39 第一陣
グリオン視点
「バルフェルトになるって? もうなってるじゃない」
「姿じゃなくて、存在としてだよ」
バルフェルトさまの魂がないから、もう彼は蘇らない。
であれば、僕が彼になるしかない。
破壊の魔女は、小首を傾げて僕の回答に納得していないみたいだ。
「なんで」
「アマツがバルフェルトになれないとよく言っていた。
だったら、誰かがなるしかないんだよ。たまたま僕がなれそうだからなっただけ」
アマツ・ツカサがいなかったらきっと僕が『バルフェルト』になるという思考にはならなかった。
僕はあの方のことをよく知っている。何年も何十年も一緒に行動してきたのだから。
「別にバルフェルトがいなくてもいいんじゃない? だってもう死んだのだから」
「そうかな」
「てっきりいつもみたいに、恩がどうとか言うかと思ってたけど本当になりきってるのね」
当たり前だ。僕はこの計画を結構すると決めた時点で『バルフェルト』になると決めたのだから。
「あなたがそこまでバルフェルトにこだわるのはなんで」
「あの方のいなくなった世界は寂しすぎる」
「……そう。あなたにとってはかけがえない人だったのね」
破壊の魔女は、グリオンの抜け殻を指さして話を変えた。
「これはどうするの? いらないならほしい」
「もう戻ろうとなんて思ってないからね。好きに使えばいいよ」
それじゃあ、と破壊の魔女はグリオンの抜け殻をかかえて森へと消えていく。
何に使おうとあの子の勝手だ。気にすることはない。
どうやらお客様がやってきたみたいだ。
「戻ってきたんだ」
キャロとロマネスクの娘、新しい魔女ライががん首揃えて立っていた。
「……アマツ」
新しい魔女が顔を見るなりそう言った。
「違うよ、僕はバルフェルトだ」
「そんなわけないじゃない、バルフェルトは生き返らなかったんじゃないの」
「でも、こうして僕がいるわけだ」
「あれは……バルフェルトさまです」
キャロは目と口を開けて固まっていた。
無理もない何十年も一緒に過ごしてきたのだから、見間違えことはない。
見間違えるというよりも、認識を間違えることはない。
見た目から仕草、呼吸に至るまでバルフェルトなのだから。
「でも、生き返らせられないって。それに、グリオンはどこ?」
「もういないよ」
言葉の通りいない。
僕はもうバルフェルトになった。肉体はこの場にもない。
「逃げたってこと?」
「違う、アイツだよ」
「どうやってバルフェルトになったかはわからないけど、うちにはわかる
あれは噓をついてる奴の顔だ」
裏切りの魔女の後釜察しがいいね。
「もし、君が考えている通りだったらどうする?」
「だったら、アマツの代わりにお前を倒す」
僕を倒す?
どうやって倒すというんだ。
「ライじゃなくて、あたしがあんたを倒すの」
さすが、ロマネスクの娘声と態度だけはデカい。
まぁ彼女らがどうやって僕を倒すかとかは全てキャロ越しに聞かせてもらっているから
恐れるに足りないですけどね。
「やってみてよ、楽しみだな」
「その笑い方、今までの魔王と違くてキモい」
今までの魔王? ああ、アマツのことか。
中身が変わったのだから、笑い方や仕草が変わって当たり前だ。
「グリオンが魔王になったってこと?」
「そう考えてもらっていいよ」
ロマネスクの娘は誕生日を祝われるみたいに、笑い
「あんたを倒せば、アマツの敵討ちと魔王退治できて一石二鳥じゃない」
切りかかってきた。
遅いし、手で剣を抑えても痛くも痒くもない。
バルフェルト(僕)の体が丈夫だからか。
「若いのにすごいね、剣をこんなに扱えるなんて」
「褒める余裕なんてあるの?」
背後からキャロが魔法を詠唱する声が聞こえた。
「火よ我に従え『アグニ』」
仲間もろとも攻撃するつもりか。
「いいの? 僕は避けないけど」
「あたしの心配するよりも自分の心配しなさいよ」
火は僕とロマネスクの娘もろとも包み込んだ。
せいぜいB級程度の魔法だ。やっぱり避ける必要もないみたいだ。
でも、お仲間は大丈夫かな。
火でおおわれていた視界がはれると、無傷の少女がいた。
「そういえば、君には精霊術があったね」
「だから、あたしにはあんたの魔法は通じないよ」
通常魔法を使えないとしても、君らじゃ僕には勝てない。
差がありすぎて、ハンデがあろうと君らじゃ絶対に僕を超えられない。
「この後は、どうするの?」
「まだあたしとの戦いは終わってない!」
とは言われても、ただ剣振り回しているだけの勇者ごっこに付き合わされるのは退屈だ。
キャロの視点から少女の成長を見せてもらったけど、アマツとロマネスクとの特訓で強くなった。
だけど、まだ僕やロマネスクには届かない。凡才だ。
「もう飽きたからどいてもらうよ」
「ッ」
尻尾で軽く払うと、ロマネスクの娘は吹き飛んでいった。
もろにくらったんだ。しばらく動けるわけない。
「次は──キャロ、君の番だ」
「バルフェルトさま、いいえグリオンさま。あなたはなにがしたいのですか」
「なにがしたい? 再び魔族が世界を蹂躙する世界を作るよ。謝れば仲間にれてあげる」
キャロはよく僕と一緒に行動していた。だから、ついてくるだろう。
「断ります」
「どうして? この子たちと一緒にいても無駄だろう」
「彼女らといるのが、アマツさまの最後の命令だからです」
「そうか、ならここでお別れだ」
背後から獣みたいな雄叫びが聞こえた。
「あたしとの戦いはまだ終わってないって言ったでしょ!」
まだ動けるんだ。意外とタフだ。そこだけは称賛してあげよう。
「あのまま動いてなければ、生きれたのに」
手刀で振り払うと、ロマネスクの娘が構えていた盾もろとも左手を切り落とすと声をあげた。
「オリブさん!」
「近づけさせないよ」
キャロがロマネスクの娘にかけよったと同時に手刀で切りつける。
尻尾で首を締め上げると、か細い声をあげていた。
「ッ──」
「簡単に死ねると思わないでね」
さて、次が楽しみだ。
彼女たちがたてた作戦は、集団で僕と戦うのではない。
キャロとロマネスクの娘が僕を第一陣で襲い、第二陣で──。
「お前もなァ」
「!」
第二陣で大精霊ドゥルガーが僕と戦う。




