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勇者アマツ・ツカサは魔王になる  作者: 川上アオイ
第二章 アマツ・ツカサは勇者の娘を育てる
19/49

19 ロマネスク祭りじゃねぇか

パクーチに連れられて『勇者の村』に来た。

そこらじゅうにロマネスクの銅像が建てられて、ロマネスクの自画像まで飾られてる。

村のマスコットがロマネスクのミニキャラがあるいてる。

それにマスコットロマネスクのぬいぐるみを持って魔物の子どもたちが走ってる。


なんというか薄気味悪い村だな……。

「どうですか?」とパクーチ。

「どこも気にいる要素ねぇよ! どこもかしこもロマネスク祭りじゃねぇか」

なんで四方八方ロマネスクの顔見ないといけねぇんだ。


「そうですか? 平和な場所ですよ」

「なんで四六時中アイツの顔を見ないといけねぇんだよ」

「前世からの仲なんですから、仲良いんじゃないんですか? グリオンさんからそう聞いてたけど……」

「違うね」


俺が否定するとあらら、と困っていた。

「仲良いと思ってたのに……」

なんだこの天然巨乳宗教魔物は、属性盛りすぎだろ。


「お母さんばっかだ」

「あなたは勇者さまの娘さん、オリブさんでしたよね? どうですか、ここは」

「あたしもここはやだ。なんか緊張する」

まぁこんだけロマネスクいたら緊張するわな。


「ここにいる奴ら全員勇者教なのか?」

「そうです、みんながロマネスクさまを信仰しているのです!」

「そ、そうなのか……」

村を一時間近く歩いたが、この村人間の街の人の数より魔物がいる。

そいつらが全員入信してるのか……。頭がおか──。

人様の宗教をこれ以上とやかく言うのは、どうかと思うから何も言わないようにしとこう。


「ここなら、皆さんのお望みが叶いますよ」

「「「え」」」

みんな声がそろっていた。

「どうしてそれを」

「すみません。皆さんがそれぞれの旅の理由をお話していたの聞いてしまいまして」


俺は平和に暮らす。

オリブは俺を倒して勇者を超える。

ライはバンカに出会う。

キャロは……特になしと。


「……どうやるんだよ」

「ここは、争いはありません。それに、土地が広いのでオリブさんの特訓の場所に向きます。

バンカさんは探すよう伝えておきます」

「魔王、ここで戦いなさい!」

「えええ……いやだよ。ゆっくりしたい」


「アマツさま」

キャロが小声で話しかけてきた。

「ここでしばらく過ごすのも悪くないかもしれないですよ」

「確かにな、案外言ってるとおり良いところかもしれないしな」

「話は決まりましたか?」

「ああ、しばらくここでお世話になるよ」


****


パクーチの勧めで俺たちは『勇者の村』に泊めさせてもらってから三日が経った。

案外、居心地は悪くない。三食しっかりご飯はついてくる(おかわりし放題)し

それぞれの個室が用意されて寝るところはちゃんとベッドがある。


どっかの村とは、天と地の差だ。

まぁこんな村で住んでて、嫌なところといったらロマネスクの顔をずっと見ること。それと──。

「とりゃあ!! ぎゃー!」

「なんでそんな弱いんだよ……」

ずっとオリブの相手をさせられることだ。

こう言っちゃあれだが……ロマネスクの娘だったら──。

「ロマネスクの娘だったら、もう少し強いだろ」


俺が思っていることを誰かが口に出していた。

「……誰よ」

「初めまして、ロマネスクの娘さん」

木々に身を隠していた少年が出てきた。


「おーっ……」

少年の右額から目元にかけて移植後がある男が出てきた。

傷が生々しくて声が出ちゃった。


「誰かって聞いてんのよ」

「パクーチの息子、スピナッシュだ」

「あっそ!」

オリブの奴、スピナッシュに飛びかかって行きやがった。

本当血の気が多いな。


「ばか! 争うな!」

「いいんじゃなーい、勝手にケンカさせれば」

ライは争ってる二人を見ながらぼやいた。

「そうは言ってもなぁ、泊めさせてもらってる人の息子に怪我させるのはまずいだろ」


「…………」

「なんだよ」

「まともなこと言うんだね」

「煽るんじゃねぇよ! 全くバンカみたいだな、呪いってそこまで──」

「え?」

「はっ」

やばい口がすべった。


「何? 何か隠してるんでしょ」

「ナニモカクシテマセンヨ」

「いや、隠してるでしょ! 呪いってなに?」

「ちんたら遅い方のノロイって言ったんですよね?」

「そうそうキャロの言う通り!」


あぶねー、毎回フォローしてもらって助かるなぁ。

「どう考えても呪う方の呪いだった!」

「あ、おい、見ろ! 二人の争いが接戦だぞー」

「オリブさんがんばってくださーい!」

「全然接戦じゃないけど?」


戦闘素人のライから見てもスピナッシュの圧勝だった。

オリブは傷だらけ泥んこまみれに対して、対戦相手は無傷にホコリひとつない。


「弱すぎる、弱すぎて話にならない」

「……まだ負けてない」

「掠り傷すらつけられてないのに? はははは!」

スピナッシュは腹をかかえながら嘲笑っていた。

なんというか腹がたつな、こいつ本当にパクーチの息子か? 全然タイプが違うぞ。


「元勇者さん、どう思うよ? ロマネスクさまの娘さんの勝ちか負けか」

俺に振るか……。でも、言ってることは合ってる。

「負けだな」


「! 負けてない……あたしはまだ負けてない!」

オリブが言ってることは間違っている。

戦場だったら、こんなお話できない。あきらかに負けだ。

「オリブ、今回は負けだ」


「あたしは……まだ負けてない!」と泣いていた。

泣くほど悔しいのかよ。だけど、負けだ。

そう。だけど──。

「だけど、次勝てばいい」

「え」「はぁ?」

二人は不思議そうに首をかしげていた。


「だって、まだ生きてるだろ」

スピナッシュは大声で笑い始めた。

腹まで抱えるほど変なこと言った覚えはないんだけどな。


「こいつが明日になれば勝てると思ってんのか? 明後日、いや来月、いつになったって無理だろ」

「オリブが負けって認めるまで、勝つチャンスはあるさ。だよな?」

「まだ戦う……」

「勝手に言ってろ」

スピナッシュの野郎は、俺らに背をむけて歩き始めた。

まだ話は終わってねぇのに、ほんと常識がなってないな。


「また戦えよ? そんなに煽ったんだからよ」

「は? ふざけんな。誰がやるか」

「なんだ? 負けるのが怖いのか?」

「そんなわけあるか、やってやるよ!」

「それじゃあ頼んだぞ」


やったー! これで俺が相手しなくて済んだ!

しばらくの間、ゆっくり過ごそ〜。

「くそ!」

オリブはノロノロとどこかに動き始めた。

「あいつどこ行くんだ?」


「知らないんですか?」

キャロはまるで俺がオリブが言ったことを知ってるみたいに言うな。

「毎回負けるたび一人で特訓してるんですよ」

「ふーん……そうなんだ」


*****


別に無理してないか気になっただけで、特訓を手伝おうとか思ってるわけじゃない、

傷だらけで心配だったから行くだけだ。

よく考えたら、俺に戦いに来た時に毎回傷が癒えていたのはキャロが手当したからだったのか。


「絶対次は負けない」

オリブがそう呟いて剣を振っていた。

何百回も何千回も振っている。素振りを終えたと思ったら筋トレを始めてた。

「そこまで頑張るのはどうしてだよ」


筋トレしながらオリブは答えた。

「お母さんに、認められたいから。ってか、魔王、いつから、そこに」

「素振りしてるところから」

こんなに努力してどうして勝てないんだ。

「どうして勝てないかって、思ってるでしょ」

「え、まぁ、はい」

どいつもこいつも俺が思ってること当てるなよ。


「あたしは戦場に出たことがない。お母さんに禁止されてるの」

「それほど大切にされてるんじゃないか」

「違う、あの人は弱い人に興味がないだけ。だから、戦わせてくれないの」

「そんなことは……」

ある。あいつは弱い奴が嫌いだ。自分の娘だろうと弱かったら戦わせない。

ロマネスクは常に強かったらから、弱い奴のことは理解できないからなぁ。


「あるんじゃない」

「否定はできないな」

「だから、あたしは強くなってあんたを倒してお母さんに認められる」


「ならまずは、あのいけすかない野郎を倒せるようにならないとな」

今のままじゃ、スピニッシュが言ってた通りオリブは一生勝てない。

戦ってるところよく見てなかったから、断言はできないけど、あの男は戦いなれてる。

戦闘経験皆無のオリブが勝てる確率はないに等しい。

でも、誰かがオリブに戦い方を教えれば勝ち筋はある。


「俺が稽古してやるよ、宿敵の娘を馬鹿にされるのは癪だからな」

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