第7話 そんなママの勇気の種
「いないけど。それってどういう……」
「ううん、別に深い意味はないよ」
すると、秋桜ちゃんがモリモリ食べながら言った。
「あのね。ママね。おにーちゃんのネコちゃんになりたいの」
は?
幼児語録か?
本気で意味が分からない。
大人が「貴方のネコちゃんになりたい」って言ったら、ほぼ確実にエッチなお誘いだ。
だがしかし。
相手は幼児。
短絡的に考えてはいけない。
本人に聞いてみるか。
今の舞雪さんなら、答えてくれる気がする。
「あの、舞雪さん。ネコちゃんってなんですか?」
すると、舞雪さんはニッコリした。
「初めて下の名前で呼んでくれた♡」
いやだから。
ネコちゃん……。
「いや、でも、俺の方が年下かもしれないし」
「わたし、そんな年上じゃないもん」
「おれ、21です」
「わたし、20歳」
……若いなぁ。
その年だったら、同じくらいの年の子は、みんな自分のことだけ考えて、自分のためにだけに働いて、遊び回ってるよ。
でも、舞雪さんは、ちゃんと働いて、1人で子供を育てて。ほんと尊敬する。
これ、失礼かな。
でも、気になる。
聞いちゃおうかな。
「あの……、秋桜ちゃんのお父さんのこと聞いていいですか?」
「うーん。秋桜は、コウノトリさんが運んできたの♡」
やっぱ、言うのイヤみたいだ。
「あ、やっぱいいです」
すると、舞雪さんは俺が飲みかけていたビールをゴクゴクと飲みほした。
「ぷはーっ。わたしね。秋桜は中学の頃にできたの」
舞雪さんは、ちらっと秋桜ちゃんのことを見た。秋桜ちゃんは、食事を終えて、部屋の片隅でお絵描きをしている。
空気を読んでいるみたいだ。
舞雪さんは声のトーンを下げた。
「あの子の父親。まだ大学生でね。子供できたって言ったら音信不通」
大学生と中学生って。
相手はまだ子供じゃん。
「無責任だと思います」
「いや、無理もないよ。普通、イヤでしょ。大学やめるの。それに、わたしは幸せだよ。秋桜、世界一可愛いし♡」
「俺も秋桜ちゃん大好きです」
「ありがと。だからね。だから、隼人くんも大学はちゃんと卒業してね。勉強できるのは、すごく幸せなことだから」
舞雪さんは、きっと高校もいけなくて。でも、俺なんかより、学べることの価値をわかってるのだろう。
そして、俺は気づいてしまった。
そんな生半可な俺が真剣に告白しても、ほぼ確実にフラれる。
舞雪さんは続けた。
頬は赤くて、目はとろんとしている。
「だからね。今夜だけ。隼人くんのネコちゃんにしてにゃんにゃん♡」
どうやらネコちゃんは、大人用語のネコちゃんだったらしい。