プロローグ4〜悪役令嬢は超ミーハーで商才ゼロ〜
「いいよ」
早速、父であるジュペリエール伯爵に新しい下着が欲しいと頼み込むと、食い気味の即答が返ってきた。
金糸を纏ったブラックのコート。パリッと糊のきいたシャツ。身につけているもの全てが最上級だ。
二股にカールした髭を蓄えた、厳格そうな男性。
ジュペリエール伯爵は、いかにも高貴な貴族然としたビジュアルだった。
そんな彼は見た目にそぐわないフランクな口調で私に話をし始めた。
「でも、ワシも母さんから甘やかしすぎって釘刺されてるんだよね。この間も『りんご飴が食べたいから、りんご飴屋を作る!』って言い出して店とシェフを用意したにも関わらず、三日で潰したし」
「えっ」
「その前はフルーツ大福屋をやりたいって言って五日で潰したし」
「その前の前はマリトッツォ屋。その前の前の前はタピオカ屋。その前の前の前の前は」
「ティラミス屋ですか?」
「いや、ナタデココ屋」
そっちか。
っていうか商才なさすぎでしょ。
もうメチャメチャな世界観については突っ込まないでおく。
「この間のりんご飴屋をそのまま使って良いから、今度は長続きさせてね」
「ちょ、あの、店が欲しいんじゃなくて、実物さえ作れたらいいのですけど……」
「えぇ〜?それこそ甘やかしすぎってママに怒られちゃうよ」
ジュペリエール伯爵は指でバツを作った。
かわいいなこのおっさん。
「ランドロフにフラれて悠々自適な専業主婦も遠のいたし……ずっとニートなのも、ねぇ?」
確かにそれはそうだ。
ニート扱いされたけど、一般的な悪役令嬢って確かに仕事してないな。
婚約者にもフラれたらしいし、いつ失脚するかも分からない。
元の世界に戻れる保証もない。
それに、自分好みの下着をたくさん作っておきたい気持ちもある。
今後のことを考えて、やってみる価値はあるかもしれない。
「はい、頑張りますわ……」
「仕立て屋は暇そうなのを寄越すから、そいつを使って」
「ありがとうございます」
ジュペリエール伯爵が親バカで良かった。
なぜか店を経営することになってしまったけど、元々の仕事は経理担当。
意外となんとかなるかも。
本当はこんなに楽天的な性格ではないんだけど、身体の持ち主に影響されてか、前向きな気持ちになっている。
やれるだけのことはやってみよう。
こうして、キツキツコルセットから解放されたいがために、悪役令嬢の下着屋がオープンすることになったわけである。
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悪役令嬢が好みの下着を手に入れるために気合いを入れて続編を書きたいので、よろしくお願いします!