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勇者アマツ・ツカサは魔王になる  作者: 川上アオイ
第二章 アマツ・ツカサは勇者の娘を育てる
23/49

23 勇者アマツ・ツカサは魔王になる

オリブが精霊と契約は、今無理だとしたら鍛えるとしたら剣術しかない。

「俺と組み手するぞ……と言いたいけど、相手にならないんだよなぁ」

「バカにしてんの?!」


「オリブが誰かと戦っているところを俺がアドバイスするか、俺が戦っているところを見て学んでもらうのがいいんだけどな」

「適当にそこらへんの魔物連れてくればいいじゃない」

「それも変わらないんだって」


「なら、私が戦ってやろう」

部屋の中に、黒色のマントを着た頭に紙袋を被った女が立っていた。

「誰ですか、アマツさまお下がりください」「いつ入ってきたの!?」「あんた誰よ……」

いやいや、どう見てもこいつ……。

ロマネスクだろ!


「お前なにやってんだ?」

「ふ、何を言っている、私は通りすがりの元魔王だ」

「そんなポンポン魔王がいたら困るわ」

他の三人もいい加減気がついていそうだな。

「元魔王ですか!? そんなすごい人がどうしてここに……」

魔族のお前が驚いてどうすんだよ。


「言っただろう、通りすがりだって。組み手相手がいなくてお困りのようだな」

「うん、あたしと戦ってよ!」とオリブはぴょんぴょん跳ねてる。

「それもいいが……君を傷つけてしまうかもしれないから、アマツと戦おう」

「確定かよ」

まぁ別にいいんだけどな。

俺が戦ってるところをオリブに見せられるから助かる。


*****


俺たちは村の広場に移動した。

魔物たちは、誰も紙袋を被った女を一瞥したかと思ったら何事もないように普段通り過ごしている。

お前らの信仰対象なんだけどな、誰も気づいてないのか。


「アマツ準備はいいか?」

「え、ちょっと待ってくれ。オリブ盾と剣貸してくれ」

「えええ、自分のないの?」

「あるわけねぇだろ」

俺は基本素手だからな。


「だって、この剣はお母さんのだし」

「もしかして……盗んだのか」

「いや、盗んでない。お母さんがちょっと離れてる隙に借りただけ」

「それを盗むというんじゃないのかよ」

だから、ロマネスクの野郎がここまで来たのか。


「折ったりしないから、貸せ」

「わかったわよ」

オリブから半ば強引に、盾と剣を借りて剣を右手に盾を尻尾で持つ。

それにしても、この剣重すぎる、

この親子こんなの持って戦ってたのかよ。


「待たせたな、ロマネスク──じゃなくて通りすがりの元魔王さんよ」

「準備はできたみたいだな。では、いくぞ」

ロマネスクは腰に携えた剣を抜き襲いかかってきた。


剣を交えていると、前世で戦ったことを思い出す。

「懐かしいな、またこうして貴様と剣を交えることができるとは思っていなかったよ」

「だな。今みたいに今後会ったときは手加減してほしいな」

「それは……無理だな」


ですよねー。

手加減しているにしても、そこらへんの人間より強いのチートだろコイツ。

剣を振るだけで周囲の地面がえぐられてる。


「やっぱり左手がないと厳しいか」

「お、手加減してくれる感じか」

「そんなわけないだろう」

片手剣の機動力とロマネスクの剣技の前では、連撃で防御にまわることしかできない。

だけど、それを覆すために使うのが盾だ。

「ッ」


右手の剣に防御を任せて、尻尾で持っていた盾を振り回しロマネスクを吹き飛ばす。

「女性を吹き飛ばすだなんて失礼な奴だな」

「飛ばしちゃって、ごめんな。手貸してやるよ」

態勢を崩しているロマネスクに詰め寄り、切りかかる。


「前世と変わらない行動パターンだな!」

「はぁ?!」

こいつ歯で剣を受け止めた。

しかも、人が驚いてる間に俺を蹴り飛ばしてきやがった。

「返してもらうぞ」

「!」


剣が奪われた。というか、剣が自らロマネスクの手元に動いたみたいだった。

きっとあの剣は、ロマネスクの魔法か、精霊の秘宝(ランドマーク)の能力で勝手に動いたんだろう。


「何したんだ?」

「少し下品だったかな、本当はへし折りたかったがさすが私の剣だ、戻ってきてくれたな」

「まじでマナーがなってねぇよ……」

歯で剣を受け止めるし、剣が勝手に動くし小細工なしのつもりで戦ってたんだけどなぁ。


連撃に継ぐ連撃、ずっとロマネスクのターンだ。

盾で攻撃を凌ぐので手一杯だ。

「魔王やられっぱなしじゃない!」とオリブが怒っていた。

「ちょっと待ってろ」

お手本見たかったのに、やられるところばかり見てたらそりゃ怒るよな。


「俺のことちゃんと見ておけよ」

盾をロマネスクに投げ飛ばす。

「盾を捨てるだなんて、戦いを放棄しているのと変わらんぞ」

「足元がお留守になってるぜ」


尻尾でロマネスクの足を掴みあげ、放り投げる。

盾は視界を防ぐために投げた。一瞬でも隙を作れれば次の攻撃に転じられる。

「それにしてもロマネスクがこんな単純な攻撃ひっかかるなんて油断してるな」

「貴様と戦うのが楽しくて、つい油断してしまう」

確かに命のやり取り抜きに、組み手できるのは楽しいな。


「俺、この世界に来れて良かったよ」

「急にどうした、気持ち悪い……」

人が真面目な話をしようとしてる時にこいつは……。

「違う世界といえど、魔族と仲良くできたからな」


魔族は絶対に倒すべきだと思ってた。それに奴隷同然に扱ってた。

でも、この世界に来てからその考えが誤っていたことに気づけた。


「お前とこうやってふざけることもできるからな」

「居心地が良いのであればよかった」

「でも、俺はなにをすればいいのかわからない」


敵であった魔族とも一緒に行動せずに、仲間だった人間の味方もしない。

どっちつかずで、訪れる場所で争いを起こしている。

いっそのこと──。


「自分がいなくればいいなど、思うなよ。愚か者」

「……まさかお前に説教されるときがくるとは思わなかったぜ」

「次は私が魔王とはなにか説いてやろうではないか」

「俺は魔王になんて……なりたくない」


誰かから奪うような存在になんてなりたくない。

俺は勇者として誰かを守る存在で居続けたい。


「自分が欲しているモノを手に入れようと貪欲に動いてるではないか。

その結果、多くの者の願望は打ちひしがれ、奪われる。それを魔王と言わずになんと言う」

「俺が魔王……」

「自分の欲望にもっと忠実になれ! 誰かのためではなく、今世では自分のために動け!」

「……ッ!」


考えあぐねていると、ロマネスクに胸元を切りつけられた。

「アマツさま!」

「魔王がまさかここまで押されるなんて」

「アマツがんばえー」

ほんとロマネスクにここまで言われて、集中できないというのに三人が茶番を続けてて笑えてくるな。

「お前らまじでコイツが誰だか気づいてないのかよ……」

ぽっと出の魔物か人間に俺が押されるわけがないだろうが。


「俺が魔王になったら、勇者として俺を倒すか?」

「それはどうだろうな、貴様が私の邪魔をしてこないなら手伝ってやろう」


戦うのはもう疲れた……。このままゆっくりしたい。

俺が生きていると争いは起きる。誰かが傷つくのは、見たくない。

勇者として、自分のせいで世界をめちゃくちゃになんてしたくない。


『人は変わる者よ』とバンカが言ったことを思い出した。

人間嫌いだったバンカが人を救ったんだ。だったら、俺も変わるべきじゃないのか。


「魔王になれば、世界を自分のものにできるのか?」

「ああ、そうだ」

「だったら、俺が平穏に暮らせる過ごせる場所を作ってやる」


魔王が悪役だなんて誰が決めた。


パクーチが言った「強さとは、正義」ってわけじゃないが正義なんてコロコロ変わるんだ。

なら、勇者が魔王になろうと正義がそこにあればいい。


「俺は、勇者アマツ・ツカサは魔王になる」

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