8 大精霊が噓つきを好きになる要素
「もうすぐ、この村から出るから」
「そうですね、そろそろ出ておきましょう」
バンカとキャロは身支度を始めていた。
二人してそんなこと言うなよ、もっとゆっくりしてたいぜ。
「え、どうしてだよぉ。もっといたいんだけど」
「アマツが原因でもあるからね」
え、どこに? 責任転嫁やめてよね。
「この村の魔物を無理やり、買い占めたからきっと魔族だとバレてる」
あー、ボクに原因がありましたー。
「いうて、疑われてるかもってだけだろ?」
「昨日の戦いで兵隊がくるわ。それに私の呪いの効果でそろそろ人が死ぬかもしれない」
そんなのあったな。
「呪いって魔法と全然違うのか?」
「魔法と違って呪いは死んでも効果が続きます」
「じゃあバンカが死んだら、このへんがずっとデバフなのか」
「どうして、私が死ぬ前提なのよ……。効果はたぶん違う」
「たぶん?」
「バルフェルトに呪いをかけられてからずっと生きてきたし」
ん? バルフェルトがやられたのが十四年前だし
見た目からして十五歳だから若くても三十路なのか。
いや、でもこの態度からしてきっと……。
「絶っ対失礼なこと考えてるでしょ!」
考えてませんよ〜。
「ホラ吹いても無駄だからね、行くよ。ポチ」
「だから、ポチじゃねぇよ」
宿の支払いを済ませて、村を歩いいると誰も彼もが俺らを見ている。
村の人から視線が痛いぜ。誰も俺らに近づこうとはしない。
ロマネスクからもらったインビジブル・コート? だっけか。
マントを被ってるから目立つ。魔力を隠す以外役に立たないな。
(この村から出た後は、どうすんだよ)
(また森に戻るに決まってるじゃない)
(えー、嫌だよぉ。寝ると腰は痛いし、ご飯はバンカの微妙な食事だし)
「あ、アマツさま、自分が作りましょうか!」
キャロが俺の前に飛び出て話しかけてきた。
昨日のことがあってから、すごい元気だ。
きっとグリオンのパワハラがいけなかったのだろう。
パワハラ、ダメ絶対。
(じゃあお願いしようかなぁ。ちなみに何作れるの?)
「スライムの刺身、ワーウルフのハンバーグです」
(え、遠慮しとこうかな……)
下手に発言すると、パワハラで訴えられてしまうかもしれない。
「またこいつ嘘ついてる!」
「嘘ついてない」
子どもたちがケンカしていた。俺も嘘はよくないと思います。
男の子五人が、女の子を取り囲んでいた。
囲まれているのはピンク髪で、汚れた服の女の子だ。
あれは、俺をバルフェルトだって言い広めた子か。
(やれやれ、子どもは元気──グエ)
「待って」
(止めるって言うのか?)
「……うん」
(しょうがねぇなぁ、俺も手伝うよ)
数拍置いてからバンカは頷いた。
やっぱり人間のことは気になるんじゃないか。
「嘘つきライ!」「嘘つきぃ!」
「嘘ついてない、ホントにバルフェルトだった!」
「バルフェルトってこれのこと?」
「がおぉ!」
「うわぁ! 逃げろ!」
子どもらはビビッて逃げていった。
まぁこんなトカゲが後ろに立ってたら、ビビるよな。
「あ、バルフェルトだ」
残った少女は、悪びれた様子もなく俺を見ていた。
「あ、あなた名前はなんて言うんですか?」とキャロが聞く。
「ライ!」
元気でよろしいね。
「どうしてコイツをバルフェルトだって言ってるの?」
文献には正確な姿が残されてない。
だとしたら、バルフェルトと戦ったことがあるのか?
いや、見た目の年齢からしてバルフェルトが倒されてから生またに違いない。
それかバルフェルトと戦ったことがある奴の娘か。
それなら合点がいく。
「みんなが驚くと思ったから」
(こいつ……)
深く考察した俺の時間を返せ。
「あ、ロマネスク!」
「え、嘘でしょ!?」
「ど、どこにいるんですか?!」
あー、こいつ嘘ついて周囲の反応楽しんでやがる。
(お前ら、こいつ嘘ついてるぞ)
「ッチ! このガキ、嘘だったのね」
「あははは、おもしろ!」
……このクソガキがぁ。
「お前噓ついてばかりだと誰も信用しなくなるぞ」
「あー! このトカゲ、しゃべった!」
「なに勝手なことしてんの?!」
「どうせこいつの言ってること誰も信じないだろ」
村長にまで嘘つきだって困られてるんだ。こいつは相当な嘘つきだ。
「うん、だってうち人間きらいだもん」
似たような奴、この世界に来て出会ったなー。
「だからってなぁ。いつか自分が傷つくことになるぞ」
俺は前世で見栄を張って「彼女いるよ」って嘘をついた結果、
周囲から
「あいつ存在しない女と付き合ってる」「疲れてそういうのが見えるようになった」
とかいろいろ言われたからな。
「まるで、経験者は語るみたいですね」
「キャロさーん、ちょっと黙ってよっか???」
「お前ら魔族なの?」
「そうだぞー、さっきみたいにいじめられたくなきゃ噓つくのやめんだぞー」
少女を後にして、俺たちはこの場を去る。
これ以上この村に居たら、ロマネスクの部下たちが来てしまうかもしれない。
「待って!」
「なんだよ、話したくないんだけど」
「いや、勝手に話してるのあんただから」
「うちを魔族にしてよ」
自分から魔族になりたい……?
「どうしてだよ」
「人間なんて嫌いだから!」
「人間が魔族になるなて、そんなことできるわけないだろ!」
「それあんたがいうんだ……」
「アマツさま、自分の目的忘れてませんか?」
「あ、確かに」
俺が人間になろうとしてるんだから、こいつは魔族になれるかもしれない。
でも、この魔族になってこの子は幸せになれるのだろうか。
「どうしてだよ」
「人間なんて嫌い、いつも自分勝手だし」
「魔族でも自分勝手なやつはいるぜ?」
ロマネスクとかロマネスクとか。
「大精霊の場所教えてあげるから魔族にして!」
「「「え」」」
「う、嘘ついてるだろ」
そんな簡単に見つかるわけないんじゃないのか。
しかも、こんなガキがだぞ。
「ほんとだよ、ここに呼んであげる。おーい、ドゥルガー!」
……こいつ誰を呼んでるんだ?
「誰もいないですね」
「そうね、やっぱりあなた──」
ライの横にいつの間にか巨大な四つ羽の男があぐらをかいて宙に浮いていた。
「珍しいねェ、ライが誰かといるなんてェ」
「これが……大精霊」
「ふぁ〜、めんどくさァ」
なんていうか──すごい生意気だな。
耳ほじってるし、この場がまるでこいつの実家みたいだ。
「バルフェルトじゃーん。いや違うねェ、人間の魂があるゥ」
「わかるのか」
「もちろんだよォ、精霊なんだから人間と魔族の区別は朝飯前さァ」
「ね! 言ったでしょ、大精霊に会わせるって」
まさか本当だったとは……。
ということは!
ここで大精霊と契約。
↓
姿を変える精霊の秘宝をもらう。
↓
姿を変えて、平和に暮らす
↓
~ 完 ~
になるのか。
「おい! 大精霊!」
「え、ワイのことかァ? ちなみに、契約だったら嫌だからねェ」
「どうしてだよ」
「ワイはライと遊びたいんだよォ、この子は口が達者だから飽きないんだァ」
「そうだよ! ドゥルガーはうちと遊ぶの!」
ライは大精霊の大きな手に飛び乗り笑っている。
「そのガキが──」
「ガキいうな!」
「ッチ」
うわ、この人すぐ舌打ちする。
「ライが精霊術を卓越しているとは思えないけど、どうして現れたの」
「ボクの子どもみたいなものさァ」
「子どもねぇ、そこまで大精霊が噓つきを好きになる要素あるのかね」
「ボクにとっては、何よりも大切だァ」
それに、とドゥルガーは続けて話す。
「この子は精霊の秘宝を望んでなくて純粋で一緒にいて楽しいィ」
「ドゥルガーはうちのだからね!」
無理やり契約頼むと、関係拗らせそうだな。
「どうしても契約はだめなのか?」
「んーそうだなァ、バルフェルトの君」
「はい?」
「ワイと戦って勝てたら契約してあげるよォ」
「ずいぶんと急だな」
なにか考えがあるのか?
もしかして、俺を倒そうとか考えていたり?
「暇つぶしだよ」
「じゃあ、戦おうぜ」
久しぶりに全力で戦えそうだ。
「アマツさま!」
「ちょ、ちょっと! 何コート脱ごうとしてんの」
「あ……。マジでこのコート邪魔だな!」
四六時中こんな汚れた布着させられるこっちの身にもなってくれ。
不用意に戦わなくて済むのはいいけど、衛生面がだめだ。
「それ、魔力を封じてるんだァ。魔力使えるように結界はってあげるよ」
お、助かるぜ。
これで全力で戦える。
「それじゃあ、また後でな」
「はい、アマツさまがんばってください!」
「すぐ終わらせなさいよ、村に長居したくないから」
「わかってる、すぐ終わらせるからちょっと待ってろ」
「あはははは! すごい自信だねェ」
「!?」
一瞬にしてバンカたちが消えた。
違う、村から別の空間に俺とドゥルガーだけが移動したのか。
「それじゃあ、戦おうかァ」