30 新宿駅
魔女は穴の空いた天井から見える月を眺めていた。
退屈だったというのもあるが、誰かが昔住んでいた場所が破壊されていて感傷的になっていた。
集合時間になったというのに、あと一人来ない。
「ほんとめちゃくちゃね」
魔王バルフェルト死後、彼の配下だった四人はそれぞれの理想を掲げ別々に行動している。
人間に狩られてしまわないように、集まるようになったのが『四魔同盟』だ。
誰が集まろうと言い出したかは、今となっては不明だ。
だけど、この集まりのおかげで他の魔物の動きや人間の状況が共有されるから助かる。
「おい、まだかよ! いつになったらパクーチは来るんだ? 集合時間の十分前には来るべきだろうが」
横に座っていたセルリーが声をあげた。
これだから獣人は嫌いだ。相変わらずうるさい。
セルリーは経済魔族のリーダーだ。バルフェルトが死んですぐに人間と友好関係を築いた。
服装は人間みたいにスーツを着ている。
「うるさいですね、少しは待てないのですか?」
グリオンは眼鏡をかけ直しながら苦言を呈した。
魔王が死んだ今でも彼を慕っていて、バルフェルトを生き返らせるために活動している。
魔女は言い争っている二人を見てため息をついた。
バルフェルトが生きていたころから喧嘩していたが、まとめ役がいなくなった今は延々と会っては喧嘩をしている。
「お待たせしました」
天井から飛んできたのは、パクーチだった。
背信の魔物のリーダー。『勇者教』を作り、経済魔族の次に人間に交友的だ。
「ほんと待たせられたよ、約束すっぽかされたかと思ったぜ」
パクーチは笑顔で「この集まりを楽しみにしていたのですから、そんなことしませんわ」と答えた。
ボロボロの円卓の席には、四人ついている。これで全員集まった。
グリオンが口を開いた。
「それでは始めましょうか、四間同盟の会議を」
「あれくらいでしょ?」
話すことなんて決まっている。最近話題の彼についてだ。
「憎きアマツ・ツカサだ」
「ガハハ、お前くらいだろ。あいつを憎んでるのは」
「あいつはバルフェルトさまの体を奪った──!」
グリオンは爪を噛み目くじらを立てていた。
奪ったというより憑依の方が近い。何せバルフェルトの体を依代に生まれ変わったのだから。
「別にいいじゃない。人間が魔物になるなんて珍しいんだから」
人間だったアマツが、魔物の体に生まれ変わるなんてありえない。0.0001%の確率だ。
人間は死んだら、精霊になるか人間の体になる。
「あいつを捕まえて、売り払えば金になるかもな。いや、前世の技術を使って金儲けに使うのもいいな」
「あなたたちバルフェルトさまの恩を忘れたのですか!?」
忘れてはいない。
彼には助けられたことがある。一緒に同じ釜の飯を食べた仲だ
「でも、あの人は生き返りませんでしたよね?」
パクーチの言う通り、バンカが人間の国から精霊の秘宝、【ナーガ】の能力で死者蘇生を謀ろうとしたのだが、失敗した。
「いない奴のことを話しても無駄だ。次に活かす。俺らはまだ生きてるんだからな」
「故人のことを──あなたみたいな薄情者に言っても無駄ですね」
「テメェやんのか」
「それよりも、生き返らせる方法があるってこの前の会議で言ってたじゃない」
前回の会議の終わり際にグリオンが言った。
そんな方法ないとその時三人は鼻で笑ったが解散後三人とも生き返らせる方法を調べ、考えたがなかった。
「生き返らせる、絶対に、だから僕に協力してください」
「というと?」
「話だけは聞いてやろうじゃねぇか」
「軍の一部を僕に貸してください」
「それはどうして?」
「──ロマネスク討伐のためです」
「話が見えないわ」
「破壊の魔女の言う通り何が言いたいのかわかんねぇ」
魔女は首を傾げていた。
バルフェルト復活、ロマネスク討伐が結びつくとは思えない。
「アマツさん、ロマネスクさまが三日後ここに来ます」
答えたのはパクーチだった。
「バルフェルトさまの復活には、バルフェルトさまの魂・肉体が必要です」
「魂がないから困ってるんだろ?」
「おそらく勇者ロマネスクが持っています。復活を危惧して何かしらの形で封印しています」
「ロマネスクから魂を奪うために、俺らの軍が必要ってわけか」
セルリーはあごに手を置いて考えていた。
自分の部下を死地に追いやるわけだ。即決するには難しい問題だ。
「たかだか、足止めのために部下は出せないな」
「誰が足止めと言いましたか? ロマネスクを殺します」
「!?」
自分たちより強いバルフェルトが勝てなかった相手に勝つとグリオンは宣言した。
この世界において、ロマネスクが魔王討伐してから絶対王者は変わらない。彼女だ。そんな化け物を倒すと言った。
それを聞いた三人は反応を隠せずにいた。
「……本当に倒せるのか?」
「バルフェルトさまが生き返れば倒せます。精霊の秘宝を預けている状況ならロマネスクは絶対に倒せます」
セルリーは少し考えた後、立ち上がった。
「千体だけなら貸してやる。だが、犬死にさせるようならお前を殺す」
「ありがとうございます」
セルリーが円卓の場から去り、魔女も向かおう離席しようとした。
「破壊の魔女、あなたにもお願いしたいです」
「私も嫌よ、タダでさえ数が少ないんだから」
セルリーがポンと魔物を貸し出せたのは、無理やり繁殖させて人間たちに販売しているからだ。
そんなこと他の三人はやっていないから、経済魔族は魔物が圧倒的に所属数が多い。
「あいつの部下なんてどうでもいいです。汚らしい、奴隷に落ちた魔物なんて」
「コマにしようなんて酷いですね、彼の手下いるから私たちの計画は成り立つんですから」
パクーチの含みのある言い方に魔女は発言した。
「それはどう言うこと? アマツとロマネスクは自分たちでここに来てるんじゃないの?」
アマツがこの世界に来た時に四魔同盟内で話しあっていたのは、「アマツを仲間にするかどうか」だった。
バルフェルトの肉体に憑依したのが、ロマネスクを前世で倒したことがあるのであれば話が早かった。
──彼にロマネスクを倒してもらい、新しい魔王になってもらう。
だが、案の定グリオンは反対し、パクーチとセルリーは流れに任せると回答を保留。
それ以降アマツを仲間にするかは話し合われていなかったが、今頃になってアマツがここに来ると聞いて仲間になるのだと思っていた。
「グリオンさんはバルフェルトさまの体を、私はロマネスクさまを手に入れるために手を組んだのです」
「な、なるほど……」
バルフェルトの体はともかく、ロマネスクは手に入るだろうか。そううまくいくとは思えない。
パクーチはグリオンに言いくるめられている。ロマネスクを倒すためのコマにさせられているに違いない。
「そこで、あなたからは精霊の秘宝を借りたいです」
「……何をしようとしてるの?」
「魔王復活に必要なのです」
魔女は目の前の男が何を考えているか、わからなかった。
今は頷くことにした。そうするしかなかったから。
「お礼に、一ついい情報を教えてあげましょう」
「いい情報?」と魔女は反復した。
「新しい精霊の秘宝が手に入るかもしれませんよ。アマツが大精霊とこれから会うようです。キャロから聞こえる情報ではそうなっています」
「そんなんだ、ありがとう」
「それでは、頼みますよ。破壊の魔女」
「ええ」
魔女は微笑み返した。
目の前にいる女が破壊の魔女だと思っている彼らが滑稽でしたかったなかった。
本物はここにはいないのだから──。
*****
魔王城から遠く離れた誰もいない線路の上に一人の少女がいた。
人並みの身長ほどの段差を上がる。階段の踊り場というには、広すぎる空間を一人ダンスをするみたいに笑いながら回り始めた。
踊り場には『新宿駅』と書かれた看板が壁や柱に付けられている。電光掲示板や壁広告が周囲に飾られている。
「グリオン、ありがとう。いい情報を聞いたわ」
破壊の魔女は一人微笑んでいた。
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