7 こいつの名前は
キャロ視点
彼が(バンカさんのお金で)買った魔物は二十四体。どれも低級の魔物だった。
村の魔物を全部買えたわけじゃないけど、これだけの魔物を解放できたのはよかった。
「ねぇ、こいつらアマツの言うこと聞いてるの?」
「聞いてるから、今こうやって村の外に整列してついてきてくれてるわけだろ。な?」
「んあ〜」
聞いてくれてるのかな……?
反射で答えているようにしか思えない。
「やっぱ念話使わずに話せるのは気楽だなぁ!」
「声大きいなぁ」
「ここまで連れてきてくださり、ありがとうございます。ここからは自分一人でいいです」
「おう、また後でな」
「はい、また──火よ我に従え『アグニ』」
なんで?! 勝手に口と手が!
自分だけじゃなかった。村で買った魔物たちもバルフェルトさま目掛けて魔法攻撃を仕掛けていた。
「キャロ、よくやった」
「……グリオンさま」
「やっぱりお前を、アマツの横において正解だったようですね」
「グリオンさま、今すぐ魔法を解いてください」
「お前が、私に、指図するな!」
口が思い通りに動かない……。
「ッ……ご、ごめんなさい」
「弱いんだから、私に逆らうな! 雑魚が調子にのるな!」
「ごめんなさい」
自分は弱いから、グリオンさまに逆らわずに言われた通りしていればいいんだ。
いつもみたいに誰かの後ろで、ご機嫌をとるだけそれが自分にできること。
「確かに、雑魚が調子のると腹がたつよな」
バルフェルトさま!
「やはりこの程度では、やられないですよね。体はバルフェルトさまなのですから」
「グリオン、私も殺す気?」とバンカさんが気だるそうに砂埃を払っていた。
「格下が弱いものいじめしてるの、目障りなんだよな」
「虎の威を借りているだけのあなたに言われるのは癪ですね」
「この体は俺のじゃないけど、戦闘センスは俺のだぜ?」
「しょうがないですね、手加減に私が直々にあなたを倒してあげましょう」
「お友達がいないと、勝てないって言い訳するなよ」
「あんた挑発してるけど
グリオンは仮にも魔王の直属の部下だったしロマネスクと戦って生き残ったやり手よ?」
バンカさんの言う通りグリオンさまは強い。
始原魔法──。
火や水、風といった通常の魔法は魔物なら、誰しもが使えるが始原魔法は特定の魔物しか使えない。
使えても一人一つしか、自分に出現した魔法しか使えない。
グリオンさまの始原魔法『集う力』は周囲のB級以下の
魔物を強制的に使役することができる。
また使役した魔物たちの魔力を奪って、自分のものにできる。
「へぇ、ロマネスクと戦って生き残ったんだ」
すごい悪い顔してる……。
「なら、俺はここから動かずに右手だけでお前を倒すよ」
「ッ! 貴様ァ!」
激怒したグリオンさまは、物凄い速さで動いている。
それもそうだ、彼の周囲にはネフェルト村で買った魔物以外にも多くの魔物がいる。
「目で追うだけしかできないのですか!」
バルフェルトさまの体を斬りつけている。
何もせずに立ってる。このままじゃ負けちゃう……。
「速いだけかよ」
「……また死にたいようですね!」
遠くにいたはずのグリオンさまがいつの間にか、バルフェルトさまの目の前にいた。
これがあの人の全力……! ロマネスクと戦った時よりも速くなっている。
「風よ、踊りたまえ『ヴァーユ』!」
グリオンさまから放たれた風の魔法は、バルフェルトさまに直撃した。
「あの方の体を傷つけるのはやぶさか仕方ないですが、これでアマツ・ツカサは──」
「これで終わりかよ」
「さすが、バルフェルトさまの体ですね。これなら……!」
「何度も目の前をうろちょろされるの、めんどくさいんだよ」
一瞬だった。
バルフェルトさまの周囲を飛び回っていたグリオンさまは、捕まり地面に叩きつけられた。
「この程度かよ」
「なぜこの私が……!」
グリオンさまは掴まれた右手を切り落として距離を取った。
「キャロ! 腕を直しなさい」
体が勝手に……。
グリオンさまの腕を噛むと腕が修復した。
これが自分の原始魔法『修復する力』、噛んだ対象の傷を修復できる。
「女の子に噛んでもらえてよかったな」
「なんとでも言え。私をそれほど捕まえられたのが嬉しかったのですか!」
再びグリオンさまは、森を駆け回り、四方八方から風の魔法を放つ。
これじゃあ、一方的だ……。いくらバルフェルトさまでも勝てない。
「動かないと言いましたよね? ほら、このままだと死にますよ!」
「ちゃんと動かずに、倒してやるよ。バンカ、石とって」
「もしかして、あんたこれで倒すの?」
「しょうがないだろ、動けないんだから」
「はははは! それで、どう私を倒せるというのですか!」
「投げるんだよ!」
バルフェルトさまは受け取った石を投げた。
石の軌跡は、森を薙ぎ倒し遠くの山々を打ち砕き遙か彼方まで飛んで行った。
「そんなバカな……」
そして、グリオンさまの腹を貫いていた。胴体が引き裂かれている。
「よく当てたわね」
「別に、これくらい余裕だろ。ずっと同じような動きばかりだったから競馬よりか当てやすい」
だとしても、音速に動くグリオンさまに石を当てるなんて普通できない。
ましてやバルフェルトさま、いや彼は魔力による身体強化だってしてないのに当てるんてあり得ない。
「どうして、私が!」
「うっせぇな」
「魔法も、原初魔法を使わないお前に、バルフェルトさまの体の貴様に負けるわけがありません!
その体で、なぜバルフェルトさまに、魔王にならない!」
「何度も言うけど、俺は魔王でもバルフェルトじゃない、勇者だ。
勇者は人間を救い希望を与える存在だ」
「ふざけるな。前世で世界を救っただろ、その体を返せ!」
「できたらここまで苦労しねぇよ」
「キャロ、ここまで来て私を直しなさい」
「またアイツ、くどいわね。もう勝負終わってるもんだし止めさせば?」
「別に俺はまだやってもいいかな」
「え、まだ続けんの……」
自分もこれ以上二人が傷つくのを見たくない。
抵抗しても、体が勝手に動く……。言葉にできない。
「絶対に、私はアマツ貴様を許さない。早く来なさい、この無能!」
「……」
言われた通りすることしかできない自分は、グリオンさまの言う通り無能かもしれない。
「それが人に助けを乞う奴の態度かよ」
「私の方が上なのですから、これが正しいですよ」
「お前より弱いかもしれないけど、キャロは無能じゃないだろ」
どうして……。この人は出会って数日の自分に対して言ってくれるんだろう。
「そうだろ、お前無能じゃねぇって言えよ」
「いや、魔法で言えないから無理でしょ」
「……」
言いたい、私は無能じゃないって。
でも、自分の体が言うことをきかない。やっぱり自分は……。
「さっさと私を治しなさい! この無能!」
「こいつの名前は、無能じゃなくて、キャロだろ」
「!」
「いつもビクビクして、俺のことをずっとバルフェルトだって勘違いするバカだ」
「ちょっと言い方……」
「でも、無能じゃないだろ」
そうだ、自分はキャロだ。決して無能なんかじゃない。
グリオンさまより弱いけど、何もできないほどの無能じゃない。
「早く私を治せ!」
「……自分は無能じゃないです」
「は? 貴様、私に歯向かうのか……!」
「自分は、無能じゃなくてキャロです!」
ゴッ──。
初めて誰かに頭突きをした。すごい痛い。
でも、どこかスッキリした。
グリオンさまは地面で白目をむいて痙攣している。
「あはははは、こいつグリオンに頭突きでトドメ刺した」
「まだ生きてるでしょ、どうすんの」
バルフェルトさまだったら、裏切り者や害をなす配下は殺す。
きっと今回も──。
「キャロ、治してあげて」
「え」
自分を襲ってきた相手を助けるの?
「もしかして、ここまでの大怪我は治せないの?」
「治せますけど。ど、どうして」
「実は、こいつ俺のこと一歩動かしたんだ」
バルフェルトさまの言うとおり、一歩だけ後ずさっていた。
「戦いには勝って、勝負には負けたってやつだ。だから殺さない」
「わ、わかりました」
グリオンさまを噛むと、離れていた胴体は修復された。
「すげぇな、これだけのケガ治せんのか」
「いえ、こんなの別に」
「もっと誇れよ、自分のこと。俺が褒めてるんだぜ? 相当ないよ」
「確かに、アマツは人のことバカにすることしかできないわね」
「はぁああ?! そんなことないだろ、バカ!」
自分のことを心の底から誉めてくれた。
バルフェルトさまと違って、どこか惹かれる。
この人ならきっと、魔族を──。いや、自分はこの人と一緒に見る世界を見たい。
「はい! アマツさま!」
「お、やっと俺の名前言えたな」
「アマツ・ツカサァ……!」
「お前はよく俺の名前言うよな」
「私を殺さなかったこと、後悔しますよ」
「いつでも、来いよ。相手してやる」
「ふん、行きますよ」
「あ、あのグリオンさま……」
「好きにしなさい」
グリオンさまは魔物を引き連れこの場を立ち去った。
自分はというと、この場に残っていた。
「いいのか、グリオンのところに戻らなくて」
「頭突きしたので、戻れないですよ」
「ファンキーな退職届だな。これからどうするんだ」
「じ、自分はアマツさまと一緒に同行します」
「ま、そうなるよな。これからもよろしくな」




