白雪姫、召喚される
仕事終わり、彼氏が昨日持ってきてくれたアップルパイを頬張りながら、ストーリーを更新する。
「彩芽誕生日おめでとう♡」
SNSに表示された写真を見て、驚きを隠せない。
2人仲睦まじく並ぶ姿、大きな誕生日ケーキにはあやめ誕生日おめでとうの文字。
親友の隣に並ぶのが彼ではなければいいねを押しているはずだった。
「っはぁっはぁ」
頭が混乱している。息ができない。
彩芽の隣に映るのは私の彼氏である太輔だ。
2人が付き合っていたのなんて知らなかった。
そもそも私たちはいつ別れたのだろう。
彩芽に太輔を紹介したのは先月だった。
「姫、誕生日おめでとう!」
「わざわざ店まで来てもらってごめんね」
「全然!少し触ってもいい?」
「もちろん、可愛がってあげて」
私、白雪姫は念願のペットホテルの店員となり、毎日慌ただしく過ごしていた。
ペットのお預かり、シャンプー、カット、お散歩など、動物のお世話はとても楽しい。
誕生日なんてすっかり忘れていたけれど、彩芽は誕生日をお祝いしたいと言ってくれて
仕事終わりに店によってくれたのだ。
「誕生日まで残業するなんて、彼氏とお祝いしないの?」と
彩芽がマンチカンを抱きながら言う。
マンチカンはとても嫌がっていて今日は機嫌が悪いみたいだ。
「うーん、彼も忙しいみたいだから…」
その時、店のドアが開いて太輔が入ってきた。
「お疲れ様」と私に笑いかける。
彩芽はしばらく無言で太輔を見ていた。
「彩芽?」
私が声をかけると、彩芽は慌てて太輔に自己紹介をする。
太輔もいつも話に聞いていますと言って彩芽と談笑を始めた。
私は片付けのために裏に戻り、着替えて店を出ると、
2人はスマホを持って仲良く話していた。
SNSを交換したのはあの時なんだろうか。
親友だと思っていたのは私だけだったんだ。
最近、太輔が忙しいのも、連絡があまり取れないのも、彩芽といるからだったんだ。
彩芽はとても可愛くて、誰からにも好かれるタイプだ。
みんなに愛されるのに、驕らず、優しくて、こんな私とも友達でいてくれる。
そう思っていたのに。
私の幸せは所詮茶番だったんだ。
許せない。絶対許せない。
涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
初めての彼氏も、親友も、同時に失ってしまった。
私の誕生日はコンビニのショートケーキだったのに………
悲しみと怒りが同時に込み上げるなんて初めてだ。
どんどん息が苦しくなる。
泣いているからではない。
なんだか気分が悪い。
すごく吐きそうだ。
アップルパイ、昨日までの消費期限だったのに食べちゃまずかったかな、
なんて反芻しながら意識が遠のいていく。
涙をこぼしながらゆっくり瞼を閉じる。
ふと、店の常連の動物たちの顔が走馬灯のように流れる。
少し、眠りたいーーー
どこかから声がする。
誰かが、私を呼んでいる...?
目を開けると、白い大きな広間で大勢に囲まれている。
みんな白いローブを羽織っていて、
ステンドグラスから差し込んだ日差しでローブがキラキラと輝いている。
「眩しい………」
「聖女様!お目覚めですね!」
溌剌とした大きな声が頭に響く。
眉間に皺を寄せながらもう一度目を開けると、
白髪に青色の目をした青年と目が合った。
(!!!!!!!)
私が目を見開くと、青年は召喚成功!と大声を上げる。
白いドーム内が歓喜で満たされた。
「聖女様、私、ミハエル・ヴァン・ラグドールと申します。
この国で神官を務めております。
よろしければお名前を教えていただけますか?」
満面の笑みがまるで天使のようで、とても可愛らしい。
「な、名前?」
「はい!」
「えっと、白雪、姫、です」
「白雪姫様ですね!」
「あ、いえ、白雪、姫、です」
「白雪姫様!こちらはシーカー・ギリストス・サイベリアン大神官です」
(聞いてないな…)
ちらりと目を写すと隣にいる紺色長髪の美形が微笑んだ。
(うわぁ、まるで作り物のようなお顔だわ)
ぼーっと眺めていると意識が鮮明になってきた。
「ここは、どこ?」
青目の天使に問いかける。
「こちらはシュネール帝国首都にある、大神殿です。
白雪姫様は聖女様として先ほどサイベリアン大神官が召喚されました。
ご気分はいかがですか?」
「召喚…?聖女...?」
(誰か私の顔を思いっきり引っ叩いてほしい)
混乱している私の元に黒髪の騎士が近づいてくる。
黒髪に金色の目をした、とても端正な顔立ちをしている。
「お目覚めか?」
長い足がぴたりと目の前で止まる。
声の方へ顔を上げると金眼のイケメンがこちらをみて私の前にひざまづいた。
「私の名はシュターク・ラルム・スコティッシュ・フォールドだ」
「しらゆき、ひめ、と申します」
今度は間を強調してみる。
金眼のイケメンが私をまじまじと見つめている。
初めて頭がヒートしそうだ。
突然の吐き気に手で口元を抑える。
まだ気分が悪い。
気を抜くとアップルパイが出ちゃう。
急に眠気が襲ってきて
目を閉じた。
(きっと悪い夢を見ているのよ。
今日はとても大変な一日だったから)
目を瞑って呟く
「悪い夢から覚めますように」
夢の中でふわふわと体が揺れている。
ホワイトムスクのいい匂い。
「いい匂い…」
少しだけ目を開けると黒髪のイケメンが私を運んでいる。
「もう少し寝ていろ」
(お姫様抱っこなんて久しぶりだなぁ)
いい夢だ。
そう思って、また目を閉じた。




