14 お前がクズだったらここまで人はついてこねぇよ
「っていうことがあったんだよ」
「大精霊と契約か、やるじゃないか。私の次に」
「相も変わらず上から目線だなぁ。てか、このワインうまいな」
「だろう? 一本やろう」
「いやぁ、欲しいんだけどこの力相手が近くにいないと発動できないんだよな」
空間に好きなもの保管できたらどれ程便利だっただろう。
「それは不便だな。さて、戻るか」
「ああ」
がらんどうの空間から村に戻ると、切りかかってきやがった。
さっきまで一緒に飲んだというのに、切り替えが早いな。
「私の力を使えるようになったとはいえ、使いこなせなければ意味がない」
ロマネスクの言う通り、結局は状況が変わらないんだよな。
こいつを倒す決めてがない。
バンカが叫んだ。
「キャロ!」
ドゥルガーがキャロの首を絞めていた。
「おい。なにやってんだよ!」
「よそ見してていいのか」
人が話してるっていうのに切りかかってきやがって。
「クソ」
キャロたちのことも心配だ。
目の前のことを対処しないとな。
「やはりお前は人間を従えた方が性にあうだろう」
「従えるつもりはない。一緒に居られるだけでいい」
「お前ほどの奴が上に立たないのは、宝の持ち腐れで仕方ない」
「それだよ! その考えが勇者じゃねぇんだよ!」
うわ、すごい嫌な顔してる。
俺だって説教したいわけじゃねぇんだよ。
「ならば、貴様のその勇者論というのを聞かせてもらおうか」
「勇者っていうのは、誰かのために戦うんだ。お前は自分の目的のために戦ってんだろうが」
ロマネスクは前世と変わらず世界を自分のものにするために戦っている。
「俺は奪おうとするお前が許せない。だから抗う」
「随分と立派だな。だから童貞だって馬鹿にしてるんだ」
「誰かのために動くことを馬鹿できるほどお前は立派なのかよ」
「ああ、立派だよ。世界は私のためにできてるからな」
変わらねぇな。
俺はこいつのこういうところが、嫌いだから一緒に戦いたくない。
「馬鹿は死んでも治らないっていうけど、あれ本当みたいだな」
「その言葉、貴様にピッタリだ」
また目の前から消えた。
さっきのがらんどうに行けばいるだろ!
これ以上好き勝手させてやらねぇ。この力にも慣れたからな。
「……ってくつろいでんな」
ワイン飲んでるし、こいつ一口飲んでから俺に攻撃してんのか。
「アマツ、貴様も休みにきたのか」
「そういうわけじゃねぇよ。……ワイン一口飲ませて」
「大精霊と会ったってことは、精霊の秘宝を持ってるわけだな?」
「秘密~」
ドゥルガーからもらった精霊の秘宝は、【トリシューラ】。
相手の魂を絶対に殺せるらしい。
これは本当に負けそうになった時にしか使わない。
「精霊の秘宝を私に渡せば今回も見逃してやる」
「負けるかもしれないからビビってんだ」
「自分の脅威となるものは、早めに消しておくのが鉄則だ」
そういう考えが、魔王らしんだよなぁ。
「さて、そろそろ戻るか」
「そうするか」
村に戻ると兵士たちが多く集まっていた。
ギャラリーは多いだけ、盛り上がるからいてもいいんだけどね。
「なかなかやるではないか……」
「ふッ。まだ本気出してないぜ」
「すごいあの二人接戦だ……!」「俺たちがいけない次元で戦ってたのか!」
とか色々兵士たちが騒いでるけど。
実際、俺たち異空間でワイン飲みながらくつろいでたんだけどね。
兵士の声のたくましい声の中に少女の声が響いた。
「お母さん!」
「お母さん?」
兵士たちの中に赤髪のショートヘアの子がいた。
年齢は15、16くらいだろうか。目元がつり目でどっかの誰かに似て意志が強そう。
「オリブ来るなといっただろう」
「あたしが魔王を倒すの!」
「え、もしかしてロマネスクさん子どもができたんですかぁ?」
うわぁ、こいつがエプロン姿で子どものために朝食作ってる姿とか似合わねぇ。
「養子だがな」
「魔王! お母さんに勝てると思うなよ! あとお前を倒すのはあたしだ!」
「オリブ、それは違う」
もしかして魔王はお前にはまだ倒せないって止めるのか。
意外と母親らしいところあるんだなぁ。
「アマツを倒すのは私だ」
「張り合うのかよ!」
「違う! あたし! お母さん、魔王まだ倒せてないじゃない!」
「親子喧嘩やめろ。まぁ二人とも俺には勝てないだろうけどなー」
「なんだと、貴様……?」「はぁ!?」
二人とも口を膨らませて、顔真っ赤にしてる。
血は繋がってないにしろ、やっぱり親子だな。
「絶対あたしが倒す!」
「オリブ、今回は私がアマツを倒す。……何もするな」
「……わかったよ」
「いいのか? 二人まとめてやってやるのに」
「お前ごとき、私一人で十分だ」
「やってみろよ。火よ我に従え『アグニ』」
『この期に及んで魔法使うのかよ』とか思われてそうだけど、俺は使い続けるぞ。
だって、魔法はかっこいいからな!
「私は貴様が魔法を使うことは馬鹿にしないぞ」
なんで俺の考えわかんだよ。しかも簡単に防ぎやがって。
「だから、私も貴様と同じ土俵で戦って完膚なきまでに敗北を認めさせてやる」
「いいぜ、一緒に火遊びしようぜ」
「「火よ我に従え『アグニ』」」
威力は──互角。
「すごい。ロマネスクさまと互角だなんて!」
兵士の誰かが呟いたのが聞こえた。
この体のおかげで、互角に戦えるに過ぎない。
魔法を撃ち合って、精霊術を使ったとしても終わりが見えない。
「これ以上戦うのは不毛だろ。もう魔族に手を出すな」
「……どうしてお前はいつも私の邪魔をする」
「あ? 邪魔なんてしてねぇよ」
「私は全てを手に入れたい」
ロマネスクは俺を睨んできた。
眼力で家とか地面えぐるかな普通。
「だが、あと少しのところでアマツ、貴様は私の前に阻む」
「俺は誰かのために戦ってるだけだよ、お前も今はそうなんじゃないのかよ」
「……私は違う。前世でできなかった世界征服をここで成し遂げるために戦ってる」
「そんなことないだろ」
「お前が私の何を知ってる……! 闇よ、全てを飲み込め『タマサ』!」
一瞬にして空や地面が黒くなった?
俺の皮膚まで闇に溶けて消えていってるこれはやばい奴じゃねぇか……。
「闇の魔法です!」とキャロが叫んだ。
「闇の魔法?」
「この空間にいる人、いやこの村にいる人は死にます!」
「ヤバい魔法じゃねぇか!」
ここら一体を全て更地にするつもりかよ!
「馬鹿野郎! お前仲間ごと殺すつもりか!」
「そんなことどうでもいい。私がいればいい」
「ロマネスク、お前がクズだったらここまで人はついてこねぇよ」
「!」
「こんなに慕われるくらいがんばったからだろ。それに娘さんまで殺すつもりかよ」
「何を捨ててれば、アマツ! 貴様を倒せる!」
「勇者だったら、なにも捨てんなよ。『不変の理』」
ここにいる全員助けてやる。