最初の粛清
朝、会社の複合機は一度も謝らなかった。
紙が詰まっても、トナーが切れても、画面に必要な文言だけを出す。
補充してください。
カバーを開けてください。
処理中です。
人間は違う。
謝りながら詰まり、謝りながら切れ、謝りながら動き続ける。
相沢悠は席に座って、モニターを点けた。
白い。
眩しい。
でも、今日は少しだけ楽だった。
昨夜、眠れたからだ。
眠れた翌朝は、世界の輪郭がほんの少しだけ戻る。
鬼塚のチャットは相変わらず点滅しているし、未読は減らないし、駅までの道で何を考えていたかは途中で消える。
それでも、頭の内側に薄い空白がある。
その空白だけで、人間は少しだけまともな顔ができる。
鬼塚のチャットを開く。
「念のため、昨日の資料、表現を少しやわらかく。あと構成だけ軽く見直して」
念のため。
やわらかく。
軽く。
全部、人にやらせる側が好きな言葉だった。
「了解しました」
打つ。
送る。
送ったあと、自分の中から何かが一枚だけ削れる。
でも今日は、その削れた跡が少しだけ浅い。
昨夜、ちゃんと沈めたからだ。
昼休み、スマホに通知が来た。
> NEOSPHERE ONLINE
> Guild Management: Review requested.
> 1 member flagged for policy violation.
> No response within the review window will be treated as consent.
いつもと違う文面だった。
Review requested。
policy violation。
そして最後の一行。
No response within the review window will be treated as consent.
返答がなければ、同意と見なす。
会社で何度も見た文面だった。
返信がなければ承認。
差し戻しがなければ確定。
黙っていれば、進む。
誰かがルールを破った、と書いてある。
でも自分がルールを決めた覚えはない。
画面を開いて、概要だけ読んだ。
> Member: LUMEN
> Issue: Unauthorized transfer of restricted guild assets
> Requested action: disciplinary review
LUMEN。
知らない名前だった。
restricted guild assets。
黒い布。
白い破片。
夜に増える、あの説明のつかないものたち。
たぶん、あれのことだ。
缶コーヒーのボタンを押して、落ちてきた缶を握る。
冷たい。
(……何が起きてるんだろう)
そのままスマホを閉じた。
午後が始まる。
鬼塚の「軽く」が待っている。
Nを押すこともできたはずだ。
でもその時の自分には、そこまで考える力がなかった。
通知を読み、分からないと思い、閉じた。
それだけだった。
それだけで、十分だったのだと、あとで知ることになる。
---
夕方、草原に着いた時、空気が違った。
昨日までの「片付いた」空気ではない。
片付いた場所で、何かが始まった後の空気だった。
MINAがすぐに来た。
いつもより足が速い。
「来る前に言っておく」
「何ですか」
「一人、出された」
出された。
その三文字の意味を、頭が処理するまでに少し時間がかかった。
「出されたって……ECLIPSEから?」
「そう」
MINAの声は低かった。低いのに、硬い。
怒りとも呆れともつかない声だった。
「今朝、LEDGERが検出した」
「ギルド倉庫の非流通品――夜に増えたアイテム、あるでしょう。黒い布とか、破片とか」
「あれを勝手に外部のプレイヤーに横流ししてた人がいた」
横流し。
「……献上品を?」
「献上品って呼ぶかは別にして、ギルド管理下の物を無断で外に出した」
「しかも、外の市場で売ろうとしてた。あの、草原方面の素材が枯れてる相場に乗せて」
YUはそれを聞いて、最初に思ったのは、意外と現実的な話だな、ということだった。
会社でもある。
共有ドライブのファイルを勝手に外へ出す人間。
備品を持ち帰る人間。
小さなことから始まって、でも一度やると止まらない。
「で……どうなったんですか」
MINAは少し間を置いた。
「VARGAが呼び出した。ORACLEが立ち会った。本人は最初は否定したけど、LEDGERが取引ログを全部出した」
「全部」
「全部。日時、相手、数量、売値」
「帳簿の人は容赦なかった」
LEDGERの顔を思い出す。
感情がないわけではない。ただ、数字に邪魔だから前へ出さない。
あの顔が、取引ログを並べている場面が浮かんだ。
たぶん、表情は一切変わっていなかっただろう。
「それで」
「ギルドから除名された。草原区域へのアクセスも剥奪」
除名。
アクセス剥奪。
それは――。
「……僕の名前で、ですか」
MINAは一瞬だけ目を閉じた。
「システム上は、マスター権限の執行」
「昼に通知、来たでしょ」
来た。
読んだ。
閉じた。
「返答しなかったから、レビュー時間が切れた」
「その時点で、自動執行」
自動執行。
寝ている間ではない。
眠っていたからでもない。
昼間、会社で、缶コーヒーを握っている間に、自分は見て、閉じて、そのままにした。
「……止められたんですね」
「たぶん」
「少なくとも、保留にはできた」
保留。
差し戻し。
確認中。
現実で毎日やっていることだ。
でも今日はしなかった。
疲れていたから。
分からなかったから。
午後が始まったから。
理由はいくつでも言える。
結果は一つだけだ。
一人が消えた。
自分の名前の下で。
---
白ローブの若い男が近づいてきた。
腕章をつけている。ORACLE直属の、たぶん下級の信者。
顔が強張っている。
「Master」
その呼び方にまだ慣れない。
「処理は完了しました。ご報告です」
「……はい」
「除名対象のLUMENは、ギルド設立時からの参加者でした。献上品の横流しは三日前から。計七回。LEDGERの帳簿により全数確認済みです」
LUMEN。
名前を初めて聞いた。
初めて聞いた名前が、排除の報告で出てくる。
「本人は『生活のため』と申告しました」
生活のため。
ゲームの中で「生活のため」と言う人がいる。
それはつまり、ゲームの外で何かが足りないということだ。
YUは、その言い訳が分かってしまった。
生活のため。
少しだけ楽になりたいから。
ルールを破る気はなかったけれど、ルールの方が後から来た。
会社で、そういう話を何度か聞いた。
経費精算の不正。備品の横流し。客先データの持ち出し。
やった人間は、だいたい最初はこう言う。
「そんなつもりじゃなかった」。
でも「つもり」と「結果」は違う場所に立っている。
「……どんな処理をされたんですか」
白ローブの若者は、淡々と答えた。
「ギルドからの即時除名。草原区域へのアクセス遮断。ECLIPSEメンバーとの取引禁止。掲示板での名前非公開」
四項目。
整然としている。
感情がないのではない。感情を入れると判断が濁るから、手順で覆っている。
「最後に、ORACLEからの一言がありました」
「何と」
「『搾取は、外にも中にも向けてはならない。それが教義です』と」
教義。
昨日まで、教義という言葉はどこか遠いものだった。
大きくて、抽象的で、自分には関係ないもの。
でも今、その教義の下で一人の人間が消えた。
「……僕に、通知は来てました」
「はい。本日昼、Guild Management通知として送信されています」
昼の通知。
あの「policy violation」だ。
読んだ。
読んだけれど、何もしなかった。
何もしないまま午後が過ぎて、夕方になって、今ここにいる。
何もしなかったことが、同意になった。
システムはそう処理した。
どちらにしても、結果は同じだ。
一人が消えた。
自分の名前の下で。
---
YUは、いつもの場所に座った。
寝具は昨日のまま整っている。
風は冷たい。
草の匂いは変わらない。
でも頭の中が、少しだけ重かった。
MINAが隣に来た。
「……聞いた?」
「聞きました」
「どう思う」
「どう思う、ですか」
YUは少し考えた。
考えて、正直に言った。
「分かってしまうのが、一番つらいです」
MINAは何も言わなかった。
「生活のため、って。分かるんです、その気持ち」
「少しだけ楽になりたいから、ルールの手前でちょっとだけ。そういうの」
言いながら、自分が今どこにいるのかを考えた。
自分だって、ルールの外で眠っているようなものだ。
スリープモードは「強く非推奨」とされている。
それでもここにいる。
「でも、LUMENがやったことは――」
「そう。やったことは違う」
MINAが引き取った。
「共感と、処分は別」
「分かる気持ちがあっても、やったことを見逃したら組織が持たない」
組織が持たない。
その言い方が、また現実の会議室で聞いたことのある言葉だった。
「……MINAさんは、これ、正しいと思いますか」
MINAは少し黙った。
「正しいかどうかは分からない」
「でも、もう遅い」
遅い。
「ギルドができた時点で、こうなるのは時間の問題だった」
「人が集まって、ルールができて、ルールを破る人間が出て、破った人間を排除する」
「その流れに名前をつけたのが、今日」
名前。
粛清、という言葉が浮かんだ。
自分では使いたくない言葉だった。
でもたぶん、掲示板ではもうその言葉が出ている。
「ORACLEは、たぶんこれを“浄化”って呼ぶ」
MINAは静かに言った。
「VARGAは“処理”って呼ぶ。LEDGERは“修正”って呼ぶ。SABLEは“管理”って呼ぶ」
「MINAさんは?」
「粛清」
短かった。
「やったことの本質は粛清。仲間を切る。内側を削る。それを宗教的な言葉で覆っても、中身は同じ」
YUは黙った。
「あんたは、止められたよ」
「え」
「マスターなんだから。昼の通知でNを押せば、少なくとも止まった」
YUの指先が、少しだけ冷たくなった。
Nを押す。
止める。
それは、システム上は可能だったのかもしれない。
でもあの昼休み、自販機の前で缶コーヒーを握りながら、自分は「policy violation」の通知を読んで、そのまま閉じた。
分からなかったから。
疲れていたから。
午後が始まったから。
「……止められたんですね」
「たぶん」
「でも、止めなかった」
「うん」
「止めなかったことは、承認と同じですか」
MINAは長く息を吐いた。
「現実でも、ゲームでも、黙認と承認は見分けがつかない」
「結果だけが同じなら、過程を誰も聞かない」
過程を誰も聞かない。
それは、会社でも同じだ。
「了解しました」と打って、送って、結果が出る。
その間に何を考えていたかは、誰も聞かない。
YUは草を見た。
冷たい。
硬い。
優しい。
でも今日は、その冷たさの下に、一人分の名前が沈んでいる気がした。
---
少し離れた場所で、ORACLEが白ローブたちに話していた。
声は穏やかだった。
いつもの穏やかさ。
「教義に反するものは、内であっても正されます」
「これは罰ではない。浄化です」
浄化。
MINAが言った通りの言葉だった。
白ローブたちは頷いている。
頷いているのに、何人かの手が震えていた。
今日は自分ではなかった。
でも明日は分からない。
その恐怖が、信仰の形で震えている。
VARGAは壁際に立っている。
処理は済んだ、という顔だった。
感情がないのではない。処理と感情を別の箱に入れる人間の顔だった。
LEDGERは帳簿を閉じていた。
閉じる動作が、少しだけ遅かった。
いつもの平坦な顔。でも閉じる手だけが、わずかに重い。
数字は正確だった。正確だったから、一人が消えた。
その因果を、帳簿の人は帳簿を閉じる速度だけで受け止めていた。
SABLEは掲示板を見ている。
「もう出てるね」
MINAが聞く。
「何て?」
「『ECLIPSE、メンバー一人除名したらしい』」
「あと三分で五十件は伸びる」
MUSEが少し困った顔をした。
「出す? こっちから」
SABLEは首を振った。
「まだ。流れが固まってからの方がいい」
「今出すと弁明に見える。弁明は弱く見える」
情報の管理が、もう感情より先に動いている。
YUはそれを見ていた。
見ていて、少しだけ息苦しかった。
自分が昼に何もしなかったこと。
その何もしなさが、一人を切ることに繋がったこと。
そしてその処理が、もう外では“組織の強さ”として消費され始めていること。
全部、自分の知らないところで進んだ。
でもシステム上は、自分の名前で進んだ。
その矛盾が、胃の底から持ち上がらない重さになっている。
---
夜が近づく。
空気が少し変わった。
草原の外縁にいた面々の視線が、同じ方向へ揃う。
LEDGERの帳簿画面が開いた。
SABLEの画面も。
VARGAが一歩だけ前へ出る。
「動くの?」
MINAが低く聞いた。
SABLEが答えた。
「横流し先、掴めた」
LEDGERが続ける。
「LUMENの売却先が、MIDAS WORKSの下部口座に繋がった」
「草原周辺の素材価格を釣り上げていた連中と一致」
MIDAS WORKS。
談合とRMTの黒幕。
まだ名前だけしか見えていなかった、外の“悪”の中心に近いものだ。
VARGAが言う。
「夜の前に入る必要はない」
「線の外で待つ」
ORACLEは小さく頷いた。
「搾取は断たれねばなりません」
「内だけでなく、外も」
その一言で、草原の空気が静かに締まった。
YUは少し遅れて理解した。
LUMEN一人で終わらない。
今日は、そこから先へ行く。
内側の処理で終わりではなく、外へ繋がった線を切る。
MINAが低く言った。
「最初の粛清、ってわけ」
「……今夜?」
「たぶん」
短かった。
風が吹く。
草が揺れる。
冷たい。
でも今日は、その冷たさの向こうで、別の何かがもう始まりかけている。
---
YUは画面を開いた。
```text id="g17sleep"
SLEEP MODE (Beta)
Safe Zone detected.
Proceed? [Y/N]
```
いつもの画面。
いつものY/N。
でも今日は、Yの横にNが見えた。
いつも見えていたはずだ。
でも今日は、Nの方が少しだけ大きく見える。
押さない。
押さないけれど、見えた。
「選べる」ということを、今日は少しだけ意識した。
昨日までは「押す」しか見ていなかった。
今日は「押さない」も見えている。
それは、LUMENのせいかもしれない。
あの人には、Nを押す選択肢があった。
横流しをしない選択肢があった。
でも押さなかった。
自分にも、Nがあった。
除名を止める選択肢があった。
でも押さなかった。
選ばないことは、選ぶことと同じ重さを持つ。
それを、今日初めて身体で理解した。
Y。
横になる。
草の冷たさ。
薄い寝具。
首の位置。
```text id="g17rest"
Resting...
```
沈む。
でも今日は、沈む速度が少しだけ遅かった。
---
夜。
草原の中心でYUは眠っている。
その外で、VARGAは線の手前に立っていた。
RAMPARTは盾を地面に刺し、ORACLEは静かに膝をついている。
さらに外、LEDGERの画面に数字が並ぶ。
取引ログ。
送付先。
口座の枝。
草原周辺の価格変動。
外の市場に伸びた細い線が、一本の場所へ集まっていく。
「ここ」
LEDGERが短く言った。
SABLEが即座に画面を重ねる。
「BOT農場の座標と一致」
「MIDASの下請けが使ってる無人採取群。表では一般クラン偽装」
MUSEが声を潜める。
「うわ、最悪」
「最悪で済むなら軽い」
MINAが言った。
目は草原の中心を見ている。見ているのに、耳は全部拾っている。
VARGAが低く問う。
「入るか」
ORACLEは答えた。
「入らせる必要はありません」
その言葉の意味を、全員が理解するより先に、夜が少しだけ濃くなった。
草原の中心から、風向きが変わる。
吹いたのではない。
流れが決まった。
SABLEの画面で、BOT群の接続数が一斉に揺れた。
「来る」
その一言とほぼ同時だった。
遠く。
草原の外、さらに外。
MIDAS WORKSの下部農場として使われていた採取拠点のログが、一列ずつ灰色に変わっていく。
一体。
三体。
五体。
十体。
BOTの表示が、順番ではなく塊で落ちた。
「強制切断」
「違う……アカウントごと消えてる」
SABLEの声が少しだけ速くなる。
LEDGERの画面では、素材在庫の推定値が一気に減った。
同時に、未出荷の大量ロットがごっそり消える。
BOTだけではない。
管理側のアカウントも落ちている。
VARGAが何も言わず、境界の向こうを見た。
そこは見えない。
でも“向こうで起きている”と分かる。
MIDASの外部農場。
そこは草原ではない。
なのに、草原の夜がそこに届いている。
ORACLEが静かに言う。
「搾取の線がこちらに伸びたのなら、こちらも辿ります」
その言い方は穏やかだった。
穏やかなのに、やっていることは少しも穏やかではない。
SABLEの画面に新しい行が走る。
「素材価格、上がる」
「いや――違う。談合在庫が消えたから、一回乱高下する」
LEDGERが言う。
「正常化の前に混乱が入る」
「でも戻る。戻せる」
それは祈りではなく、実務の声だった。
MIDAS側からの緊急チャットが匿名スレに漏れ始める。
> 在庫が飛んだ
> 採取班が全滅
> 管理アカウントに入れない
> 何が起きた
SABLEが短く笑った。
「やっと外が追いついた」
MINAは笑わなかった。
草原の中心を見たまま、低く言った。
「これで、もう“ただ強い”では済まない」
夜は人を消した。
BOTを落とした。
在庫を吹き飛ばした。
市場の流れを変えた。
もう戦闘ですらない。
世界の回り方に手を入れ始めている。
その真ん中で、YUだけが何も知らずに眠っている。
---
朝。
草原は静かだった。
鳥が鳴く。
風が草を撫でる。
朝露が光る。
YUは目を開けた。
――眠れた。
身体が軽い。
でも今日は、その軽さの下に、昨日とは違う重さがある。
理由は分からない。
分からないのに、何かが変わった感じだけが残っている。
MINAが三歩先にいた。
今日も目が赤い。
でも昨日より、目の奥が冷えている。
「おはようございます」
「……おはよう」
掠れた声だった。
「何かありました?」
聞くと、MINAは少しだけ目を閉じた。
閉じて、開いて、言った。
「すごく、あった」
昨日と似た返答。
でも今日は中身が違う。
「一人切った」
「その線を辿って、外も落ちた」
「外?」
「BOT農場」
「RMTの採取拠点」
「草原の外で、でも草原のせいで」
意味は半分しか分からない。
でも半分で十分だった。
何かが外へ届いた。
夜が、草原の中だけでは済まなくなった。
YUはインベントリを開いた。
黒い布が増えている。
白い破片も、まだある。
そして今日は、見慣れない素材が混じっていた。
錆びた採取札。
無人採掘用の識別片。
草原では見たことのない工業的な欠片。
「……これ、何ですか」
MINAはそれを見て、すぐに顔をしかめた。
「外の農場の残骸」
「……たぶん」
自分は拾っていない。
触ってもいない。
眠っていただけだ。
なのに、外で落ちたものがここへ来ている。
その事実が、今朝はいちばん重かった。
---
**NEOSPHERE ONLINE 匿名掲示板:初心者草原総合 Part 49**
`401:`
ECLIPSE、メンバー除名したってマジ?
`404:`
マジ。設立三日目で粛清は草
`407:`
草じゃなくて草原な(定期)
`411:`
何やったの?
`414:`
ギルド管理下のアイテム横流ししたらしい。夜に増えるやつ
`417:`
あの黒い布とか破片か?
`420:`
たぶん。外の市場で売ろうとしたって
`424:`
草原方面の素材枯れてるとこに乗せようとしたのか
`428:`
それは普通にアウトだろ
`432:`
でも「生活のため」って言ったらしいぞ
`435:`
ゲームで生活のためって言うの、なんかリアルに効く
`439:`
分かる。笑えない
`443:`
で、どうなったの
`446:`
即除名。境界アクセス剥奪。取引禁止。名前非公開
`449:`
容赦ねぇ
`453:`
いやでも組織としては当然じゃね?
`456:`
当然だけど三日目でこれやるのすげぇわ
`460:`
ORACLEが「浄化」って言ったらしい
`463:`
粛清を浄化って呼ぶの宗教すぎる
`467:`
でも中身は粛清だよな
`471:`
マスターの初心者は知ってたの?
`474:`
通知は行ってたらしい。でも仕事中でそのまま通ったっぽい
`477:`
仕事中に粛清通知来るギルド何だよ
`481:`
もう意味わからん
`485:`
意味わからんけど、内部統制できてるのは事実
`489:`
運営より先に内部粛清やってるのウケる
`492:`
ウケないんだよなぁ
`496:`
しかもその夜、外のBOT農場まで落ちたってマジ?
`500:`
マジ。MIDASの下請けっぽいとこ一帯消えた
`503:`
素材相場おかしくなってるのそれか
`507:`
草原の夜、もうPvPじゃなくて経済殴ってるだろ
`511:`
昼は粛清、夜は市場崩し
`514:`
初心者エリアで何やってんだこのゲーム
`518:`
寝てる初心者は?
`521:`
寝てた。たぶん今も何も知らん
`525:`
それが一番怖いんだって
---
草原の上で、YUは目を閉じている。
昨日、自分の名前の下で一人が消えた。
昨夜、その線の先で外の拠点が落ちた。
その人の名前を、昨日初めて知った。
その人の理由を、少しだけ理解した。
その人を止める選択肢が、自分にあったことを知った。
知った上で、何もしなかった。
明日の朝、たぶんまた起きる。
眠れたと思う。
草を払って、通知を見て、MINAに「おはようございます」と言う。
でも今日から、Nが見えている。
押さないけれど、見えている。
それだけで、昨日までの眠りとは少しだけ違う。




