メンズブラ9〜悪役令嬢、スマホをトイレに落とす〜
リリアの元に、最近他の女性と挙式を上げた元婚約者のランドロフ卿が訪ねてきた。
「自分の下着も作って欲しい」
ランドロフ卿のまさかの発言に、リリアは耳を疑った。
そして、なんやかんやで、依頼を引き受けることになったリリア達。
しかし、メンズブラに関して、何も情報がない。
少しでも情報を得るために、現世とコンタクトをとる必要があると考えたリリアは、黒魔術師を頼ることに。
黒魔術師に言われ、泉に強く念じると、現世の自分が水面越しにこちらを覗き込んでいた。
念の為言っておくが、現世にいた時に悪役令嬢口調で喋ったことは一度もない。
つまり、『私』の中に、別人格が入っている。
私の知る限り、ガチの悪役令嬢はフィクションの中の存在であり、現代日本にはまずいないはず。
ということは、『私』の中にいるのは、現世ではない世界線の悪役令嬢。
おそらく、本物のリリア様だろう。
嫌われているというより、デリカシーのなさと変人っぷりからネタ扱いされていることで有名な、悪役令嬢。
「えっと、リリア様、ですよね?」
「おっしゃる通り、わたくしこそが天上天下唯我独尊、超絶怒涛の最強令嬢ことリリア・ローゼンベルクです」
真顔のトンチキ発言に頭が痛くなってくる。
変な人だ。これは確実にリリア様。
転生イコール死だと思っていたけど、どうやら死んでなかったみたいだ。
つまり、ただの入れ替わり。
「貴女は『狛枝かなめ』さん?」
「……はい」
リリア様は私の本名を口にした。
狛枝かなめ。冴えない私の、本当の名前。
「『狛枝かなめ』と『お前は黙れ』で韻が踏めますわね」
出た。初対面なのに、名前で訳のわからない韻を踏んで、ドヤ顔するくだり。
クロウリーに同じことをして、一発で嫌われていた。
適当に愛想笑いでかわして、これまであったことを簡単に説明する。
すると、彼女は世間話のテンションで「ふーん」と言った。いや、もっと驚けよ。
「つまり、インターネットが使いたいからスマートフォンが欲しい、と」
一応、話は理解できているみたいで安心した。
「一応、手元にはありますけど……どうしたら良いのか……」
ふむ、と考え込んだ後、リリア様は何か閃いたように、あぁ、と声を上げた。
「試しにそちら側へ放り込んでみます」
それは名案。何事もやってみないと分からない。
「でも、詰まったら困りますわね」
「詰まる?」
「だってここ、おトイレですし」
それは嫌。めっちゃ嫌。
転生しているとはいえ、元々は私物だ。嫌に決まってる。
トイレに投げ込まれたものが届いても困るし。
「まぁ一旦やってみましょう」
「ま、待ってください」
「そーれっ!」
リリア様は容赦なく私のスマートフォンを投げ込んできた。
頼むから人の話を聞いてほしい。
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