落ちた音もない。倒れる音もない。
ただ「記録していた状態」だけが剥がれていく。
三体目だけが残った。
残って、最後まで一点を見続けた。
青い円が、脈を打つ。
一回。二回。
必死に回転を保とうとしている。
そして、ふっと消えた。
三つあった青が、消えた。
闇の中から“監視”という色だけが抜け落ちた。
残ったのは静寂だった。
静かになった、というより——静寂を許可した。
騒がしかったから静かにしたのではなく、静かであることを「こちら側が決めた」。
`Resting...` だけが残っている。
運営の格子は薄れ、文字列は消え、青い円はすべて止まった。
でも「休息中」だけが、最後まで残った。
眠りは、守られている。
覗こうとした「記録」だけが、剥がされた。
誰に守られているのかは、まだ分からない。
---
朝。
草原は、何事もなかった顔をしていた。
朝露が光る。鳥が鳴く。風が草を撫でる。
世界は毎朝、リセットされた表情でこちらを迎える。
YUは身体を起こした。
——眠れた。
それだけが確かで、それ以外は分からない。
画面の端に、通知が積もっていた。
昨日より多い。運営の痕跡が、朝の光の中に散らばっている。
```
System Notice:
Sleep record saved.
```
```
System Notice:
Sleep record integrity check failed.
Data partially corrupted.
```
```
System Notice:
SLEEP TRACE interrupted.
```
最後に一行。短く、硬い。
```
System Notice:
Observation session terminated unexpectedly.
```
上から順に読むと——「記録した」「壊れてた」「中断された」「目が落ちた」。
全部まとめると、「何もできなかった」。
(効いてないじゃん)
思って、すぐに、疲れた。
パッチが効かなかったことに怒る余裕はない。期待した分だけ沈んだ朝と、鬼塚の「念のため」が重なって、感情が底を打っている。
草原の端を見る。
OBSERVERが——二体になっていた。
昨日の夕方は三体だった。一体、減った。
減ったのか、戻されたのか、落とされたのか。
どちらでも同じだ。公式の目が、夜に拒否された。
残った二体は立っている。立ってはいるが、足元のインジケータの回転が遅い。
昨日の青い光が、今日は少しくすんで見える。
RAMPARTは立っていた。
いつもの場所。いつもの沈黙。
でも盾に——傷がある。
昨日までなかった傷。横一文字。浅いが、長い。
金属の傷というより、表示が“引かれた”みたいな一本線だった。
夜の間に何かがあった。何かから守った。守り切ったが、無傷ではなかった。
何を守ったのかは、聞けない。
聞いても「あなた様の眠り」と返されるだけだ。
自分の眠りが何かを傷つけている。その事実が、草の冷たさよりも冷たい。
ORACLEは膝をついていた。
今日はメモ帳を開いていた。ペンを握っている。
ペンが震えていた。文字を書いているのに、震えている。
震えているのに止めない。書くことが呼吸になっている人間の手だ。
YUが立ち上がると、ORACLEが顔を上げた。
「……運営は、見たのですか」
その声は穏やかだった。穏やかすぎた。
嵐の目の中にいる人の穏やかさだ。
YUは何も言えなかった。
見たのは自分じゃない。寝ていた。何も知らない。何も見ていない。
でも通知欄に「観測セッションが予期せず終了した」と書いてある。
運営の目が「予期せず終了した」と書いてある。
何も知らないのに、証拠だけが手の中にある。
ORACLEが小さく頷いた。
YUの沈黙を、何か別のものとして受け取った顔で。
「見ようとして——拒まれました」
その言葉の方が、通知欄より正確だった。
---
初期村に戻ると、公式掲示板の前に人だかりができていた。
だかり、というほどの密度はない。
「罰則」の掲示が効いて、近づく人間は減っている。でもゼロにはなっていない。
罰則を恐れない人間は、二種類しかいない。
何も失うものがない人間と、失うことより知ることを選ぶ人間だ。
掲示板の内容が更新されていた。
```
Official Notice:
Emergency maintenance will be extended.
Additional observation measures will be implemented.
Details to follow.
```
追加の観測措置。
運営が引いていない。引けないのだ。
一度手を伸ばして弾かれた。でもまた伸ばすと書いてある。
弾かれても弾かれても手を伸ばす——それは執念なのか、責任なのか。
どちらにしても、その手が伸びる先に自分が寝ている。
YUは掲示板の前を通り過ぎた。
通り過ぎる時、誰かの声が耳に入った。
「次のメンテ、今夜だって」
今夜。
今夜また、運営が来る。
もっと目を増やして。もっと光を強くして。もっと記録を硬くして。
それでも——夜は来る。
そしてYUは、眠るしかない。
他に行く場所がない。他に沈める場所がない。
草原だけが、「了解しました」を言わなくていい場所だから。
---
**NEOSPHERE ONLINE 匿名掲示板:初心者草原総合 Part 39**
`312:`
パッチ入ったのにまた欠損してて草
`314:`
草じゃないんだよなあ。SLEEP TRACE入れたのに記録が壊れてるってどういうこと?
`317:`
しかもOBSERVER一体減ってるんだけど。昨日の夕方は三体いたのに今朝二体
`319:`
落ちたんじゃなくて落とされたんだろ。昨日と同じパターン
`322:`
盾のやつの盾に傷ついてたって見た人いる?
`325:`
いる。横一文字。昨日まではなかった。あいつ一晩中何と戦ってたんだ
`327:`
戦ってたのか守ってたのかもわからんだろ。あの寝てるやつは何もしてないんだから
`330:`
何もしてない初心者の周りだけ毎晩何か起きてる。でも何が起きたかは誰も言えない
`333:`
REGALIA勢は何か掴んでんのかな
`335:`
掴んでたら報告書もう一回出してるだろ。黙ってるってことは「説明できない」か「説明したくない」
`338:`
運営がパッチ入れて、OBSERVER増やして、記録強制して——それでも「記録できません」って。何と戦ってんだよ運営
`341:`
寝てるだけの初心者
`342:`
だからそれがおかしいんだよ
`345:`
次のメンテ今夜入るってさ。追加措置って書いてある
`347:`
追加措置ってなに。OBSERVERさらに増やすの? 増やしたところで毎晩減ってくだけじゃん
`349:`
運営の胃が心配
`350:`
俺たちの睡眠時間も心配しろ。毎晩草原が気になって眠れないんだが
`354:`
寝てるやつだけが安眠してる説
`355:`
皮肉が利きすぎてて笑えない
---
夜が来る。
今夜も運営は手を伸ばす。
昨夜弾かれた手を、また伸ばす。
もっと硬く、もっと多く、もっと深く。
それでも——夜は来る。
来てしまう。




