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勇者アマツ・ツカサは魔王になる  作者: 川上アオイ
第一章 アマツ・ツカサは魔女と旅をする
16/49

16 誰かのために何かをする

バンカ視点


「君は死ぬべきじゃない」

私を生き残らせた魔王は、そう言った。

自分で村を滅ぼしておいて身勝手だと思う。


「……生きたくない。こんなクソみたいな世界生きても無駄だ」

「まだ君は世界を絶望するほど、生きてないじゃないか」


生きたいだなんて望んでないのに、私は死の底から蘇えらせられた。

ずっとアイツが私を甦らせたのがわからなかった。

その答えを聞く前に、バルフェルトは倒されたけど。


「アマツさま、すごいです」

隣にいたキャロが呟いた。

心の底から同じことを思った。


アマツがあのロマネスクと互角に戦ってる。

本当に前世で倒したのかもしれない。正直最初は噓だと思ってた。


「ライはどうしたァ」

「!」

大精霊がいつの間にか私の隣にいた。


「どうしてここに大精霊がいるんですか……!」

「キャロ!」

首を絞められ、苦しそうにキャロは悶えていた。


「殺す気?」

「ああ、そうかもねェ」

ドゥルガーはキャロの首を絞めるのをやめて話した。

「なんの用よ」

「愚問だねェ」


ドゥルガーは私に抱かれているライを見ていた。

「やっぱりライは死んでしまったのかァ」

「……ぅ」


苦しい。息ができない。

こいつ殺す気で私の首を絞めてる。

「もう一度聞くゥ。ライはどうした?」

「……兵士に襲われて殺された」

「ふざけるなァ、どうしてこの子が死なきゃいけないィ」


「私だってそう思ってるわよ」

「この世界の人間全員まとめて殺してやるゥ」

「それもいいかもしれないわね」

人間が全員消えるなら、万々歳だ。


「でも、そんなことしたってライは戻ってこないわ」

「じゃあ、この子は──」

ごたごたうるさいな。


「……ッ!」

痛い、痛い。胸に手を突っ込むなんてアホみたいなことしなければよかった。

「私がライを生き返らせる」


身体に繋がっていないっていうのに、まだ脈打っている心臓は気持ち悪い。

まだ私は生きている。


「出会って数日の子どもを生き返らせるのはどうしてだァ」

「救ってもらった命だから、救うために使うのは当然」

人間が嫌いなくせに、本当に生き返らせるのは自分でも意味不明だと思う。

バルフェルト、あんたが私に命を与えたんだから勝手に使うのは自由よね。


私は──呪いをライにかけた。

「! 魔女、お前の命で生き返らせるなァ」

ライが死んだら世界を抹殺するとか言ったり、本当に身勝手ね。どいつもこいつも。


「いえ、生き返らせるわ。絶対に」

「呪いが完成する前に君を殺すゥ」

話すのも辛い。呪いが私からなくなって力が入らない……。


「この子は人間が嫌いって言ったのよ、生きてたかだか十何年のガキが」

「ああ、本当におかしいと思うゥ」

「わかる。この村でこの子の居場所や信用できる大人がいない世界なんてクソよ」

「だから、この世界は滅ぼすに値するよォ」


「間違ってる」

「あァ?」

こいつ、あのガキと一緒に長いこといたくせに親の代わりにもなってないわね。


「そんなクソみたいな世界だから、この子に生きる素晴らしさを教えてあげるべきじゃない」

ああ。話すのもう無理だ。

地面と顔がいつの間にか密着してる。身体が冷たくなってく。


「魔女に悟されるのは、癪だなァ」

「魔女っていうのは、人を惑わせる者だって知ってた?」

「君を殺して世界を壊すよ」


ドゥルガーは大鎌を取り出した。

(……ああ、何もできず死ぬんだ)

バルフェルトの復活もできないで、大精霊の暴走すら止められない。

情けない最後ね。


急に世界が急に真っ暗になった。ロマネスクが闇の魔法を使ったのか。

私が大精霊を説得しても、勇者が闇の魔法を使うんだったら止める必要ないじゃない。

ほんと骨折り損ね。


みんな消えると思ったら、真っ白な空間に飛ばされた。

「ふふふ」

「何笑ってんだァ」

「戦ってるのは、私だけじゃないんだって思ってさ」


自分より強い相手に食らいついてる。元勇者の現魔王がいたわね。

あいつががんばってるなら、私ももうちょっとがんばらないと。


「あんた、あの子が大切って言ったわよね」

「それがなんだァ」

「あの子のために、世界を良くすべきじゃない」


「そんなことしてる暇はないィ」

「私の呪いをかければ、不老になる」

大精霊も殺しさえしなければ不老不死みたいなものだ、ずっと一緒にいさせてあげるわ。


「あんたは世界を良くして、このクソみたいな世界を生きさせてあげなさい」

「ボクに命令するのかァ。アマツも君も随分傲慢だねェ」

「でも、あなたは断れないでしょ」


ドゥルガーは大鎌を消滅させた。

「わかったァ」

バルフェルト、あんたが私を生き返らせたのはなんでかわからない。


でも、誰かのために何かをするって悪くないわね。

「……本当にライのために使ってくれるのォ?」

「ライはこの世界を絶望するほど、生きてないじゃないからね。もっと苦しんでもらうわ」

「性格悪いねェ」


「ええ。だって、私は人間のこと嫌いですもの」


*****


「やっと行ったよ、元魔王が」

昨日今日と戦ってばかりで疲れた。

ゆっくり休みたい。でも、そうはいかない。


キャロは気絶してるだけだけど……。

バンカの胸は貫かれ、横になっていた。

「キャロ起きろ」

「は、はい」

すぐ起きんのすごいな。


「バンカ大丈夫か?」

「大丈夫に見える?」

こんな悪態つけるってことは元気そうだな。


「ドゥルガーにやられたのか」

「自分はそうですけど……」

「私は違うわ。自分でやった」


「は? いかれてんなー。キャロ治してあげろ」

「治さなくていい。私はもうじき死ぬから」


どういうことだ。

俺がいない間に何があったんだ?

「何言ってんだよ」


「ライに呪いを譲渡した」

呪いを渡した……?


どうなるかを思い出しているとキャロが大きな声で言った。

「そんなことしたらバンカさんが死んじゃうじゃないですか」

「まじで、お前なにやってんだよ!」


「ほんとよねー」とバンカは覇気なく答えた。

「変な奴とは、思ってたけど相当変だ」

「失敬ね、これでもまともよ」

「ドゥルガーに脅されてやったんじゃないのか」

俺から見たらアイツがこの二人に手出したようにしか見えなかったし。

「そんなわけないじゃない」


「だとしても、お前がこういうことやるタイプに思えない」

人間嫌いなのに、人間を救うってどんな矛盾だよ。

「人は変わるのよ、前世の記憶あるのにそんなこともわからないの?」

「急に煽るなー」


「ごめん、そろそろ寝るわ」

「……ああ、わかった。短い間だったけど楽しかったよ」

「生まれ変わったのが、あんたでよかったわ。ちょっとは楽しめた」

いつもみたいに、言い返そうとしたけどやめた。

もう言い返しても、聞いてくれる人はいない。

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