メンズブラ11〜入れ替わり最高!〜
リリアの元に、最近他の女性と挙式を上げた元婚約者のランドロフ卿が訪ねてきた。
「自分の下着も作って欲しい」
ランドロフ卿のまさかの発言に、リリアは耳を疑った。
そして、なんやかんやで、依頼を引き受けることになったリリア達。
しかし、メンズブラに関して、何も情報がない。
少しでも情報を得るために、現世とコンタクトをとる必要があると考えたリリアは、黒魔術師を頼ることに。
黒魔術師に言われ、泉に強く念じると、現世の自分が水面越しにこちらを覗き込んでいた。
その中身は元の人格の、悪役令嬢リリアだった。
つまり、転生ではなく、悪役令嬢リリアと限界社畜OL狛枝かなめの人格が入れ替わっていた。
リリアinかなめはこれまでの事情を話すと、かなめinリリアは覗き込んでいたトイレの中にスマートフォンを投げ入れた。
かなめinリリアも色々あったようで、上司を殴って退職し、限界OLから女社長へと成り上がっていた。
リリア様が暴れ過ぎたせいで、『狛枝かなめ』の人生は大きく変わってしまった。
元の世界に戻れたとして、どうしたらいいのやら。
もう考えないでおこう。
思考を放棄し、虚無と化していると、ぽん、とスマートフォンの通知音がした。
メッセージだ。送り主は『社長』になっている。
「私の社用スマートフォンです。届いたということは、インターネット環境は生きているみたいですわね」
リリア様はいつの間にかメタリックピンクのビーズでド派手に装飾されたスマホを手にしている。
社用スマホをデコるな。
上司にバレたら大変なことになるぞ、と思ったけど、この人が社長なんだった。
「わざわざ便器に向かってお喋りしなくても、これでいつでも連絡が取れますわね」
こちらとしても、これからのことを考えると非常に助かる。
ふと、思い止まる。
これからのこと。
スマートフォンがこちらに来たということは、泉に飛び込めば向こうの世界に戻れる可能性が高い。
もしその場合、精神と肉体はどうなるのだろう。
リリアin狛枝かなめが現世に現れるのか。人格が再び入れ替わり、完全に元に戻るのか。
どちらにせよ、リリア様の許可が必要だ。
「その……リリア様はこちらの世界に戻りたいとは思わないんですか?」
「思いません。その感じだと、貴女だってそうでしょう?」
即答。そして、見透かされている。
現状、よれよれのブラジャー以外、特に不満はない。
恵まれた環境。刺激的でやりがいのある仕事。頼れる仲間達。
はっきり言って、戻りたいとは全く思えなかった。
「仕事を辞めて、暇になったので、こちらの世界を見て回ったんです。元いた世界とは比べ物にならないほど、文明が発達していて、超楽しいですわね。それに、出来ることが無限にあって、とても自由。チャレンジし甲斐があります」
リリア様は晴々とした表情で語りかけてきたけど、全然共感できない。毎日同じことの繰り返しで、ずっと窮屈だったから。
「貴女にも、やるべきことがあるのでしょう?」
「……はい」
「うんうん。とにかくエンジョイですわ。入れ替わり最高!」
リリア様が拳を掲げた所で、コンコンとドアのノック音が響いた。
「それでは、仕事がありますのでこの辺で失礼します」
そう言って、リリア様は勢いよく便器の蓋を閉め、会話を無理やりシャットアウトした。
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