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勇者アマツ・ツカサは魔王になる  作者: 川上アオイ
第一章 アマツ・ツカサは魔女と旅をする
11/49

11 あいつはそんな皮肉めいた話し方はしない

バンカ視点


「貴様! 裏切りの魔女か!」

鼻血を手で抑えて、無様ね。


「ついてきなさい」

「え、私も?」

ライの手を掴んで逃げると、兵士はケツをおっかけてくる。


「いい? これからあんたは私の人質」

「違う、魔族になるために噓をついたの」

「魔族になったってなにも変わらないわよ」


ハトが豆鉄砲をくらったみたな顔をしてるってことは感情から考えていたみたいね。

「魔族になったってクソな奴はいる。それと同じで人間も良い奴はいる」

「でも、私は……」

「あんたが嫌いなのはこの村の人間よ。主語がでかすぎんの」

この村の人間が、この子のことを信じなかったから、ライは苦しんでる。


「この村から出て、もっと世界を知りなさい」

「私一人じゃ、無理。どう暮らしていけばいいのかわかんないよ」

「魔族になるって勢いはどうしたのよ、魔族になるより一人暮らしのほうが簡単よ」

私は何十年も一人で生きてきて

魔族から人間になろうとしてる輩を見てるからそれは保証できる。


「……」

「なによ。まだ怖いっていうの?」

「一人で生きていけるようになるまで、一緒にいてくれる?」

急にしおらしくなって、かわいいとこあるじゃない。

「少しだけならね」

「うん、ありがとう!」


「待て!」

いいところなのに、邪魔してくれるわね。

仲間を集めて、後ろには行列ができてる。

さて、これからどうしたものか。

兵士に囲まれて逃げられるわけがないし、絶対絶命。


「もう逃げられないぞ、裏切りの魔女」

「これ以上近づいたら、この子を殺す」

ライの口を塞いで、ナイフを首元にあてる。

もちろん。殺す気なんて毛頭ない。


「……」

兵士たちの動きが収まった。

子どもがいるから手出しできないか。

このままアマツがくるまで時間稼ぎするだけの簡単なお仕事ね。

「やれ」

「え」


前方から一本の矢が飛んできて、ライの胸に突き刺さった。

「ライ!」

血が止まらない!

このままだと……。いや、この子は私の命に変えてでも助ける。


「この村は、魔女をかくまった焼き払え」

「どうして! この村とこの子は関係ない!」

「従属しない魔族など、人間には邪魔だ」

「最低ね」


「なんとでも言え。魔女を捕まえておけ」

誰が捕まるか。

ライを抱きかかえて逃げる。

捕まえて『呪い』の研究という名の拷問を受けるだけでしょ。


それに──子どもを傷つける奴にまともな奴なんていない!

「あいつ、森に逃げるつもりだ! 道を塞げ」

「なんでもかんでも燃やすって。本当にこの村燃やす気満々じゃない」

村の人間もろとも私を殺す気なんでしょうね。

抱いていたライは、もう息を引き取っている。もういいでしょう。


自分が着ていたインビジブル・コートを脱ぎすてる。

暑かったから脱いだ……ただそれだけ。

「おい、どうした?!」

周囲にいた兵士たちが次々と倒れていく。

私の場合、インビジブル・コートを着てても能力が薄まるだけ。

どうせこの村すべて燃やすんだから、とことん呪ってやろうじゃない。


「まさか──」

「私を誰だか、忘れたの?」

「貴様ァ!」

やっと気づいた間抜けは、剣を突き刺してきた。


「ッ!」

痛い。立てない、クソ。痛い。腹刺すなんて即死できないじゃない。

しかも浅い。


「ただで死ねると思うなよ。火あぶりにしてじっくりと殺してやる」

「……あははは」

アマツだったら、なんて言うだろうか。

くだらないことを考えてしまった。


「じっくり焼いたって、そいつは上手くならねぇよ」

「貴様は! 魔王バルフェルト!」

違う。あいつはそんな皮肉めいた話し方はしない。

こいつは、アマツ・ツカサ。元勇者だ。

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