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理性の消える夜

作者: TOMMY
掲載日:2025/11/07

その人の目には、理性の光がなかった。

音楽と談笑が満ちた高級レストラン。

その中央のテーブルで、ひとりの男がまるで飢えた獣のように料理を貪り、驚異的な速度で腹を満たしていく。

前菜が、スープが、メインディッシュが――次々と皿の上から消えていく。


あまりの速度に、厨房のシェフは青ざめた。

料理の提供が追いつかない。

彼は椅子の上に立ち上がり、狂気に満ちた苦悶の表情で、皿を叩いて催促した。

その異様な光景の中で、周囲の客たちは見て見ぬふりを決め込む。

いつもなら、テーブルマナーを説教するはずの人々が、だ。


ついに、デザートが運び込まれた。

コースが始まって、まだ五分も経っていない。

ウェイトレスの手は震えていた。

皿の上には、ひとかけらのケーキと、ひとしずくのソース。


その瞬間、場の空気が凍りついた。

「そんな量で足りるはずがない」

――誰もがそう思った。

恐怖が会場を包み込む。次に何が起こるのか、誰にも分からなかった。


しかし、彼は突然、静まり返った。

椅子に座り直し、服装を正す。

そして、両手を合わせて祈るように目を閉じた。

フォークをそっと手に取り、ケーキを小さく切り分け、口に運ぶ。


……その瞬間、彼の表情が変わった。

恍惚、涙、そして深い沈黙。

誰も声を出せなかった。


やがて彼は、微笑んだまま動かなくなった。

皿の上には、まだひとかけらのケーキが残っていた。


シェフはコック帽を脱ぎ、胸に当てた。厨房の灯りが、静かに消える。


それが、彼の最後の晩餐だったという。


人々はお互いの目を見合った。もしもマナー違反を説教していたら、彼はデザートにありつけなかっただろう。


……人は他人を知れない。

ただ、自らの偽善を、押し付けているに過ぎないのかもしれない。

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