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第六話

 町を制圧してから二日後、俺の鋭敏な感覚が森の外から近づく気配を捉えた。


 四つの異なる匂いが風に乗って届く。汗と革、鋼鉄と魔力、聖油と香、そして毒の微かな残り香。明らかに戦闘に慣れた者たちの匂いだった。

 彼らは俺の行動パターンを研究していたのだろう。森での休息場所を予測し、完璧な包囲網を敷いてきた。


 最初に姿を現したのは、巨大な両手剣を背負った戦士だった。


 筋骨隆々とした体格に魔法で強化された重装甲を身に纏い、剣の柄には複数の魔法石が埋め込まれている。その武器から発せられる魔力は、町の騎士たちの装備とは次元が違った。

 戦士の顔は戦闘で刻まれた無数の傷跡が物語る歴戦の勇者そのものだった。鋼のような意志を秘めた瞳が、俺を値踏みするように見据えている。


 左手側からは軽装の盗賊が現れた。

 両手に握られた短剣は暗い輝きを放ち、刃には毒が塗られているのが匂いでわかる。彼の動きは音もなく、常人なら存在に気づくことすら困難だろう。

 しかし、俺の全方位視覚は彼の位置を正確に把握していた。


 後方には魔法使いと僧侶が控えている。


 魔法使いは既に高位魔法の詠唱を開始しており、その呪文は俺がエルフから習得した知識でも理解できない複雑な構造をしていた。空気中のマナが異常な密度で集束し始め、これまで経験したことのない規模の魔法が準備されているのが分かった。

 僧侶は聖なる力でパーティー全体を包み込み、強力な防護を施している。その神聖な波動は町の騎士たちが使用していたものとは比較にならない純度と威力を持っていた。


 戦士が一歩前に出て、俺を見据えた。


「化け物よ、貴様の蛮行もここまでだ。」


 その声には揺るぎない決意が込められていた。町の騎士たちとは明らかに格が違う。


「我らが必ず討ち取ってやる。」


 しかし、俺は既に彼らの手の内を読んでいた。


 町で捕食した兵士や冒険者ギルドの関係者の記憶に、このパーティーの詳細な情報が含まれていたのだ。戦士の得意技、魔法使いの専門分野、盗賊の暗殺技術、僧侶の聖なる力の特性。すべて把握済みだった。


 戦闘が開始された瞬間、俺は彼らの実力を痛感した。


 魔法使いの『グランドフレア』が俺を包み込む。町の騎士たちの攻撃とは比較にならない威力だった。

 炎の渦は直径十メートルにも及び、中心温度は鋼鉄を瞬時に溶解するほどの高熱に達している。炎の色も普通の火炎とは異なり、白と青が入り混じった異常な輝きを放っていた。


 炎の温度は異常に高く、俺のゲル状の身体の表面が激しく沸騰し始める。これまで獲得した火炎耐性でも、完全には防ぎきれない威力だった。

 身体の一部が気化し、内部組織が急激に変性していく。だが、俺の適応機能は即座に対応を開始した。


 同時に戦士の魔法剣が正面から迫ってくる。

 剣身に宿る魔力は複数の属性が融合されており、物理攻撃と魔法攻撃の境界が曖昧になっている。一撃で山を砕くほどの威力が込められていた。


 剣は単なる金属の塊ではない。

 火炎、氷結、雷撃の三属性が螺旋状に絡み合い、さらに聖なる力まで織り込まれた複合攻撃だった。この一撃を受ければ、俺でも深刻な損傷は避けられないだろう。


 盗賊は俺の死角から暗殺術を仕掛けてくる。

 彼の短剣には強力な毒が塗られており、さらに魔法による強化も施されている。毒の成分を嗅覚で分析すると、神経毒と出血毒の複合体だった。普通の相手なら一撃で戦闘不能に陥るだろう。


 短剣の軌道は極めて巧妙で、俺の急所を正確に狙ってくる。心臓に相当する核の部分、神経中枢に当たる頭部、そして動力源である触手の基部。三本の短剣が同時に異なる急所を狙い撃ちしてくる。


 僧侶の聖なる束縛術が俺の動きを封じようとしてくる。


 町で経験した聖なる力よりもはるかに強力で、俺の身体に深刻な影響を与えようとしている。浄化の力が俺の存在そのものを否定する圧力となって押し寄せてくる。

 空間そのものが神聖化され、俺のような異形の存在には息苦しいほどの敵意に満ちた環境が形成されていく。


 四方向からの同時攻撃。それぞれが致命的な威力を持っている。


 しかし、俺の身体は彼らの期待を裏切った。


 魔法使いの火炎魔法に対しては、エルフとの戦闘で既に完全な耐性を獲得している。炎が俺の身体に触れた瞬間、熱を吸収して無効化する組織が活性化した。

 ただし、『グランドフレア』の威力は想定を上回っていた。既存の火炎耐性だけでは不十分で、新たな適応が必要だった。


 高温に対する耐性組織が急速に進化し、より強力な熱吸収機能が構築されていく。同時に、火炎の魔力構造を詳細に解析し、同種の攻撃を俺自身が使用する能力も獲得していく。


 戦士の魔法剣も、俺の金属片による防御で対応可能だった。

 身体に埋め込まれた鉄パイプの破片が瞬時に再配置され、剣の軌道を逸らす。同時に、剣に込められた魔力を分析し、対抗手段を構築していく。


 複合属性攻撃の構造を理解し、各属性に対する個別の耐性を統合して、包括的な防御機能を生成する。火炎、氷結、雷撃、聖属性のすべてに対応できる多重防御システムが短時間で完成した。


 盗賊の暗殺技術は確かに巧妙だったが、俺の全方位視覚では死角は存在しない。

 彼が動き始めた瞬間に位置を把握し、毒の短剣が俺の身体に触れる前に触手で迎撃する。毒に触れた部分は瞬時に毒耐性を獲得し、逆に毒を中和する能力まで発現した。


 神経毒の成分を分析し、同種の毒素に対する完全な免疫を確立する。さらに、俺自身が毒を生成する能力も獲得し、攻撃手段として活用できるようになった。


 僧侶の聖なる力も、騎士たちとの戦闘で既に対策済みだった。

 聖属性への耐性が発動し、束縛術の効果を無効化する。それどころか、聖なる力を吸収することで、俺の浄化耐性はさらに強化された。


 俺の反撃は彼らの予想を遥かに上回る速度で展開された。


 身体から射出された金属片が盗賊の足を狙う。彼は巧みに回避したが、金属片はまるで意思を持つかのように軌道を変更し、彼の肩を貫いた。

 俺の金属片射出能力は戦闘を重ねるたびに進化している。射程距離、威力、精度のすべてが向上し、さらに軌道制御まで可能になっていた。


 分裂した触手が戦士を拘束しようとする。


 戦士は大剣で触手を斬り払おうとしたが、ゲル状の構造は刃をすり抜け、彼の腕に巻きついた。魔法で強化された筋力でも、俺の拘束力には対抗できない。

 触手の強度と柔軟性も戦闘経験により大幅に向上している。物理攻撃をいなしながら、確実に相手を制圧する高度な技術を獲得していた。


 魔法使いには火球術で牽制する。

 俺の火球は彼の『グランドフレア』と正面から衝突し、互角の威力を発揮した。詠唱なしでこれほどの威力を発揮できることに、魔法使いの表情が変わる。


 その表情には困惑と恐怖が混在していた。自分の最高技術である高位魔法が、俺によって即座に再現されている現実を受け入れがたいのだろう。


 僧侶の詠唱を妨害するため、雷撃魔法を発動する。

 エルフから習得した雷撃術が僧侶の足元に炸裂し、彼の集中を乱した。聖なる防護が一瞬弱まる。


 冒険者たちの表情に動揺の色が浮かんだ。

 彼らの完璧に見えた連携攻撃が、俺には全て読まれていたのだ。しかも、俺の反撃は彼らの想定を遥かに超えていた。


 しかし、彼らもAランクの実力者だった。


 戦士は拘束から逃れるため、剣に聖なる力を込めて触手を切断しようとする。聖なる刃が触手を貫いた瞬間、確かに痛みを感じさせたが、即座に再生が始まった。

 聖なる力による損傷も、俺の再生能力の進化により回復速度が大幅に向上していた。


 盗賊は『影分身の術』を発動し、複数の分身で俺を惑わそうとする。


 しかし、俺の嗅覚は本体の匂いを正確に識別していた。分身は視覚的な幻影でしかない。

 本体の位置を特定した俺は、触手で正確に彼を捕捉した。幻術による欺瞞は、俺の多角的な感覚能力には通用しなかった。


 魔法使いはより高位の魔法『アイスランス』を準備し始める。

 巨大な氷の槍が空中に形成され、俺を貫こうと迫ってくる。その氷塊は建物ほどの大きさがあり、表面には複雑な魔法文字が刻まれていた。これまで経験したことのない低温が俺の身体を襲った。


 氷の槍が俺の胴体部分に突き刺さる。

 瞬間、凍てつくような寒さが全身を駆け抜けた。エルフとの戦闘で獲得した氷結耐性では対応しきれない威力だった。体内の液体成分が急速に凍結し始め、動作能力が著しく低下する。


 しかし、適応機能は即座に対応した。

 氷結に対する耐性組織が急速に進化し、低温エネルギーを吸収する新たな機能が構築される。数秒後には、動作阻害は完全に解消され、俺自身も同等の氷結魔法を使用できるようになった。


 僧侶は強力な回復魔法でパーティーの体勢を立て直そうとする。

 戦士の傷が瞬く間に癒え、盗賊の体力も回復していく。彼らの連携が再び完成しようとしていた。


 だが、俺はその回復魔法の構造も詳細に分析していた。

 聖なる力を基盤とした生命力の再生術。その原理を理解した俺は、逆に生命力を削ぐ技術を開発することができた。


 戦闘は膠着状態に入った。


 彼らの実力は確かに高く、俺の攻撃を完全に防ぎきることはできないものの、致命傷を与えることも困難だった。

 しかし、時間の経過は俺に有利に働いた。


 魔法使いの『アイスランス』を受けた瞬間、俺の身体に氷結耐性が発現する。

 低温に対する適応能力が急速に発達し、氷の槍は俺の身体を貫くことなく砕け散った。同時に、俺も氷結魔法を使用できるようになった。


 戦士の聖なる力を込めた攻撃に対しては、聖属性への耐性がさらに強化される。


 一度目の攻撃で軽い痛みを感じたが、二度目以降はほとんど効果を示さなくなった。聖なる力に対する免疫が完成し、むしろその力を吸収して俺の能力向上に活用できるようになった。


 盗賊の毒攻撃は、俺の身体構造を毒に対する完全な免疫へと変化させた。

 それどころか、俺自身が毒を生成する能力まで獲得した。身体から分泌される粘液に毒性が加わり、接触した相手を徐々に弱らせることができるようになった。


 様々な毒素を合成し、神経毒、出血毒、麻痺毒を自在に使い分けることが可能になった。


 僧侶の束縛術も、二度目以降はほとんど効果を示さなくなった。

 聖なる力に対する耐性が完全に確立され、むしろ聖なる力を吸収して自分の力に変換できるようになった。


 一方、冒険者たちは持久戦に不利だった。


 魔法の使用はマナを消耗し、高位の技術ほど体力を奪う。戦士の重装備も長時間の戦闘では負担となっている。

 魔法使いの詠唱に疲労の色が見え始め、僧侶の回復魔法も効果が減少してきた。盗賊の動きも当初の鋭敏さを失っている。


 戦闘開始から一時間が経過した頃、形勢は完全に俺の優位に転じていた。

 冒険者たちの連携は疲労により精度が落ち、個々の技術レベルも低下している。息切れが激しく、動きに余裕がない。


 一方、俺は彼らのあらゆる攻撃に対する完全な対策を確立していた。


 魔法使いが最後の切り札として『メテオ』を発動した。

 空から降り注ぐ巨大な炎の塊。町で経験した騎士団の『グランドメテオ』に匹敵する威力だった。


 直径数十メートルの火球が空から落下してくる。その威力は地形を変えるほどの破壊力を秘めており、直撃すれば森の一部が消失するだろう。

 だが、俺の身体は既にその威力を無効化するレベルの魔法耐性を獲得していた。


 炎の塊は俺の身体を素通りし、地面に巨大なクレーターを作っただけだった。周囲の木々が炭となり、土が溶岩のように赤く染まる。

 しかし、俺は無傷で立っていた。


 絶望の表情を浮かべる冒険者たちを、俺は冷静に観察していた。


 彼らの技術は確かに素晴らしく、人間としては最高レベルの実力を持っている。組織的な連携も見事で、個々の能力も申し分ない。


 しかし、俺の進化能力は彼らの想像を超えていた。

 どんな攻撃も一度受ければ二度目は通用しない。彼らの見事な連携も、俺の学習能力の前では一時的な脅威でしかなかった。


 戦士が最後の力を振り絞って突撃してくる。

 聖なる力を全身に纏い、命を懸けた一撃を俺に向けて放つ。その威力は確かに脅威的だったが、俺の身体は既にその攻撃パターンを完全に把握していた。


 触手で軽々と受け止め、そのまま彼を拘束する。

 残る三人も順次無力化していく。盗賊の最後の暗殺術も、魔法使いの禁術も、僧侶の最上級回復魔法も、すべて俺には通用しなかった。


 四人の冒険者が俺の前に無力に横たわっている。

 彼らの絶望に満ちた表情を見下ろしながら、俺は捕食を開始した。


 戦士からは王国の軍事機密と政治情報を獲得した。

 王国の軍事力配置、要塞の位置、他国との軍事同盟の詳細。さらには王族の系譜や政治的対立関係まで、王国の中枢に関する機密情報が俺の知識となった。


 魔法使いからは国家レベルの魔法技術を習得した。

 戦略級の大規模魔法、国家の防衛に使用される結界術、そして魔法兵器の製造技術。これらの知識により、俺は個人でありながら国家に匹敵する魔法的戦力を獲得した。


 僧侶からは宗教組織の内部情報を得た。

 王国の国教である光の教会の組織構造、聖職者の階級制度、そして宗教的権威の政治への影響力。さらには、他の宗教との対立関係や、異端審問の実態まで詳細に把握した。


 盗賊からは地下組織と諜報活動に関する知識を獲得した。

 王国内部の秘密結社、各国の諜報網、暗殺技術の詳細。これらの情報により、表面的な政治だけでなく、社会の裏側で動く勢力についても理解できた。


 これらの情報により、俺はこの世界の政治構造と権力バランスについて深く理解することができた。


 また、Sランク冒険者や各国の最高戦力についても詳細な情報を得た。

 北の帝国には『剣聖』と呼ばれる戦士がおり、南の連邦には『賢者』と呼ばれる魔法使いがいる。彼らはそれぞれの国の最高戦力として君臨している。

 俺がさらに強くなるためには、これらの存在との戦闘が必要になるだろう。


 森に戻った俺は、自分の力の恐ろしさを初めて実感し始めた。

 王国最高の戦力を投入した討伐隊を、俺は単独で壊滅させた。これは単なる戦闘能力の差ではなく、進化システムそのものの圧倒的な優位性を示している。

 どんな攻撃も学習し、対策を立て、最終的には完全に無効化してしまう。この能力がある限り、俺に対抗できる存在は極めて限定的だろう。


 しかし、それでも俺の探求は終わらない。

 この世界の頂点に立つ存在たちとの戦闘により、さらなる進化を遂げることができるはずだ。


 夜が深まる中、俺は次の行動計画を立てていた。森の外へと足を向ける時が来たのかもしれない。

 遠くの空に輝く二つの月を見上げながら、より強力な敵との戦闘への期待を膨らませていた。


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