12 教えてやるよ、三流勇者
「じっくり焼いたって、そいつは上手くならねぇよ」
「貴様は! 魔王バルフェルト!」
「俺は魔王じゃねぇよ」
目の前にいた兵士を尻尾で薙ぎ払うと、すぐに血を吐いて倒れた。
こいつのことよりも心配なのはバンカだ。
「バンカさん!」
「大丈夫か?」
「……大丈夫に見える?」
「あははは。見えねえ」
「何笑ってんのよ」
「キャロ、治してやってやれ」
「はい!」
キャロがかじると、バンカの腹の傷が治っていく。
「ライは」
「もう死んでる。絶対にこんな結末許さない」
バンカがここまで激情するところ初めてみたな。
死んだ人はもう生き返らない。今できることを俺はするしかない。
「……そうか」
ドゥルガーとの約束を果たせなくなったのは、あいつに顔向けできないな。
バンカを傷つけて、村に火を放ち、ライを殺した。
これが人間のやることかよ。
兵士の首根っこを掴みあげる。
「おい、起きろ」
「俺を尋問しても無駄だぞ」
「聞きたいことは一つだけだ。どうして村に火を放った」
こいつ鼻で笑いやがった。気に食わないな。
「魔族の仲間である魔女に加担したからに決まってるだろ。敵対する魔族はこの世から消す。それに加担する奴も消す。だから火を放った」
「それってお前の考え方かよ」
頼むから、俺が聞きたくもない回答すんなよ。
「もちろん、ロマネスクさまのお考えだ」
「そうかよ」
尻尾で首を絞めて気絶させておこう。
さて、これからアイツをしばくか。
俺がしようとしていることに気づいたのかキャロが声をあげた。
「アマツさま、なにを? ──! おやめください!」
着ていたインビジブル・コートを脱ぎ捨てる。
すると、あら不思議目の前にロマネスクが現れた。
「さぁ──元魔王による魔王退治を始めよう」
「すぐ来てくれるなんてな。すごい便利だぜ」
マントを脱いで一秒もかからずに、すぐ来てくれた。
「貴様、アホなのか? どうしてそれを脱いだ」
「ロマネスク、一つ聞きたい」
「問うてるのは私だ」
「テメェの質問はどうでもいいんだよ。
魔族を追い詰める理由を言え」
「勝ったのだから、奪って当然だ。
お前も前世ではこちら側だったからわかるだろ?」
負けた奴らは奪われる。確かに、そうかもしれない。
「お前、俺のことも勇者がなんだか何もわかってねぇな」
「ほう」
人間だった頃は、仲間や家族を守るのに必死で戦ってきた。
奪われたから、奪うなんて陳腐だ。
「私にとっては、勇者は──奪い。闘い。民を従える。偉大な者だ。それをお前と戦って学んだ」
「まじでわかってねぇな」
おいおい、俺のことなんだと思ってたんだよ。
奪って、闘い、従えるってまるで、魔王みたいじゃねぇか。
「いいか、勇者は奪わないんだよ。今の現状に抗ってんだ。それに民を従えてるわけじゃねぇからな?」
「そうなのか?」
「そうだよ! みんなが俺についてきてくれたから、お前に勝てたんだ」
こいつやっぱり何もわかってないな。
「教えてやるよ、三流勇者。俺が勇者ってやつをよ」