32 お兄ちゃんとして
「お前が大精霊か、一つ頼みがある」
「嫌だ〜〜」
「まだ頼んでもないだろうが」
間延びした声で答えやがって。微妙にビブラートもあるのが腹たつ。
大精霊というのは、どいつもこいつも癖があるな。
「精霊の秘宝を俺にくれ、バンカを生き返らせたい」
「ま、待って」
話を遮ったのは、ソフラムだった。
「わたしも精霊の秘宝が欲しいの」
まぁそうだよな、大精霊に会いにくるようと言ったらそれしかない。
「二人にあげられたら一番楽なんだけどな〜〜」
「そうしてよ」とソフラムは頬を膨らませてる。
「それは無理だ〜〜、大精霊一体につき一個しか生み出せないんだ〜〜」
へぇー、そうだったんだ。知らなかった。
「じゃあ、どうするよ。戦うっていうのも嫌だし」
こんな小さな子と争うなんて心が痛い。
「じゃんけんでいいんじゃない〜〜」
「そんな適当なことで…」
「こいつはァ、極度のめんどくさがり屋なんだァ」
めんどくさがり屋だから、魔族の国で生息してるのか。
魔族は大精霊を嫌う。人間と違って契約できない。
人間はここにくる確率が低いから、隠れる手間が省ける。
「じゃんけんだったら、あたしも参加したい」「うちも!」「じ、自分も」
他三人がきゃっきゃっと楽しそうに騒いでいる。
「なんでだよ、遊びじゃねぇんだぞ」
「そんなことで精霊の秘宝が誰に渡るか決めたくない!」
ソフラムの言うとおりだ。運だけで渡すのも癪だ。だけど、二人で争うとなったら俺が絶対勝つ。
「だって、じゃんけんなら強さとか関係ないじゃない。平等よ」
ならさ、とファウグスフが口を開いた。
いつの間にか俺たちは真っ白な空間に移動していた。結界というやつだろう。
「椅子取りゲームにしたら〜〜」
音楽が鳴っている間椅子の周りを歩いて、音楽が止まったら椅子に座るあれか。
運もあるし、椅子を取り合う際のマッチング次第で実力勝負だってできる。
「それおもしろそう! うちもやる!」
「ほら、二人とも早く!」
なんでお前らが乗り気なんだよ。
ライもオリブが出てこられたら、人数面での公平性が保てないだろうが。
「あんたを倒すために精霊の秘宝手に入れてやる!」
「ちょっと待ったなんでそうなってる???」
元々は俺とソフラムのどちらが手に入れるかで揉めていた話だ。
それにバンカを生き返らせるために、寄り道したはずだ。
「「だって精霊の秘宝欲しいもん」」
「じゃあ協力しろよ」
「いやよ、魔王を倒す力を手に入れるんだから」
「うちもバンカを生き返らせたいけど、遊ぶなら全力でやりたい!」
一名だけ俺の考えとは違うやついたな。
「椅子取りゲームは人数が多い方がいいですもんね」とキャロ。
「そうかもしれないけどな……。どうする、ソフラム?」
「ええぇ、椅子取りゲームかぁ。魔法とか使わないよね」
「ああ、もちろん。公平にだ」
「……それだったらいいよ」
「決まりだな!」
「ドゥルガーもやろ!」
ライが声をかけるも首を横に振った。
「ボクはいいィ」
「ええぇ、一緒に遊ぼうよ」
こいつが参加したら、俺とライ、キャロが触れないから無双されるだろうが。
だなんて言わずにおいた。
ドゥルガーを除いて五人が参加した。
椅子取りゲームをやると決まった瞬間には、すでに、四つの椅子が準備されていた。
用意周到すぎる。
椅子を囲うように俺たちは立っていた。
「それじゃあ、音楽流すよ〜〜。テレッテッテ〜〜」
「お前が歌うのかよ」
音楽が鳴り始め、俺たちは椅子の周りを時計回りに歩き始めた。
「久しぶりね、こういうのも!」
「うん、じゃんけんよりかは楽しめそう」
オリブたちはにこやかに話してる。
こいつらは、このゲームの真価に気づいていない。
どうして俺がじゃんけんでなく、椅子取りゲームを了承したか知らないようだな……。
「テレテ──。」
音楽が止まった。
キャロとライ、ソフラムは自分たちの前にあった椅子に座っている。
残ったのは、俺とオリブだ。一つだけ椅子が残ってる。
「もらったー!」
オリブが椅子に飛びついていた。
反応は俺より早かった。動き出しも好調だ。
「ふんっ!」
だが、甘い。
竜のお尻でオリブの尻を退け、押し飛ばした。
「椅子取りゲームで人があんなに吹っ飛ぶの初めて見た」
ソフラムは肩を揺らして笑っているが、笑っていられるのも今のうちだ。
だって、椅子取りゲームを了承したのは最終的に力で勝てるから。
「アマツさま、力どうするとか最低なこと考えてますね」
「考えてないよ〜」
ソフラムが俺の腕に抱きついてきた。
今更直談判とは遅いぞ。何を言われようと変わらない。
「竜のお兄ちゃん、手加減して」
色仕掛けか、俺がそんなのに引っかかるわけ……。
「うん♡」
「やったー、竜のお兄ちゃん大好き!」
そうか、俺の欲しかったものは平和な場所でも恋人でもなく、妹だったのかもしれない──……。
ソフラムのことは、妹としてこれからも大切に育てていこう。
「竜のお兄ちゃん! 起きて」
「どうしたんだよ、ソフラム」
「これから学校でしょ! 起きないと遅刻しちゃうよ!」
「そうだったな、起こしてくれてありがとう」
頭を撫でるとソフラムは嬉しそうに笑っていた。八重歯が口の隙間から見える可愛らしい笑みだ。
準備を済ませて俺とソフラムは家から一緒に出て登校する。
「わたしこっちだから!」
「そうか、学校楽しめよ」
「うん、じゃあね」
走り去っていくソフラムの背中を眺めながら俺は妹の幸せを切に思った。
これから先きっと色々な出会いがあると思う。傷つかないように大切にしながら、それでも挑戦させてあげながら見守っていきたい。
「アマツさま、おはようございます」
「早くいこ」
「アマツ、遅い!」
キャロたちが制服姿で俺のことを待っていた。
「待たせて、ごめん。学校行くか」
「はい!」
これから俺たちの学校生活が始まる。
「痛っ!」
「魔王! 絶対あんた変なこと考えてたでしょ……」
頭が痛い。絶対オリブ思いっきり叩いただろ。
学校行ってないからか、キャロたちと学校行くとかありえないことを妄想していたみたいだ。
「竜のお兄ちゃん?」
この子、恐ろしい。きっと魅了持ってる。
これ以上一緒にいたら、本当の妹にしちゃう。
「それじゃあ、音楽鳴らすよ〜〜」
ファウグスフは先ほどと同様に歌い始めた。
椅子の数は一個減って三つになっている。
その周囲を歩きながら俺はソフラムに話しかける。
「どうして精霊の秘宝が欲しいんだ?」
「お母さんが病気で、助けてあげたいの」
「……そうか」
クソ!
助けてあげたい。椅子を譲ってあげるべきか!
お兄ちゃんとして、妹のためにしてあげたい。




