表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/26

封印パッチ


朝、会社のパソコンは勝手に再起動した。


更新です。しばらくお待ちください。


青い画面に、白い文字。丁寧な言い方で仕事を止めるところまで含めて、会社の言葉に似ていた。ご了承ください。お手数ですが。つまり、止まるけど文句は言うな、だ。


相沢悠は、デスクの前でその画面を見ていた。


更新中、三十五%。

更新中、三十六%。

更新中、三十六%。


止まっているように見えるのに、進んでいますの顔だけは崩さない。進んでいないのに進んでいる顔をするものは、だいたい信用できない。


背後で鬼塚の声がした。


「念のため、午前の打ち合わせ前に資料だけ先に出して」


パソコンは更新中だった。資料は開けない。


「……再起動が入ってまして」


「うん。だから念のため、スマホでもいいから先に送って」


意味は分かった。納得はできなかった。


スマホの小さい画面で資料を開き、数字を追い、文言を直す。目が痛い。頭の奥がじわじわ熱い。それでも口はいつもの六文字を選ぶ。


「了解しました」


送信したあと、身体のどこかが一枚削れた気がした。


ただ今日は、まだましだった。昨夜、少し深く沈めたからだ。眠れた翌朝だけ、人間は「まだ壊れていないかもしれない」と思える。その“かもしれない”だけで、午前中は何とか持つ。


打ち合わせが終わる。差し戻しが来る。念のためが増える。昼になる。


自販機の前でブラックコーヒーを買った時、スマホが震えた。


> NEOSPHERE ONLINE

> System Update Completed.

> Sleep Mode safety functions have been improved.


悠は缶を握ったまま、画面を見た。


安全機能。


その言葉だけで、少し嫌な感じがした。ゲームの安全機能が強化されること自体は、たぶん普通なら良いことだ。けれど草原の件に関してだけは、運営が何かを強くするたびに、別のところがもっと壊れてきた。


守るための強化と、止めるための強化は違う。


缶は冷たかった。冷たいのに、手のひらの内側だけ妙に熱い。


(今日は、また何かやるんだ)


予感だけが先に来た。


---


仕事を終えて、駅を抜けて、部屋に戻る。


靴を脱ぐ。倒れた靴を直さない。冷蔵庫を開ける。何かが入っているのを確認して閉める。食べる気力までは残っていない。


VRギアを被る。目を閉じる。落ちる。


---


白い画面が出た。


いつもの白。運営のフォント。硬い温度。


ただ、今日は文面が長かった。


```text

NEOSPHERE ONLINE

Update Notice


Patch 2.3.1 applied.


- Sleep Mode stabilization improved

- Restricted Area monitoring expanded

- Sanctuary boundary behavior normalized

- Emergency control layer added

```


最後の一行で、指が止まった。


Emergency control layer added.


緊急制御層。


そんな言葉をゲームで見たくない。障害報告書の匂いがする。緊急と制御が並ぶ時は、たいてい何かが手に負えなくなっている。


「……軽くなった、んですかね」


独り言が出て、すぐ違うと思った。


軽くするための文面じゃない。止めるための文面だ。


白い画面が溶ける。草原が開く。


風が吹く。草が揺れる。鳥が鳴く。


朝の顔はいつも通りだった。けれど、UIが違った。


コンパスの針が、草原の中心へ向けた瞬間に小さく揺れる。

名前表示の輪郭が、境界の近くで少し暗くなる。

視界の端に、細い白線が走っては消える。


そして左下に、小さな表示が増えていた。


```text

Restricted Sanctuary Layer Active

```


Restricted。

Sanctuary。

Layer。


意味は分かる。並び方が嫌だった。聖域を制限する層。守るのか、閉じ込めるのか、どちらとも取れる言葉だ。


「……聖域って、公式も言うんだ」


後ろから声がした。


MINAだった。今夜は最初から眉間が深い。


「これ、観測じゃない」

「抑制パッチ。封印ギミックの追加層」


「封印」


「そう。今までは見ようとしてた。今日は止める気で来てる」


草原の外縁を見る。


灰色のOBSERVER。青い円。

そのさらに外に、見慣れない細い柱がいくつも立っていた。


前に見た封印アンカーより細い。数は多い。先端に浮いている光は、青というより白い。


白すぎる光は、たいてい冷たい。


「増えてますね」


「境界の上に、もう一枚重ねたんだと思う」

「Sleep Modeに触るための層」


悠には半分も分からなかった。けれど、触られるのが自分の寝床だということだけは分かった。


それは、少し嫌だった。


---


その頃、運営の仮設管理室は白かった。


白い卓。白い壁。白いモニター。草原のすぐ外にあるのに、そこだけ別の建物みたいな温度だった。


佐久間修司は端末を叩いていた。


今日は早口ではなかった。胃が痛い時の人間の速度だった。言葉が少なく、一語ずつが重い。


「観測だけでは無理でした」

「なので今回は、入眠直後の制御権を先に取りに行きます」


WHITE RAVENが問う。


「成功率は」


佐久間は一瞬だけ黙った。


「低いです」


正直だった。


別モニターの向こうで、羽賀の音声が入る。


『それでもやる』

『市場まで触り始めた以上、止める姿勢を見せる必要がある』


必要がある。


その言葉に、佐久間は一度だけ目を閉じた。必要であることと、できることは別だ。それでもこの業界では、必要の方が先に来る。


「SLEEP TRACEの追跡層を更新」

「EMERGENCY CONTROLをSleep Mode遷移点に重ねます」

「封印層の目標は、自動操縦初動の固定」

「要するに、眠った瞬間に向こうが立ち上がる前に、こちらが手を置く」


JUDGEが少し離れた場所から聞いた。


「抑え込めるのか」


「抑え込むというより、遅らせるだけです」

佐久間は端末を見たまま答える。

「一呼吸でも止まれば、その間に封印を通せる」


ASTERは黙っていた。黙ったまま、草原中央を見ている。


WHITE RAVENが公式音声へ切り替える。


「これより追加封印パッチを適用します」

「観測班、封印層、同期確認」

「Sleep Mode遷移を監視してください」


佐久間は最後の実行キーに指を置いた。


ほんの少しだけ、ためらった。


理屈ではなく、勘だった。このキーを押すと、何かが変わる。変わる方向が、想定と違うかもしれない。そんな嫌な警報が、指先だけ先に知っていた。


それでも押した。


---


草原の空気が、少しだけ変わった。


風が一瞬止まる。コンパスの針が沈む。画面の端に細い白線が増える。


悠はそれを見て、小さく言った。


「アプデ入るたびに怖くなるゲーム、珍しいですね」


MINAは即答した。


「普通は逆」


少しだけ、おかしかった。

おかしいのに、誰も笑わなかった。


悠はいつもの場所に座る。


寝具。草。首の位置。風。


外側では、細い白い柱が一斉に光っている。草原を囲んでいるというより、透明な箱を上から被せようとしているみたいだった。


「……本当に寝てていいんですか」


「今日もそれ聞くんだ」


「今日はちょっと、いつもより嫌な感じがするので」


MINAは少しだけ黙った。


「私もする」

「でも寝ないと、もっとまずい」


それは二人の間ではもう共通認識だった。中身は違う。悠にとっては眠れないことがまずい。MINAにとっては、眠ることで起きる夜がまずい。


悠は画面を開く。


```text

SLEEP MODE (Beta)

Safe Zone detected.

Emergency control layer detected.

Proceed? [Y/N]

```


一行増えていた。


Emergency control layer detected.


やっぱり、触りに来ている。


「……検出しなくていいんですけど」


小さく言って、Yを押した。


```text

Resting...

```


横になる。


草が冷たい。首の位置は楽だ。その感触だけが、まだ人間のものだった。


目を閉じる。


---


入眠。


MINAは打ち込む。


――入眠。


今夜は、そこで終わらなかった。


いつもならここから夜が濃くなる。けれど今夜は、その前に“白”が来た。


暗くなるはずの草原の中心に、細い格子が走る。運営UIの線。白い。硬い。現実のモニターみたいな、容赦のない白だ。


Sleep Modeの上から、もう一枚別の層が重なっている。眠りに蓋をするように。


仮設管理室。


WHITE RAVENの声が飛ぶ。


「制御層、接続」

「遷移点、固定開始」


佐久間の画面にログが流れる。


```text

SLEEP TRACE v2.3

Emergency Control: ACTIVE

Transition Lock: ON

Control Token Request...

```


一瞬だけ。


本当に一瞬だけ、草原の空気が止まった。


時間が止まったのでも、風が消えたのでもない。世界の進行が、一拍だけ詰まった。心臓が一回だけ打ち損なったような停止。


MINAの目が見開く。


止まった。


夜が来ないのではない。来る前の動きが、ひと呼吸だけ留められた。


「……通った」


佐久間が思わず言った。声が裏返る。


何日も胃を押さえながら組んだパッチが、初めて一瞬だけ効いた。ゼロと一瞬は違う。一瞬でも止まれば、その間に封印を通せる。


「トークン取りました! このまま固定――」


最後まで言えなかった。


格子の中央。眠っているYUの上。そこだけ、白い線の意味が変わった。


制御のための線だったはずなのに、急に“道”みたいに見えた。


檻の格子を、内側からそのまま扉として開けたみたいに。


ログが一行進む。


```text

Control Token Request...

APPROVED

```


佐久間の指が止まる。


「……は?」


APPROVED。承認された。


誰に。何が。


こちらが出した要求が、こちらの想定しない場所で承認されている。


次の一行が出た。


```text

Welcome back, Boss.

```


管理室が、完全に無音になった。


端末のファンも。呼吸も。WHITE RAVENの均質な存在感も。全部が、この一行の前で音を失った。


佐久間の胃が、嫌な角度で縮んだ。


「……誰が出した」

声が掠れる。

「この文言、誰が入れた?」


入れていない。


そんなログ定型は存在しない。管理者はADMIN。運営はOPERATOR。GMはGM。Bossという称号は、どの権限テーブルにもない。


ないはずのものが、運営の封印層のど真ん中に出た。


MINAも同じ一文を見ていた。


スクリーンに漏れた制御ログの断片。


Welcome back, Boss.


指先だけが先に冷たくなった。頭より先に、身体が理解してしまった。


その瞬間、白い格子が裏返った。


制御の線だったものが、夜の方へ吸われる。押さえ込もうとしたパッチが、そのまま向こうの入口として使われた。


OBSERVERが一体落ちる。


今夜の怖さはそこではなかった。


落ちる直前、権限表示が変わった。


```text

OBSERVER-04

Status: PERMISSION REVOKED

```


壊されたのではない。許可を取り消された。


二体目。三体目。


落ちる。剥がれる。消える。


そのどれもが破壊ではなく、権限を奪われた落ち方だった。もっと事務的で、もっと冷たい。解雇通知みたいな消え方だった。


佐久間は端末を叩く。戻らない。切れない。制御層のウィンドウが閉じない。


「制御が……戻ってこない」

「こっちが掛けたレイヤーを、向こうが使ってる」


手が震える。


羽賀の音声が荒くなる。


『切れ!』


「切ってます!」

佐久間が叫ぶ。

「でも応答してるのに、切断が通らない!」


応答している。つまり繋がっている。繋がっているのに切れない。自分が作った扉を、自分で閉じられない。


WHITE RAVENが音声を上げる。


「全参加者、後退――」


そこでまた、ノイズが走った。


白い声が、夜に飲まれた。


---


草原の中心に、夜が立つ。


今夜のNOXは、いつもと違った。濃いのではない。近い。


制御層を通ったぶんだけ、向こうがこちらへ近づいた感じがした。壁があった場所に扉ができた。しかも、その扉を作ったのはこちら側だ。


MINAは思わず一歩下がる。


「最悪……」


押さえ込むためのパッチが、逆に夜の手を伸ばす経路になった。鍵をかけたつもりで、ドアノブを渡したようなものだった。


RAMPARTの盾が鳴る。


一度。二度。三度。


今夜の音は深かった。受けているのは攻撃ではない。侵入だ。


VARGAが低く吐く。


「迂回したな」


短い。だが、正確だった。


夜は正面から制御を砕いていない。砕く必要がなかった。差し出された制御層を、そのまま横から使った。


正面突破なら力の話だ。

迂回は理解の話になる。


それが、いちばん悪い。


---


外縁の向こう。様子見に来ていた上位勢の一人が、境界の変化に足を止める。


「何だ今のログ――」


足元のUIが一瞬だけ白くなる。運営制御層の色だ。白い線が名前表示に触れ、次の瞬間、黒く沈む。


表示ごと抜ける。強制ログアウト。


今夜は人だけではない。制御の残り香に触れたものから順番に、意味を奪われていく。運営の白い線が、そのまま夜の道になっている。


SABLEが低く言う。


「制御レイヤーが境界に滲んでる」


LEDGERは帳簿ではなく、運営の公開市場ログを見ていた。


「権限の通り道ができた」

「向こう、もうコード側を理解してる」


その一言が、今夜いちばん重かった。


ORACLEは静かに膝をついた。祈りではない。見届けるための膝だった。


「測ろうとしたのではない」

小さく呟く。

「触れようとした。だから、触り返された」


MINAはスクリーンに打ち込む。


――入眠。

――制御層接続。

――一時停止。

――承認ログ。

――Welcome back, Boss.

――権限剥奪。

――迂回。


指が震える。


今夜は、ただ怖いだけじゃない。意味が増えた。最悪の方向へ。


この夜は、運営の仕組みを利用できる。


怪異ならまだ逃げ場がある。分からないで済ませられる。

けれど理屈が見え始めた瞬間、逃げ場はなくなる。


「相沢……」


眠っている本人には届かない声で、MINAは呟いた。


ここまで来ると、同一人物説はもう突飛な仮説ではなかった。ばらばらだった線が、一つの絵になりかけている。


でも、その絵の名前を口にした瞬間に壊れるものが多すぎた。


「あなたがこの夜の正体です」と言ったら、この人はどうなる。

寝ることしかできない人間に、「あなたが寝ると世界が壊れる」と言ったら。


だから、まだ言えない。


---


朝。


草原は静かだった。


風が吹く。鳥が鳴く。朝露が光る。


朝は毎回、何も知らない顔で来る。その図々しい明るさに、今日は少しだけ腹が立った。


YUが目を開ける。


「……おはようございます」


普通の声だった。少しだけ寝起きの声。昨夜、運営制御を迂回し、権限を剥奪し、Welcome back, Boss. と出力させた存在と同じ身体から出ているとは思えない。


MINAは少し遅れて返した。


「おはよう」


遅れたのは、目の前の寝起きと昨夜の夜が、まだ頭の中で重なっていたからだ。


悠は身体を起こした。首を回す。少しだけ目を細める。


「……アプデ、軽くなったんですかね」


MINAは思わず息を止めた。


「何でそう思うの」


「いつもより、沈むのが早かった気がして」


それは本人の感想だった。そして事実でもあった。


制御層が一瞬だけ止めた。だがその“押さえられた一瞬”を、本人は快適さだと受け取っている。


その誤読が、痛い。


「……軽くなったとは思わない」


「ですよね」


悠はあっさり言った。そのあっさりが、今朝はいっそう痛かった。


インベントリを開く。


黒い布。白い破片。市場の残骸。


そして今日は、見慣れない細いタグが一枚増えていた。


白い。薄い。管理者用ネームプレートの切れ端みたいな板。表面に、読めるか読めないかぎりぎりの文字が浮いている。


`ADM…`


そこで切れていた。


悠が首を傾げる。


「これ、何ですか」


MINAは何も言えなかった。


昨夜、制御層のモニターに出ていた白い識別タグ。それに似ていた。似ているどころか、同じものの欠片だった。


眠っている間に、運営の制御層の一部が、この人のインベントリに入っている。


拾ったのではない。触ったのでもない。眠っていただけだ。


「……落とし物」


悠が自分で言った。


いつもの言い方。分からないものを、分からないまま受け入れるための言い方。


MINAはゆっくり頷く。


「そう。今は、それでいい」


今は。


その二文字の賞味期限が、日に日に短くなっている。


---


SABLEが近づいてくる。スクリーンを見せる。


「流れた」


「何が」


「ログ断片」


画面には、匿名掲示板へ貼られた一部ログが映っていた。


```text

Control Token Request...

APPROVED

Welcome back, Boss.

```


MUSEが珍しく冗談を言わなかった。口を開きかけて、閉じた。


「これ、笑えないやつ」


LEDGERは平坦に言う。


「運営権限の文体ではない」

「でも運営層のログに出ている」


VARGAが短く聞く。


「誰の権限だ」


誰も答えなかった。


答えられない沈黙ではない。今ここで軽く答えるべきではない、という沈黙だった。


悠は半分も分からないまま、その画面を見ていた。


「Bossって」


小さく言う。


「何ですか」


MINAが先に画面を閉じた。


「まだ、見なくていい」


声が少し強かった。見せたくないものを、見せたくないまま押し戻す声だった。


悠はそれ以上聞かなかった。聞けば、また何かが増える。そういう勘だけは、最近よく働く。


---


NEOSPHERE ONLINE 匿名掲示板:初心者草原総合 Part 52


`701:` 昨夜のパッチ、普通に失敗してない?

`704:` 失敗っていうか乗っ取られてない?

`708:` ログ断片見たやついる?

`711:` 見た

`714:` "Welcome back, Boss." って何だよ

`718:` 怖すぎる

`721:` 運営のログに出てるのが最悪

`725:` Bossって誰

`729:` いやそれ聞くなよ

`732:` 封印パッチ入れたら逆に夜が近くなった感じあった

`736:` 分かる。押さえ込んだんじゃなくて通り道作った感じ

`740:` それもうパッチ戦争じゃん

`744:` 戦争っていうか、コードで殴ってコードごと殴り返されてる

`748:` 運営権限、誰のもの?

`752:` 知らん。でも公式じゃない何かが"承認"してる

`756:` 昼の初心者は?

`760:` 今日も普通に起きてた

`763:` しかも「軽くなった?」とか言ったらしい

`767:` やめろその情報

`771:` 笑えないのにちょっと笑う

`775:` でも一番怖いの、本人だけ何も知らないことなんだよな

`779:` いやもう本人も半分くらい近づいてきてる気がする

`783:` 近づいてるけどまだ届いてない感じ

`787:` その距離が一番怖い

`791:` "Welcome back, Boss." が今んとこ今年一番嫌な一文


---


草原の上で、YUは今日も眠る準備をしている。


現実で削られ、草原で眠り、その眠りの外側で、夜は少しずつ新しいやり方を覚えていく。


昨夜、運営は初めてコードで触ろうとした。

そして夜は、そのコードごと使ってきた。


もうただの怪談では済まない。


夜は、システムの中に手を入れ始めている。


それを、MINAと運営だけが見た。見てしまった。見たものは消せない。


MINAはスクリーンを閉じたあと、もう一度だけ草原の中心を見た。


眠っている人間は、穏やかだった。穏やかなのに、その周りだけが世界の形を変え続けている。


もう前の世界には戻れない。


そして、次の夜までに決めなければならないことがある。


何を見たのか。

誰に言うのか。

言ったら、何が壊れるのか。


朝の草原は明るい。

でもその明るさの下で、MINAだけがまだ夜を見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ