15 お前のような
ロマネスク視点
「……どうしてお前はいつも私の邪魔をする」
前世の頃から私はアマツ・ツカサが目障りだった。
何度倒しても、何度大切なモノを奪い心をへし折っても立ち上がり私の前にやってきた。
絶対に私が強いというのに、何度も何度も挑んできた無謀な男。
「あ? 邪魔なんてしてねぇよ」
アマツに殺され、目が覚めるとこの世界に転生していた。
聖剣を抜いて勇者になり、魔王バルフェルトを一人で倒した。
やっとこれから私の時代が来た。
と思ったのに、アマツ・ツカサはバルフェルトに転生し、再び私の前に現れた。
「私は全てを手に入れたい。だが、あと少しのところでアマツ、貴様は私の前に阻む」
「俺は誰かのために戦ってるだけだよ、お前も今はそうなんじゃないのかよ」
私とアマツの違いはなんだ。
民を従え、世界を魔族から救った。
私よりも劣っている貴様に、なぜ私は気にしなければならない。
「そんなことないだろ」
「お前が私の何を知ってる……!」
強くなるために私は何でもしてきた。
捨てれるモノは全て捨て、誰よりも強くなった。
だから、今も今あるモノを全て捨てて、アマツ・ツカサをここで倒す。
「闇よ、全てを飲み込め『タマサ』!」
「馬鹿野郎! お前仲間ごと殺すつもりか!」
……仲間ではない。
弱いのが悪い。私についていれば、安全だと呆けている怠け者だ。
私だけがいればいい。
「そんなことどうでもいい。私がいればいい」
「ロマネスク、お前がクズだったらここまで人はついてこねぇよ」
「!」
そんな……そんなわけはない。
私を利用しているだけだ。いなくなってもいい。
最後まで戦えるのは私だけだから。どうせまた私だけになる。
だが、どうして胸が痛い。
「こんなに慕われるくらいがんばったからだろ。それに娘さんまで殺すつもりかよ」
「何を捨ててれば、アマツ! 貴様を倒せる!」
「勇者だったら、なにも捨てんなよ。『不変の理』」
私の精霊術をコピーしたところで意味はあるのか?
空間を行き来するだけだ。闇の魔法を防げるわけがない。
闇の魔法『タマサ』は範囲内のモノを全て吸収する。防御はもちろん、逃げることすらできない。
闇がなくなり、一瞬にして村にあった家財、火、人間は全てなくなっていた。
「はははは、やっぱり無理だったか」
バルフェルトの魔力だって感知できない。正真正銘この世から消えた。
「……これで私の勝ちだ」
一緒に戦ってみたかったが、もうその夢は叶わないようだ。
「誰の勝ちだよ」
「……どうして生きている」
私の前に忽然とアマツ・ツカサが現れた。
それに、村人や私の兵士たちが無傷で立っている。
「どうしてかって聞かれたら答えてあげるが世の情けだよな」
「母さん! こいつ、母さんの能力使って逃げた!」
「馬鹿! 言うなよ!」
なるほど。オリブが言う通りなら生きているのにも納得できる。
防ぐのではなく逃げるために使ったのか。
「……よかった」
「えーなんだってぇ!?」
「なんでもない。たわけが」
つい口を滑らせてしまうところだった。
「生きてて良かっただろ?」
「……そうだな」
「捨てすぎたってどうせ俺には勝てないぜ」
「いや、勝てる」
「最後まで聞け!」
最後まで聞いてやるとしよう。
私がこいつにもう負けるわけはない。
「人間も魔族も物じゃないから捨てるって言うなよ」
アマツの言う通り……かもしれない。
認めたくないが。
「お前ら行くぞ」
「ロマネスクさま」「母さん」「勇者さま」
この世界で生を受けて29年。
人間だろうと一緒にここまできた仲間だ。
「勇者がなんだかわかったか? 三流勇者」
勇者って奴はまだ完全にはわかっていない。
「ふ、ほんと気持ち悪い奴だな」
「なんだとやんのか!」
だが、お前のような勇者になれたらと思っている。