6 俺なりの魔族を幸せにする方法
「腰いてぇ~」
床に寝させられるし、身体伸ばせないしこの部屋狭いんだけど。
「ふんが」
バンカさんは良くお眠りなこった。
「お、おはようございます。アマツさま」
「起きるの早いな」
まだ日が出始めた頃だと言うのに、もう起きてるのか。
「バンカさんのいびきがうるさくて……」
「なるほどねぇ」
いびきうるさいし、尻尾で口塞いでおこう。
「き、昨日のことを聞いてまだ魔族を復興させようと思わないのですか」
人間が魔族に勝利してから経済道具として使っているって話を聞いて、そりゃ可哀想だと思ったさ。
でも、魔族側について人間も同じ目にあわすってのは夢見が悪いぜ。
「……俺にはできねぇな」
「バルフェルトさま、お願いします」
「自分たちでどうにかできないの? あと名前間違えてるからね」
「今のバラバラとなった魔族では人間に勝てません……」
「四つに分かれたんだっけ」
バルフェルトの四天王の四魔族が、バルフェルト死後にそれぞれの意見が対立して四つに分かれた。
魔王残党軍、魔王新派、背信の魔物、経済魔族として活動している。
「グリオンは魔王残党軍として、バルフェルトの復活をかかげていると」
「はい、バルフェルトさまが復活した今ならきっと魔族は集結してくれると思います」
「ふーん」
ロマネスクがいるから、仮にバルフェルトが復活して全魔族が力を合わせても勝てないだろうな。
現に負けたわけだし。
「だから、バルフェルトさまが死んだのは本当に悲しいです」
「ふーん」
本当にバルフェルトってやつはやられたのかねぇ。
「なんですか、その反応。薄すぎますって……」
「ってか、そこまでバルフェルトにこだわるのはどうしてだよ」
「あの方は、誰よりも強く優しい方でした。
私はあの方の優しさに惚れたのです。多くの魔物がその優しさに惹かれてました」
へぇ、意外と魔王は慕われてるんだな。
ロマネスクは、我が道を行くって感じで魔族は無理やり従っていた。
「そんな恋に落ちるほどアイツは魅力的じゃないって」
バンカが頭をポリポリかきながら、話に割って入ってきた。
「いい加減バルフェルトが死んだこと受け入れたら?」
「信じません!」
びっくりしたぁ、キャロもこんな大きな声出すんだな。
「【ナーガ】を使って生き返らなかったのですからきっとどこかで生きています!」
「生きてるわけない」
「生きてます!」
「じゃあ、どこにあいつの魂があるの? アマツが来たのか答えなさいよ」
「それでも……あの人がいれば魔族はきっと、また」
おいおい、泣きそうにならないでくれよ。俺だってこんな体になって泣きたいくらいだ。
「どうしてそう簡単に割り切れるんですか」とキャロが出ていった。
「あーあ、行っちゃった」
「あなた追いかけなさいよ」
「俺だけが追いかけたら、村の人驚かせちゃうし」
バンカさん黙っちゃったし、ケンカしないでくれよな。
「この流れで、魔族をどうにかしようとか思わないの?」
「そう言われてもなぁ」
どうにかって……この短期間で何かをやらせようとするのは無茶ぶりだろ。
まずは、身近な問題から解決していかないとな。体を人間に変えて……。
「できるな、俺にもできること。バンカ、金借りてもいい?」
*****
キャロ視点
バルフェルトさまはすごく優しい人だった。
弱肉強食の魔族において、自分は弱くていつもいじめられていた。
でも、あの方はそんな自分に優しく接してくれた。
「キャロは、戦ったり誰かと争ったりするのが苦手なんだね」
周囲に馬鹿にされて一人で泣いていると低い声でたしなめて、いつも頭を撫でてくれた。
他の魔物とは違って、優しくて静かで強い。そこに自分は惹かれていた。
自分や魔族のために戦う姿は、すごくかっこよくてずっと着いていこうと思った。
でも、今はもういない。
自分は村のはずれの木陰で、アリの巣をほじくり返していた。
さっきまで子どもたちがいたけど、お母さんたちに連れられていなくなった。
「……バンカさんの、アホバカ。うんこ」
バルフェルトさまが死んでから十年以上経っても受け入れられるわけない。
自分にあんなに言ったわりには、単独でバルフェルトさまを生き返らせようとしたくせに。
「キャロ、何をしてる」
「! グ、グリオンさま……」
「私はお前に、アマツ・ツカサの監視をしろと言ったはずだぞ?」
「ご、ごめんなさい、すぐに戻ります」
「忙しいんだよ、私は。このあと四魔同盟の会議があるんだ」
「ごめんなさい」
「お前の安い謝罪はいらない。まだアマツは体を戻せないのか」
「はい、精霊の秘宝にありつけていないみたいです」
「そうか、引き続き監視をしていろ」
「はい……」
監視って言っても何をすればいいんだろう。
グリオンさまはいつも命令が曖昧だ、意図が見えない。
「おーい、お嬢ちゃん! いいところにいた」
「は、はい」
村のおじさんが急に声かけてきた。なんの用だろう。
「はい、魔物」
「え? ベヒモスの子どもを渡されても困るんですけど……」
「買い取ってくれるんじゃないのかよ
あんたのご主人が魔物を急に高値で買ってくれるって言うから連れてきてやったのに」
「なんですかそれ」
おじさんが言っていた通り、村の大広間ではバンカさんが魔物を買い占めていた。
村人たちは、魔物を連れて長蛇の列を作っていた。
「なにやってるんですか」
バルフェルトさまに話しかけると、イタズラっぽく笑っていた。
(お、泣き虫が帰ってきたな)
「……泣き虫じゃないです」
(ネフェルト村の魔物を買い占めてるんだよ)
「どうしてですか」
(俺はバルフェルトじゃないから、俺なりの魔族を幸せにする方法を考えたんだ)
「魔族を買うことがですか……?」
使役しようと考えているのかな……。
我が物顔で、魔物を従えているアマツの姿が思い浮かぶ。
(グリオンやキャロのところで預かってよ)
「え」
買った魔物を、預ける……?
理解できなかったどうしてわざわざ買ったんだ。この人に得がないじゃないか。
「ドヤ顔で言ってるけど、魔物買った金はわ・た・しが出してるから」
バンカさんはしかめ面でそっぽを向いてる。
(おい、言うなって!)
「魔物を買うって村人とのやり取りまで私にやらしてるからね」
(そんなことより預かってくれんのか? あ、でも人間を襲うのであれば話は別だからな)
「今まで魔族に協力するの嫌だって言ってたのにどうしてですか」
(俺はバルフェルトにはなれないからな。せめてもの償いだ)
どうして自分はこの人のことを、ずっとバルフェルトさまとして決めつけていたんだろう。
全然違うじゃないか。自分が恥ずかしくなってくる。
見た目は同じだけど笑い方や話し方、考えが違う。
なのに、自分はアマツ・ツカサという人格を無視して扱っていた。
(おい、泣くなよ!)
「なに泣かしてんの」
「違うんです、自分が許せなくて。ごめんなさい」
(謝んな、お前は悪くない。バルフェルトのことをそれほど思ってたんだろ)