28 出会いを蔑ろにはしたくない
「バンカが死んだ?」
ライはパクーチが言った言葉を反復していた。
「あなたを生き返らせえるために呪いを譲渡して死んだのでしょう」
「な、なんでうちを……まるでうちがバンカを……」
「そこまではわかりません」
苦しそうに涙を堪えていたが、ライは走り去った。
嘘はいつかバレる。だけど、今じゃなかった。
どの時に伝えるべきかなんてわからない。だけど絶対に今ではないと言い切れる。
「おい、待てよ! キャロ、オリブ追いかけてやってくれ」
「わかりました!」「わかってる!」
二人はライの後を追いかけた。
言われた通り行動してくれて助かる。
「私何かまずいこと──!」
右手はパクーチの首を掴み上げていた。
苦しそうに悶えているが離さない。
あんな悲しい顔見たくなかった。嘘をついていた俺も悪いけど、今はこいつが全て悪い。
ライが傷つくくらいなら、いっそ墓場まで本当のことを持っていくつもりだった。
「お前それ以上話すな」
「ッ……」
もし話したら俺はパクーチの首を吹き飛ばす。
喃語だろうと何か発音したら俺は絶対に殺す。
「なんでお前がバンカが生き返らせたこと知ってんだよ」
「……」
パクーチの顔はどんどん赤くなっていき、口から唾が溢れ出ていた。
ロマネスクに腕を掴まれ、一瞥する。
「アマツ、やめろ」
「……」
手の力を緩めるとパクーチは地面に落ちた。
苦しそうに息を吸っている。ロマネスクがいなかったらこの場で殺していた。
「もう一度聞くどうしてお前が知ってんだよ」
「……グリオンさんから聞いたのです」
「俺はあいつに一度も伝えてないぞ」
「きっと彼の原始の魔法でしょう」
キャロを操った魔法か。操るだけじゃなくて、盗聴もできるのか。
だから、俺の横にキャロを置いたのか。
「その女がァ、ライに本当のことを言ったのかァ」
いつの間にかドゥルガーが俺の横にいた。
どこにでも現れるっていうのは、ここまで不便だとは思わなかった。
「今ここで自分から死ぬか、ボクに殺されるか選んでよォ」
ライにバンカのことを言われて嫌だったのが、ドゥルガーの暴走だ。
誰彼構わずに殺したり、バラした相手を殺されては困る。
ドゥルガーとライに嘘をつく際に『なんでもしてもらえる』したことを破られてしまう。
嘘がバレた時点で約束もクソもないだろうけどな。
「私がライさんに、本当のこと、を伝えたのは」とパクーチは息を整えながら話始めた。
「裏切りの魔女、バンカを生き返らせることが、できる可能性があるからです」
「バンカを生き返らせる?」
精霊の秘宝、【ナーガ】はロマネスクによって壊された。
もう生き返らせる手立てはないはず。
「それは本当かァ」とドゥルガー。
「詳しくはわかりませんが、グリオンさんはバルフェルトさまを生き返らせることができるかも
と言っていました」
ロマネスクが間髪入れずに「それは無理だ」と吐き捨てる。
「あいつの魂はない、肉体はあっても魂がなければ無理だ」
「そうですよね……なのに、彼はそう前回の四魔同盟の際に言っていました」
バルフェルトが蘇る。だとしたら、俺はどうなってしまうんだ。
次こそ正真正銘の死が訪れるかもしれないのか。そう思うと、この世界から離れるのが名残惜しいな。
「先ほどの問いをもう一度投げかけます。四魔同盟の席に一度はついてみませんか?」
パクーチは真顔で問いかけてきた。
バンカを生き返らせることができるのであれば、俺だってもう一度会いたい。
それに四魔同盟、残りの『魔王新派』と『経済魔族』のリーダーがどんな奴らか気になる。
「ロマネスクどう思う?」
「どうやって生き返らせるか気になるな」
確かに気になる。もし生き返らせる方法がないにしろ、四魔同盟の奴らの顔を拝んでおきたい。
「アマツ、もしかしたら罠かもしれないけどライの喜ぶ顔を見たいィ。だから、頼みたいィ」
「タダでかァ?」
「ボクの話し方マネしないでよォ。もしライを喜ばせることができたらボクの友だちの大精霊を紹介するよォ」
大精霊と会えるとなれば、もしかしたら精霊の秘宝がもう一つ手に入るかもしれない。
「精霊の秘宝はもらえるかは、別だけどねェ」
「紹介してもらえるだけありがたいし、四魔同盟に会ってやるよ」
「すまないねェ」とドゥルガーは去っていった。
相変わらず身勝手なやつだな。
でも、これで次にやることが決まった。
パクーチが手を合わせて微笑みかけてきた。
「それでは、これから一緒に──」
話を遮った。まだすぐには行けない。この村から出る前に済ませる問題が一つある。
「ライのことをどうにかしないといけない」
「そうですか……開催を三日後に遅らせます。場所は旧魔王城でお会いしましょう」
*****
ライたちが言った方向に向かっていたが、ロマネスクが口を開くと思いがけないことを言った。
「どうせ生き返らせる方法は、精霊の秘宝だろうがな」
「そうなのか?」
「魔物には、人智を超えた技なんてない。原始魔法もできることなんてたかが知れてる」
精霊の方がすごいのか。
だとしても一つ気になることがある。
「どうやってグリオン、魔物が精霊の秘宝を使うんだよ」
「バルフェルトの側近で私が殺し損ねた魔女がいるからそいつだろう」
「そいつはどんなやつなんだ?」
答えはなかった。その代わりに俺を地面に押し倒してきた。
「私という女がいて、他の女が気になるのか?」
「そういうわけじゃねぇよ???」
「貴様は、バンカ然りパクーチといった魔族の女にも好かれるから少々妬いてしまう」
あの二人は俺に好意を寄せていたとは思えないんだけどな……。
「どうだ? ライのことは放っておいて二人で旅をしないか」
「それは嫌だな」
即答だ。ロマネスクのことが嫌いとかそういうわけじゃない。
ただ──。
「バンカが命を変えてでも助けた子どもだ。蔑ろにしたくない」
「あの魔女と一緒に行動して一週間も経っていないだろう? それなのに、どうしてあの女の思いを大切にする」
ロマネスクの言う通り、出会って間もない相手と少し旅しただけだ。
友情だって芽生えていない。友だちというより知り合いに近い。
だとしても、出会いを蔑ろにはしたくない。
「俺が魔王になること、考えを改めるきっかけになった人だから」
『人は変わるもの』と死に際にバンカは言った。
きっとあの言葉がなければ俺は今も前世で勇者として戦ってきた思いに囚われて、魔物のことなんてどうでもいいと思っていただろう。
「やはり貴様は読めない奴だな、それにキモい」
「ああ?! 貶してます?!」
ロマネスクは俺を押し倒すのをやめて立ち上がった。
「でも、いいやつだ。貴様と一緒にいられる理由なんてそれだけで充分だ」
「?」
「ライを追いかけに行くぞ」と手を差し出してきた。
「なんだよ、急にいい奴だなんて褒めて」
「告白だよ」
「また告白されても考えは変わらねぇぞ」
俺は友だちの手を取った。




