メンズブラ6〜スピンオフに期待は禁物〜
リリアの元に、最近他の女性と挙式を上げた元婚約者のランドロフ卿が訪ねてきた。
「自分の下着も作って欲しい」
ランドロフ卿のまさかの発言に、リリアは耳を疑った。
そして、なんやかんやで、依頼を引き受けることになったリリア達。
しかし、メンズブラに関して、何も情報がない。
少しでも情報を得るために、現世とコンタクトをとる必要があると考えたリリアは、黒魔術師を頼ることに。
案内された黒魔術師の家は、まさかの『はじめてのお客様』であり、ファーストブラを提供したフローレンスであり、黒魔術師はフローレンスの母のイザベラだった。
室内には大きな鍋や水晶玉などの黒魔術グッズがたくさん並んでいる。干したトカゲやら、謎の液体に浸された根っこが入った瓶やら、明らかに良からぬものを作っている工房だ。
先日、ドヤ顔で説教をかましてしまったので、ここで呪われていてもおかしくない。
イザベラは私に背を向けたまま、話し始めた。
「貴女に言われて、あれから『サキュこい』を全巻読みました。恋愛小説としては支離滅裂ですが、シュールなギャグだと思えば及第点です」
それは同意。
『サキュバスでもガチ恋しちゃっていいですか?』は現世でいう、一昔前の携帯小説であり、スイーツ(笑)という懐かしのフレーズが頭に浮かぶレベルだ。
しかし、フローレンスにとっては愛読書。頭ごなしに否定していたイザベラも、娘に歩み寄ってくれたようだ。
「しかし、スピンオフは正直駄作でした。やはり、主人公が違うと魅力が半減しますね。コミカライズの絵は美麗で好みなのですが……」
あるある。主人公の違うスピンオフって何故かテンションが上がらない。
っていうか、スピンオフのコミカライズまでチェックしてるってだいぶどハマりしてるな。
サキュこい限界オタクと化したイザベラのオタトークは止まらない。フローレンスにも早口で語られた記憶がある。血は争えないということだ。
私の冷ややかな反応を見て我に返ったのか、イザベラはコホン、と咳払いをした。
「とにかく、娘と共通の話題ができて、貴女には感謝してます。あの下着も、あの子とても気に入っていて……なんていうかその……私もそのうちお願いしようかしら」
ぼそぼそとイザベラの語尾は小さくなっていった。
気に入ってもらえて良かった。
心なしか、以前よりフローレンスの表情が明るくなったように見えて、それだけで私達の努力は報われた。頭を必死に悩ませて、作った甲斐があったものだ。
「良かったですわ。いつでもお待ちしております」
そう言うと、ようやくイザベラが振り向いた。
「貴女には借りがあります。御用なら、なんなりとおっしゃってください」
それは助かる。
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、別の問題が浮かび上がってきた。
どうやって伝えよう。
「非常に申し上げにくいのですが……異世界とコンタクトを取るのは可能かしら」
「可能です」
即答だ。正気を疑われることもなく、異世界という単語もすんなり受け入れられた。
流石、黒魔術。なんでもありっぽい。
本棚から古びた表紙を一冊取り出し、イザベラは窓の外を指差した。
「裏に泉があります。そちらに移動しましょう」
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