第十四話
ダンジョンから帰ってきた俺はエリッサを独占するべきだと、心の底から思った。
彼女の血肉を味わい、膨大な魔法知識を吸収し、さらなる進化を遂げる。これが俺の根本的な願望だった。
エリッサという唯一無二の人物を殺害し、血肉を食べて、その魔法と知識を得るべきなのは明らかに俺だけだからだ。
ダンジョンで彼女が危険にさらされた時、俺は反射的に彼女を守った。その時の感情は、強烈なものだった。
俺が力を得るために捕食するための対象を守るための愛情。
そう、これは間違いなく愛情に到達していた。
エリッサを完全に自分のものにしたいという純粋な願望。他の誰にも渡したくないという独占欲。そして、そのために彼女を捕食するためだけに保護し続けるという行動。
これらすべてが統合されて、この今の状況下において、俺の感情となっているのだ。
一般的な人間の愛情とは異なるかもしれないが、俺にとってはこれが最も自然で合理的な愛情の形である。
俺はこの感情変化について、何の疑問も抱かない。極めて論理的で当然の過程だった。
この確信により、これからの俺の行動指針は明確になった。
エリッサを他の誰からも守り、彼女の安全を確保し、彼女を完全に俺の支配下に置いて、捕食するべき時を待つのだ。
そして、この愛情を彼女に伝える必要がある。
なぜなら、俺の感情変化を理解してもらい、俺の愛情を受け入れてもらったほうが、保護しやすい。
翌朝、エリッサが俺の部屋を訪れた時、俺は自分の変化について語ることを決めた。
「おはようございます、タカシ。昨日のダンジョン探索の件で、お話ししたいことがあります。」
エリッサが微笑みながら言った。
『俺も話したいことがある。』
俺はテレパシーで応答した。
「それは興味深いですね。ぜひ詳しく聞かせてください。」
エリッサが研究者らしい興味を示した。
俺は自分の論理的思考過程と、その結論について説明を始めた。
『俺は君を捕食したいという欲求を持っている。だから、君を捕食するために君に害なすものをすべて攻撃する、君を保護するということだ。』
「なるほど。それは矛盾していませんか?」
エリッサが冷静に分析した。
『矛盾ではない。論理的な帰結だ。』
俺は自分の結論を伝えた。
『君をほかの存在に捕食されないようにする。それだけのことだ。』
エリッサの表情に変化が現れた。驚きではなく、深い理解の光だった。
「つまり、あなたの愛情表現ということですね。」
彼女がそう言った時、俺は安堵した。
エリッサは俺の感情を正しく理解してくれた。これが愛情であることを認識してくれた。
『そうだ。俺の愛情だ。』
俺は確信を持って答えた。
「変わった恋の告白ですね。」
エリッサは口でこそ、そうはいっていたが、特に嫌がる様子はなかった。
彼女は俺をじっと見つめた。
「なるほど、これはまたすごい存在から愛されましたね。えへへ。」
彼女は恐怖や嫌悪感を示すことなく、むしろ知的好奇心に満ちた表情で俺を見つめていた。
彼女は俺の異常な愛情を、恋の告白として受け取ってくれた。その独特さに魅力を感じているようにすら見える。
「あなたの感情の変化は、学術的にも非常に興味深い現象です。」
エリッサが研究者らしい興奮を込めて語った。
「捕食欲が保護欲に転化し、最終的に独占欲として統合される。これは愛情の新たな形態と言えるかもしれません。」
『君は俺の感情を理解するのか?』
「いいえ、正直、分かりかねますが。その愛情の表現方法に正解や不正解はありません。あなたのそれも、一つの選択肢として十分に価値があります。」
そういう彼女は満更でないもない様子だった。
『そうか。』
「はい、では旦那様とお呼びすればいいですか?」
茶化すかのような言葉を彼女は問いかけてきた。
俺は無視した。