9 人間の中でも特に嫌いなのが
バンカ視点
結局私たちは宿に戻ってきた。
その時の宿の女将さんの顔は、苦虫を嚙み潰したような顔だった。
「さて、アマツが戦っている間私たちはどうする?」
「どっちが勝つか賭けよう!」とライ。
「あ、アマツさまが勝つと思います」
「私は大精霊が勝つ方に今日の晩飯をかけるわ」
「うちも! ドゥルガーが勝つ方に賭ける!」
「アマツさまが負けるわけありません!」
正直勝てわけがない。
大精霊が命を奪えないにしろ
手加減で戦ってくれるとしても魔族は精霊族とは部が悪い。
お生憎、魔族は精霊術にめっぽう弱いのよねぇ。
「ライ、どうして大精霊がアマツと戦う気になったかわかる?」
「バルフェルトを倒すためだよ」
「はい、嘘」
「なんで噓だって決めるの!」
「あんたの噓は、論理がかけてるの。教えてあげようか」
「論理?」
「嘘が下手ってこと。まず、精霊は魔族を倒せない」
「倒せない?」
「精霊は命を奪うと、逆に自分が死んでしまうんです」
キャロの言う通り、精霊は殺生を奪うことはできない。
命を奪ってしまうと、精霊の魂が汚れてしまい精霊体として活動できない。
「じゃあ、なんでドゥルガーはバルフェルトと戦うの?」
「そ・れ・を、私があなたに聞きたいんだけど???」
「わかんないよ、知り合って長いけどさ」
「いつ出会ったんですか?」
「9歳のときに出会って、もう出会って6年だよー」
そんな前からこいつ、知りあってるんだ……。
大精霊と出会うだけでも、珍しいのに6年も関係を継続させるなんて異常だ。
「親は?」
「……村長の息子に殺された」
「は?! なんで」
「……金目のものを盗もうとしたところをあいつに見られたから」
「村は何もそれをお咎めしないの?
「自分しか見てなかったから、誰も信じてくれない」
ふざけんな。ただその一言に尽きる。
大人がこんな小さな子の言うことを信じないだなんてありえない。
「! お二人ともお静かに」
「何よ、全く──」
村のそこかしこから重い足音がいくつも鳴り響いて、男どもの話し声が混ざっている。
窓から外の様子を見ると、兵士たちが村人に聞き込みを行っている。
「やっぱりきたか」
魔物を買い占めたことで、村の人たちに怪しまれたに違いない。
完全に村から出るタイミングを見失った。
アマツはどこかで大精霊と戦っているからここから離れるわけにもいかない。
「アマツさまが出てきたら事情を知らせられるように、さっきの場所に戻ります」
「お願い、私はライと一緒にここにいる」
「わかりました、アマツさまと合流次第ここから強行突破しましょう。光よ、我を照らせ『キラナ』」
キャロの姿は、光の屈折により背景と同化して見えなくなっていた。
私も魔法が使えればキャロみたいに姿を消して移動したかった。
「お前はどうすんの?」
「お前ってねぇ、私あなたより長く生きてるんだけど」
「じゃあ、名前教えて」
「バンカよ、今は時間がないのあんたもさっさとどこか行きなさい」
「バカ! 勝手に決めんな」
「誰がバカよ、バカっていう方がバカなんだけど」
部屋の扉を叩く音──。
ガキと遊んでたせいで、逃げ遅れた!
「今いきまーす」
「ちょっと!」
まさか私たちの居場所をバラそうとしてるのか。
止める時間すら惜しい。今は身を隠さないと。
「どうしたの?」
「おい、ガキ。ここに魔女と魔物が泊まっているみたいだが? どこ行った?」
兵士三人組がライを押し退けて、部屋に入ってきた。
部屋の隅々を荒らして確認している。バレるのも時間の問題か……。
「魔女と魔物なら、村の外に逃げていったよ」
「本当か! お前らいくぞ」
兵士たちは足早に部屋から出ていった。
それにしても、今回はこの子に助けられたわ。噓も方便ってことね。
「あれ? バンカ?」
やっぱり隠れた場所が巧妙すぎて、誰も気づけないみたいね。
「私はここよ」
「こういう時にそこに張り付いてる人初めて見た」
天井から飛び降り、外を見るとライの噓にまんまとひっかかった兵士たちがそそくさと歩いている。
「助かったわ、ありがとう」
「うん、早くバルフェルトのところ行こう!」
魔族でもないのに、どうしてそう生きいきとしているのよ。
ライの後ろを追って、部屋から出る。
「そう簡単に騙されるとでも、思ったのか?」
「……ぅ」
廊下に残っていた兵長が、ライの首を掴みあげていた。
まだ、こいつ残っていたの。
幸いにもバレてないし、ここは見つからないように、窓から逃げるか。
「お前、村では『噓つきライ』って呼ばれてるんだってな」
「……」
「俺はそう簡単に騙されない、吐け! 魔女と魔物の居場所を!」
こいつは言う。
この部屋に入られる前に逃げれば、捕まらずに済む。
「……森の方にみんな逃げた! 今頃魔族の国に戻ってる」
「この期に及んでまだ噓をつくか、この小娘が!」
私は人間が嫌い。
自分勝手で、束にならないとなにもできない弱い者。
自分達の輪を乱すものを排除して、利益のために動くクソ種族。
だから、ライとこの兵長が争うと関係ない。
嫌いな奴らが同士討ちしてるだけ。
「お前がそんな嘘つきだから、親は殺されるんだ」
「違う。あれは本当に村長の息子が……!」
「いいや、違わない、お前みたいなやつはいらない!」
「……」
「もういい、ここで死ね!」
「あんたがここで消えて、死になさいよ!」
ドアの勢いを活かした、即席飛び蹴りで兵長は廊下をおもしろいくらい転がっている。
「……バンカ、どうして」
「貴様! 誰だ!」
ああ、本当どうして飛び出たんだろうって後悔しちゃう。
人間が嫌い。それは絶対に訂正しない。
だけど、人間の中でも特に嫌いなのが、人の価値を決めるクソ以下の人間が大嫌い。
「あんたたちがお探しの裏切りの魔女、バンカよ。
その子の価値を勝手に決めんな、クソ野郎」




