3話 聖女をダメにするソファ
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女神エルメーシアが管理の一端を担う異世界には、王国が存在する。その中でも特にシールール王国は、神々を殺し回ったという魔王を討伐した勇者一行を輩出したことによって力を持っている。
大聖女ペルラも、勇者一行の一員であった。所属した当時の年齢はわずか12歳。それでも彼女は、振り絞れる勇気があった。
魔王を倒し信仰の力を高め神々を復活させたい思い、再び平和な時代を築ける環境にしたい思いは、見事邪悪を打ち滅ぼした。7年越しの悲願だった。
元の世界への帰還を望んだ勇者以外は、高い地位と称号を王から賜った。その権力を使い、ペルラは宗教改革を行った。不正を暴き、信徒に教育を施し、多くに寄り添った。
結果、多少の混乱は起きたものの、以前と比べて大幅に信仰が増えた。
そのおかげで、死した神々は再構築され始め100年後には復活する見通しができた。魔王の侵略により全ての管理を一旦に担っていた、自由と変化を司る女神エルメーシアも本来の身勝手さが許されるほど世界は安定していった。
聖女は多くの望みを実現した果てに思った。
(──疲れた。これからどうしよう)
多くのことを成し遂げた彼女は、“大聖女ペルラ”としての振る舞いを期待され続けていた。
大量の仕事と責任、後継者育成が、段々と個人としてのペルラのあり方を奪っていった。それが原因で、彼女の疲労とストレスは蓄積する一方。同時にやる気も削がれていった。
最近は魔王がいた頃の方が充実していたと思ってしまうようになってしまっている。
(このままでは、私は大聖女を裏切ってしまうかもしれない。ならいっそのこと⋯⋯)
そんな荒れる彼女の心を鎮める場所が、1人で楽にできる休憩室だった。それが、自由すぎる女神によって奪われたと理解した後、取り繕うこともできなかった。
少し話をした事によって多少の落ち着きを取り戻した彼女は、異世界の住宅の一室に、女神と一緒に立ち尽くしていた。
ソファと言われて置かれたそれは、椅子の形状ではないものだった。異世界から来た彼女たちには、よくわからない布が何かを包んだものにしか見えない。
「ど、どう座ればいいのこれ」
「わ、わからないよ」
「エルメーシア様、あなた2年間こちらにいたのでは」
「ツトムを驚かすことにしか興味持ってなかったからさ」
「えー⋯⋯」
ソファと呼ばれた謎の物体と睨み合いをしていたペルラだったが、重さが体全体にのしかかる感覚に我慢できず、意を決してソレに座り込んだ。
「──!」
ソレは彼女の体を優しく包み込むように受け止めた。
『僕に全て預けて。君はただ疲れを癒すだけでいいんだよ』
ペルラは間違いなく、妙なソファにそう言われたと確信した。
「はぁぁぁぁ⋯⋯最高♡」
安らぎでとろけてしまいそうな声を出すペルラに、女神は驚きながらもう一つのそれを見た。
(これが、あのペルラを、はぁ、はぁ、私も!)
女神はそれを抱きしめるように飛びついた。
「な、なにこれぇ!」
ソファは女神に合わせて中身のバランスを変え変形した。
『どんな体制でもリラックスさせてあげるよ』
女神はソファにそう言われたと確信した。
2人はさらに力をぬいて、ソファに身を預けた。
「はぁぁ」
「しあわせぇ」
食事を買って帰宅した努と富勝は、居間の聖女と女神を見た。
「気に入ってくれたかな?」
「あー、これは抜け出せなくなるやつだ」
聖女はスースーと寝息を立てていた。一方エルメーシアは意識があるようで、ソファに抱きつきながら2人を迎えた。
「あーおかえりぃ」
「女神様がそんなんでいいのかぁ?」
富勝が白い目で彼女を見ている一方、努は買ってきたものを整理しながら質問した。
「女神様、この家はいつまで異世界と繋がったままでしょうか」
「んーずっとぉ」
「ずっとですか」
「うんー」
この会話に、すぐさま富勝がツッコミを入れた。
「まてまてまて! ずっと、てなんだ⁉︎ 治んないのこれ!」
女神は頬で感じるソファの心地よい感覚に気を取られながら、さらっと言ってのけた。
「繋げることしか考えてなかったから治し方なんてわかんないよぉ」
「はぁぁぁぁぁあ⁉︎」
驚きのあまり富勝は自分が買ったおにぎりを握り潰してしまった。
2度目の絶叫をする親友に、おしぼりとキッチンペーパーを渡す努であった。
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