スカウト1〜炎じゃない方のファイア〜
この世界にはワープポイントという便利なものがあるらしい。一旦、城下町に戻り、そのワープポイントを使うことにした。
魔法陣の上に立って、目を瞑る。
糸紡ぎ妖精の街、フテミムス。
そう呟くと、周囲が光り輝き、地面から風が吹き上げた。その衝撃に思わず、目を閉じる。
そして、次に目を開けた時、既に景色が変わっていた。
背中に羽が生えた、手のひらサイズの妖精たちが忙しなく街を行き来している。
今までにないファンタジーな光景に、思わず、おぉ……と悪役令嬢らしくない声が出てしまう。
それにしても、忙しない。
誰もが余裕なさげな表情をしていて、話しかけ辛い。
「すみません、あの……」
「観光?道に迷ったなら、町役場へどうぞ。はぁ……明日の納期までに間に合うかしら。あぁ、忙しい忙しい……」
道ゆく妖精に声をかけてみるも、取りつく島もない。
言われた通り、町役場へ行ってみるが、その窓口ですら忙しそうに妖精たちが動き回っている。
「糸紡ぎ妖精を専属で雇いたい?それは難しいでしょうね。皆、仕事を抱えて大忙しです」
受付担当の妖精はあからさまに迷惑そうな表情で、私にそう言い放った。
「強いていうなら……暇なのはフィルくらいですかね」
「その方について詳しく教えてくださる?」
「通称ファイアのフィル。かつてはこの街で一番優れた技術を持った糸紡ぎ妖精でした」
ファイア、なんていかにも強そうだ。
きっと炎魔法も得意なんだろう。戦闘面も当てにできるなんてラッキー。
しかし、そんな有能な人がなぜ暇なのだろうか。
「今はファイアしてますけどね。早期リタイアして資産運用で生活してます」
「そっち?!」
炎ではなく、まさかの早期退職の方?
現世で最近流行ってる、羨ましい働き方だけど、簡単に言えば、定職についていないということだ。
俄然、心配になってきた。
「とりあえず、会った方が早いと思いますので」
そう言って、窓口の妖精から迷惑そうに住所を渡された。
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悪役令嬢が好みの下着を手に入れるために気合いを入れて続編を書きたいので、よろしくお願いします!