29 噓つきの魔女
ライ視点
ネモフィラ村でうちが兵士に捕まった時にバンカは言ってくれた。
「その子の価値を勝手に決めんな、クソ野郎」
その時すごく嬉しかった。
よく知らないうちのことをかばってくれた。
この人とこれからも一緒にいて、もっと知りたいって思ったから一緒に旅をしたかった。
「バンカさんは死にました」ってあの女の魔物に言われるまで知らなかった。
バンカの身になにかあったっていうのはわかってた。
アマツやキャロがずっと怪しかったんだもん。
病気? ケガ? アマツとケンカ別れした? どうせまた会えることだろうなって思って深く聞かなかった。
でも、もう二度と会えないとは思ってもいなかった。
死んだ人は生き返らない。
アマツは死んで魔王になったって言ってたけどバンカもそうなるとは思えない。
「ライさん!」「待ちなさい!」
うちよりも二人のほうが走るのが早かったみたい。すぐに追いつかれちゃった。
「どうして……隠してたの?」
「それは……」
キャロはいつも目を合わせてくれないけど、今は顔すらこっちに向けてくれない。
そんなうちに言えないことがあるの? そんなウソをついてまで?
「あたしそんなこと知らないんだけど」
「……オリブさん」
「ボクが言ったんだァ」
いつの間にかドゥルガーが隣にいた。
「どうして! 隠してたの、うちが起きたときに教えてくれればもしかしたらバンカを生き返らせることできたかもしれないのに!」
「それは──」
「うちが魔族になりたいからって誰かのこと傷つけてまでなりたくなかった! バンカの命だって……」
「君がそうなるってわかってたからだァ、君は誰よりも優しいィ。傷ついてほしくなくてアマツたちにお願いしてたんだァ」
「ふ、ふざけないで! なにも知らないくせに」
みんな黙った。
それはそうだ、みんなうちのことなんて知らないんだから。
ドゥルガーなんてたかだか、6年程度の付き合いで知ったようなこと言われたくない。
「それを友だちに言うのは言い過ぎだと思うけどな」
「……」
低い声で割って入ったのは黒い竜、アマツだ。
その横にロマネスクが立っていた。
「なに」
「プリプリしてぇ、いつもみたいに、ギャアギャア言えよ」
「うざ」
「……」
「今のは言い過ぎだぞ、小娘。ほら、アマツが泣いてしまってる」
「ライさん、言い過ぎですよ!」
「魔王が泣いてる! 弱虫ー」
うちは絶対に謝らない。
茶化してきたアマツが悪い。
「謝らないのか? ならば私が代わりに制裁を加えてやろう」
「制裁は加えなくていい。俺に言い過ぎてもいいけどドゥルガーには謝れよ」
「ボク?」とドゥルガーは不思議そうな顔をしていた。
「だって、友だちなんだろ? なら大切にしてやれよ」
「うちのこと何も知らないし何もしてくれなかったもん」
どいつもこいつもうちのこと知らないくせに!
うちだって、こんなひねくれた性格になんてなりたくなかった。
全てあの時から全ておかしくなったんだ。
「知らねぇよ、だから教えてくれよ」
「あたしもあんたのこと知りたい」
「自分もです」
「な、なんでうちが噓つくかもしれないのに。今までだって噓ついてきた。どうして……」
ドゥルガーだけ首を振っていた。
ゆっくりとあたしに近づいてきて、いつもみたいにあたしに触れようとしてきた。
でも、その手はうちをすり抜けていた。
「ライ……確かにキミのためにボクはなにもできないィ」
「なんで……」
ああ、そうか……。
思い出した、大精霊は魔族に触れられない。
『呪い』がうちに移って、今は魔女だからもう二度とドゥルガーに触れられない。
触れてもらえない。
「でもキミのことは信じてあげられるゥ。だから、話してくれェ」
*****
今でもあの時のことを思い出すと、胸がモヤモヤして頭がいっぱいになる。
家族で隣の村まで買い物に行って家に帰ると、村長の息子がなぜかいた。
家に勝手に入り込んで、物を盗んでいた。
お父さんが捕まえにいったら殺されて、お母さんはうちを逃がすために殺された。
このことを村の奴らは誰もうちのことを信じてくれなかった。
「村長の息子がそんなことするわけない」「見間違えじゃない?」「魔族がやったんだ」
みんな最初からあいつのことを信じていた。
うちがどれだけ本当のことを言っても誰も信じてくれなかった。
今とって証拠がないんだから信じてくれないのは当たり前だと思う。
だけど、うちは本当のこと言ってるのに信じてもらえないのが悲しい。
噓はいけないことだってわかってる。みんなそうだと思ってた……。
お母さんたちを殺したあいつは、殺してないだのアリバイがあるだの噓をついていた。
噓をつかれるのは嫌だ。
でも、いつしかうちが「噓つき」呼ばわりされていた。
村長の息子は、表向き誰にも優しいし信頼されていた。
それに比べてうちは、身寄りのない子ども。
いつまでも村の人気者を犯人に仕立てようとしているのは、構ってほしいからやっているように見えたんだ。
誰も信じてくれないし「噓つき」だって言われるなら言われた通り「噓つき」になった。
*****
みんな黙ってうちの話を聞いてくれていた。
「村が酷い。特に村長の息子」
オリブが地面を叩いて自分のことのように怒っていた。
「話してくれてありがとうゥ」
「……うん」
ドゥルガーともう触れ合えないと思うと悲しくなってきた。
今まで肩に乗せてくれて遊んだりしてたから、そういうのができないんだ。
「まずは謝ることじゃねぇの?」
アマツの言う通りだ……。
「ごめん」
「大丈夫だァ」
ドゥルガーは笑って許してくれた。
いつもうちの隣にいて、味方してくれたのに酷いこと言っちゃったな……。
「仲直りして偉いな。ついでに俺に『キモ』っていったこと謝ってほしいなー」
「それは嫌だ」
アマツは悲しそうな顔していた。
「バンカが死んだのはほんとに嫌だった」
今までのことを話してすっきりしたのか、するりするりと言葉が出てくる。
「うちは、魔族になれなくてもよかった」
人間は、将来のこととか誰かの悪口とか、理不尽なこと言って生きずらかった。
魔族になれば、獣みたいに子どもみたいに何も考えずに遊べると思った。
いろんな魔物と仲良くなって、泥だんご作ったりかけっこしたりいっぱい遊びたかった。
「ただもっと友だちがほしかった、だけ」
「俺らが友だちになってやるよ」とアマツが話し始めた。
「うち、噓つきで、魔女だよ」
なにを今更、とみんな吹き出すみたいに笑っていた。
「俺に、ロマネスクに、キャロに、オリブのとんでもパーティーなんだ。噓つきの魔女くらいいてもいいだろ」
「ボクを忘れてるよォ」
「お前はいつでも出れるからベンチだろ」
「酷ィ」
二人は言い争ってる。魔王と大精霊なのに。でも、どこか楽しそう。
「小娘、貴様は最後まで聞いてなかったから言うがバンカを生き返らせる方法あるぞ」
ロマネスクの口から驚くべきことを言っていた。
「そうなの……?」
生き返らないと思ってた。また会えるんだ。
今度会ったらお礼を言いたい。
「小娘、これからどうするんだ? 私たちはバンカを生き返らせられる可能性を聞きに行く」
「バンカに会いたい。だから、ついてく」
自分のせいで、死んだとしてもあの人がうちを生き返らせた理由を知りたい。




