42 敬称をつけずに名前を呼ぶな
ロマネスク視点
雑魚が無限に湧いてくるな。
それにこのパクーチとかいう女魔族。私を倒す気がないな。
「あの三人ではグリオンさんを倒せるはずがありません。
まず一人だけ戦力外の子がいるじゃないですか」
パクーチは目を細めて、笑っていた。
さっきから戦っている最中だというのにベラベラと口が回る奴だ。
同じ女としても、耳障りで嫌になるな。
「戦力、外……、もしかしてライのことか」
「そうです。魔女なのになにも呪いがないじゃないですか」
こいつ本気でそう思っているのか。
あの小娘は、運が良ければ私やアマツを負かすことができる。
「『呪い』はある。噓つきの魔女とは、よくもまぁ自分でいったものだ」
グリオン視点
なぜ僕は彼女の言うことを聞いてしまう……。
ロマネスクのことを倒せるはずがない……。
頭ではそう思っているが、その発言をしてからこの魔女の魔力が膨大に膨れ上がった。
魔女になったとはいえ、バルフェルトを超えるほどの魔力があるはずがない。
きっと勘違いだ。
「君の呪いはなんだ」
「知らない」
自覚はないのか。きっと噓をつけば信じてしまうようになることだろう。
そうじゃなければ、説明がつかない。
「グリオンだっけ」
「僕は違う。グリオンじゃない、バルフェルトだ」
わざと間違えているな。この小娘。
僕をあまり舐めるなよ。
「バルフェルトはさ、ロマネスク倒してどうするの?」
「人間を滅ぼして、魔族を統一する」
あの方がやろうとしていたことだ。
その意思を継ぐのが僕の役割だ。魔族だけの世界にして、あの方の居場所を作る。
いつかは、本当に復活させる。それまで僕が代わりになる。
「自分でやればいいのに、バルフェルトの身体なんてなくてもできるじゃん。ばかだねー」
「あの方がいない世界で僕は、生きたくないだけだ。あの方がいたから僕はここまで生きてこられた」
「意味わかんない」
「君にわかりやすく言うなら、君にとってのバンカだよ」
理解してくれたのか、黙ってくれたがすぐに話し始めた。
やれやれ、女は話すのが好きだな。
「だからって自分がその人の代わりになるのはおかしいよ」
「ずっと誰からも嫌われてきた君には、わからないだろうね」
「はぁ!? お前バルフェルトじゃないでしょ。
お前は自分のことバルフェルトだと思ってる異常者でしょ!」
「僕はバルフェルトだ、馬鹿が」
「いやいや、バルフェルトでしょ、ねぇキャロ?」
尻尾で首を絞められているキャロは苦しそうに声をあげた。
「……グリオンさま」
「もうなんですか!」
「あ」
うっかり反応してしまった。
「グリオンじゃん! 反応してやんの~」
「ッ……。貴様ァ!」
「バルフェルトって奴は、そんなに怒りっぽいんだねぇ。……ぅ」
この小娘やはり話しすぎだ。
話していると、自分のなかのバルフェルトさま像が崩れてしまう。
噓つきのせいで、自分がさらけてしまう……。
「君とは、少し話しすぎたみたいだ。ここでお別れだ」
火で一気に殺してやるか、それとも水で溺れさせるか悩む。
いっそのこと全て試してみよう。噓つきには、それなりの罰が必要だ。
「火よ我に従え『アグニ』」
続けて、水の魔法、風の魔法を続けざまに放ち続ける。
跡形もなく死んだはずだ。
「さようなら、噓つきの魔女」
一人で死なせるには、可哀想ですし大精霊に手当てしてもらっているロマネスクの娘もついでに
この後葬ってあげましょう。
「お別れにはまだ早いみたいだぜ」
「ッな」
どこかで聞いたことがある声がした。
土煙の中、二つの人影が揺らいでいる。
「……なんだ、お前」と魔女も驚いている。
「なんで生きてる」
僕もそれに釣られて、驚いてしまった。
ありえない。なぜ生きている。
「そんなわけない、だって死んだはずじゃないか」
「久しぶりだな、バルフェルト」
「その姿で、敬称をつけずに名前を呼ぶな」
僕の前にいるのは、メガネをかけた魔物──グリオンがたっていた。




