第2話 そんなママがシャイなことについて。
その日以来、ますます気まずい。
睨んですらくれず、鉢合わせになっても、舞雪さんは目も合わせずに、そそくさといなくなってしまう。
(おれ、頑張ってる舞雪さん。尊敬してたんだけどな)
好きとは少し違う。
頑張ってる姿を遠くから見てるだけで幸せだったんだけど。残念だ。
そんなある日、インターフォンがなった。
ドアをあけると、秋桜ちゃんだった。
「おにーちゃん。明日は、ひま? あのね。旅行の券あたったんだけどね。こすもすは0.5人だから、あと1人いけるの」
自分で自分を0.5人と言い切るとは。
この子、将来はきっと相当な大物になるぞ。
で、この子は、どうして俺のところに来たんだ?
秋桜ちゃんは続ける。
「ママが、隼人くんもいけないかなぁって」
え、まじ?
俺は明日から休みだから行けるけれど。
俺、舞雪さんとほとんど話したことないんだけど。そんなことあり得るのか?
すると、ドアが開いて、舞雪さんが出てきた。口をこわばらせ、真っ赤な顔をしている。
「こすもすっ!! 余計なこと言わないっ!! お部屋にもどって」
そう言って秋桜ちゃんの手を引いた。
俺は思った。
余計なことっていうことは、否定ではないよね? ってことは、秋桜ちゃんの話は本当なのか?
秋桜ちゃんは、モップのように地面に転げ回り手足をバタバタした。
「いやぁぁ。おにーちゃん、旅行にお誘いするのっ。ママだって、本当は来て欲しいんでしょー? おにーちゃんのために買ったエッチなパンツ、見て欲しいんでしょー?」
おいおい。
この子、すごいこと言うな。
すると、舞雪さんは困り顔でいった。
「おにーさんだって、いきなり誘われても用事あるのっ」
こすもすちゃんは食い下がる。
「じゃあ、用事なかったら一緒にいくぅぅぅ」
舞雪さんな困り果て、俺に聞いた。
「山本さんだって、いきなりそんなこと言われたって無理ですよね?」
この質問。
絶対に俺に用事があるのを前提にしている。
秋桜ちゃんを納得させるためのブラフだ。
だが、俺は明日から暇なのだ。
だから、正直に答えた。
「いや、暇ですけど」
「……」
こうして俺は。
ほとんど話したこともないお向かいのシンママさんと、旅行に行くことになった。