6話 即ググれ
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次の日。努と富勝は山持家の玄関から少し離れたところに立っていた。
「ツトム、すげードキドキしないか?」
「うーん、俺は気が引き締まるカンジ。別世界の存在とはいえ、王族相手だから⋯⋯」
「正直、王様とか高貴な血筋とかの人との距離感というか、存在というか、よくわからねーよな」
「そうだな。対人の時とは少し違うものがあるよね」
「発言、気をつけような」
「うん、わからなかったら調べよう」
2人はポケットにスマートフォンを忍ばせて来客を待った。
小さな時計の短針が本日2度目の7を指した瞬間、玄関にドアの開く音が響いた。その隙間から見慣れた聖女ペルラが現れた。
いつもは疲労を訴えながら靴を脱ぐために座る彼女だが、その日は広い靴置き場の先までズンズン進んで行った。
聖女の背後には、10代前半くらいの女の子がピッタリとくっついていた。大切に手入れされているであろうウェーブの髪、一目で上質な布でできたとわかる中世ヨーロッパ風ワンピースの彼女は、顔を正面の男子達には見せなかった。
シーンと静まり返る玄関。
努はちらっと横にいる親友を見た。彼は緊張のためか、なかなか声が出ないようで水槽の中にいる金魚のように口をパクパクさせているだけだった。
(2人で一緒に言う予定だったけど、仕方ない)
「ようこそ、お越しいただきありがとうございます」
ハッとした富勝は先に頭を下げた友に合わせ礼をした。勢いよく、後頭部が相手に見えるまで。
2人の挨拶を見て、ペルラは少し吹き出しながら、彼らの知る態度のまま、連れてきた少女に話しかけた。
「ほら、きちんと歓迎してもらったのよ。挨拶くらいしなさい」
そのやりとりに驚いたのは、富勝だった。
(あれ、第三王女だったよな? 来る人って。それにペルラさんは公私を分けてるって話だったけど)
「その、ペルラさん、いいんですか? 喋り方とか」
「ん〜? あ、素の状態でいいのかってこと? いいのよ。プライベートの時はこのままでと言われているわ」
「すご、王族と親しいんですね」
「いや、この子が私のストーカーだったの」
「え⁉︎」
目を丸くする富勝に変わって、努がことの詳細を聞いた。彼女の承諾を得て、ペルラはその関係性を話した。
第三王女である彼女は、多くの危機を超え、世界を良くしていった大聖女ペルラを尊敬していた。しかし素直にその気持ちを表現できなかった彼女は、ペルラに近づきたいがために、数多の魔法を使い彼女を知ろうとした。
初めは優しく注意していた聖女だったが、全く聞き入れない彼女にとうとう我慢ができなくなった。
『休みたいの、1人にして!』
聖女としての面ではなく、ペルラとしての面も知った第三王女は、さらに彼女を好きになった。
(わ、私に素を見せてくださった!)
同時に、疲れ切った聖女の顔を見て少し反省した第三王女は、ストーカー行為を仕事中だけにとどめ、彼女が素でいられるようにと、ペルラ専用の休憩室を作った。
その話を聞いて男子校生2人は心の中で思った。
(それ、素を見せたのではなくて⋯⋯)
(疲労の末に爆発しただけだよな⋯⋯)
(でも、ペルラさんはそれを言わないんだね)
(よし、聖女の慈悲に習って、ここは黙ってよう)
噤む男子校生2人の様子を見て、ペルラは咳払いをした。
「まぁ、私がここ最近休憩室を長く利用していたから、このお方は気になってしまっていたわ。だから、隠すより伝えてしまったほうが双方の心情的にもいいと思ったのよ。それに、彼女の協力があれば、リスクを最小限に減らしてあなた達に王国を案内できるし」
説明を終えたペルラは背後にいる第三王女に小さな声で話しかけた。すると、ひょこっと可愛らしい瞳が露わになった。
「⋯⋯この家はあなたの物で、あなた達は異世界の民。とはいえ私は第三王女なので。先に名乗りなさい」
彼女の精一杯の威厳の見せ方、会話のタイミング、泳ぐ目を見て2人は察した。
(この姫もしやとても)(コミュ障なんか)
しかし身分の差は確かなものである。彼ら自身は日本という国の一住民。かたや少女は国の顔となる王族。彼らは言われた通りに名乗ることにした。
名乗ろうとした瞬間、2人の頭に疑問が浮かぶ。
(あれ、目上の人に名乗る時って)(どんなふうに言うんだっけ)
ここで調べるのは失礼だと思いつつ、2人はスマートフォンを取り出し、そそくさと調べた。
『名乗る 目上 敬語』
『社交辞令 あいさつ 自己紹介』
2人は検索結果がうつされている画面を閉じてそそくさとポケットにスマートフォンをしまった。
「初めまして。わたくしは山持 努と申します」
「わたくしは三好 富勝と申します」
名乗り終えた2人の前に立つ彼女達は、固まっていた。
「あの」
「気に触ることをしてしまいましたか」
この場を切り抜ける作戦をと考え込む2人に、聖女と王女の不思議そうな声が届いた。
「前から思っていたのだけど、ポケットにしまった板のようなもの、何? 前は音を出したり何か写したりもしていたわよね」
「この世界の魔法具? 見せてみなさい」
彼女達は彼らが持つスマートフォンに興味を持った。一安心した努たちは、彼らを室内に招き入れ、リビングで一息つきながら話すことにした。
女神エルメーシアが説明した通り、彼女達にとって日本語は異世界の字であっても読めた。該当する母国語習得力に応じた識字ができるため、実際に彼女達に使わせながら解説ができた。
第三王女は名乗ることを忘れ、『科学文明』で運営されているこの世界について検索することに夢中になっていた。
興奮している第三王女には富勝が付き添った。盛り上がる2人を置いて、聖女と努はゆっくり情報交換をしていた。
「改めて聞くとすごいわね。世界のあらゆる法則を解明、それに合わせた道具を作って発展していくなんて。科学、不思議だわ」
「実際、俺たちはスマホみたいな精密機械やその他の道具の仕組みをよく知らないまま使ったりしてしまいますけどね」
「あら。そう考えると、絶妙な信頼関係のもと成り立ってるのね、この世界」
「そう、なのかも」
ペルラが科学を不思議がっている様子を見ていると、努はますます異世界という存在が現実味を帯びていくような気がした。
「俺は魔力がピンときません。内側にあるって、どんな感覚なんでしょうか」
「魔力がない、と言う感覚がわからないからどう伝えたら⋯⋯。うーん」
そこに富勝が乱入した。
「体の作りが違う⋯⋯とか?」
彼は、第三王女の様子をチラチラと確かめながら話した。
「想像だけどよ、血管やリンパ管に続いて魔力練る用の器官があんだよ」
「魔力回路のことね。そうか、あなた達はそれがないのね」
体の作りが異なるという答えに、努は納得した。
(トミー、想像力すごいなぁ)
努が親友の着眼点に感心していると、第三王女が会話に混ざりたそうに視線を向けていた。
「第三王女様、いかがでしょうか」
「⋯⋯テルセーネ。私はテルセーネ。それとあなた達、言葉遣いを私にだけ変えないで。せっかく素のペルラ様がリラックス目的でいらっしゃるの。そもそもここ、ペルラ様の休憩室なので、礼儀作法の使用を禁止します。寛大な私に感謝することね」
めちゃくちゃな態度をとるテルセーネだが、努はそれを受け入れながら対応した。
「ありがとう」
「それと、ペルラ様から話は聞いてる」
「異世界に、あなたの国にお邪魔したいと言う話ですね」
「これからのあなた達次第、ということにするわ」
「なるほど」
テルセーネの伝え方にため息をついた聖女は彼女に言葉を付け加えるよう促した。
「具体的に伝えなさい。そんなふわりとした言い方じゃあ、この場が堅苦しくなるわよ」
「う⋯⋯わ、わかった。つまり! 私を満足させるものを献上できたのならば協力してあげるってこと!」
彼女に出された条件に頷く努と、前途多難だと嘆くあまり顔をぐにゃりと歪める富勝であった。
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