第3話 そんなママとの湯西川温泉
旅行当日。
ほぼ他人の俺たちは、北千住駅で待ち合わせをすることになった。旅の目的地は栃木県の湯西川温泉。東武特急で行くことができる。
いたいた。
改札の前で秋桜ちゃんが手を振っている。
舞雪さんは、黒髪で肩くらいまでのストレート。化粧は薄いが、唇の形がすごく綺麗だ。笑顔(ほぼ見たことがないが)になると、本当に綺麗な口元なのだ。あと、鼻も形が整っている。
俺の持論としては、正直、目はメイクでどうとでもなる。鼻と口が整っている女性が本当の美人なのだ。
舞雪さんは、奥二重で目元も綺麗だ。つまり、相当の美人なのだ。身長は150くらいで、バランスのいいスタイル。少しオドオドしている。自意識低めなところも、なかなか良い。
もう少し愛想がよければ、相当モテそうなのにな。
電車に乗ると、席は3人掛けだった。
秋桜ちゃんを真ん中にして、舞雪さんと挟むように座った。
(なんだか、親子みたいだな)
すると、秋桜ちゃんがほおを膨らませた。
「せっかく仲良し3人なのに、おててつないで」
いや、仲良しってか。
内2人はほぼ他人なんだが。
すると、秋桜ちゃんは左右の手で舞雪さんと俺の手をもって、強引にくっつけた。
いま、俺の手は。
秋桜ちゃんの膝上で、舞雪さんと繋いでいる。
舞雪さんの手は冷たくて。
でも、汗をかいている。そして、心拍がトクトクトクトクと響いてくる。
やけに心音が速いんだけど。
大丈夫か?
秋桜ちゃんは「むー」と唸った。
そして、俺と舞雪さんの指を広げて、互い違いに組み合わせるように繋いだ。
「ママ。おにーちゃんとお手手繋ぎたいっていってたよ。ちゃんと頑張って?」
気づけば、恋人繋ぎになっていた。
舞雪さんは真っ赤になって俯いたままだ。
俺は今、ほぼ他人のお向かいさんシンママ(美人)と手を繋いでいる。そして、湯西川までは、まだ2時間以上かかる。
ずっとこのままは正直、きついんですが……。
1時間ほどすると秋桜ちゃんは寝た。
(これでようやく解放される……)
俺が手を離そうとすると、舞雪さんの指がギュッとなった。んっ? ……離れない。
「あの。桜島さん、手……」
すると、舞雪さんは秋桜ちゃんに身体を寄せて目を瞑っていた。
「すぅすぅ」と寝息をたてている。
ほんとうに、すうすうと朗読しているような寝息だなぁ。
毎日。仕事に子育て、ご苦労様。
きっと疲れてるんだ。
このまま起こさないようにしよう。
俺はずっと手を繋いだまま、湯西川まで行くことになった。