ブライダルインナー10〜なんかとっても良い感じ〜
悪役令嬢に転生した『私』はコルセットよりも快適でデザイン性の高い下着を作るために、下着屋を作ることになった。
リリアは恋敵のミモザからブライダルインナーの依頼を受け、なんとかほぼ完成したが、既に挙式は始まっていた。
挙式に殴り込むリリア達。ミモザは最初から、ブライダルインナーなど着ける気はなかった。開き直るミモザに、あくまでプロとして冷静に商品を説明し、リリア達はその場を後にした。
騎士団本部からの帰り道で、気分は驚くほど晴々としていた。
「あんた、本当にあれで良かったのか?」
フィンが心配そうに後から声を掛けてきた。
「元カノに依頼してくるだけでもヤバいのに、納期まで嘘ついて、結局使わないなんて……こんな仕打ち酷過ぎん?ウチがあげたメリケンサックブレスレット、使っても良かったのに」
やけに同情されているけど、何でだろう。
そうか。
フィンとチャルカには本当のことを話していないんだった。
私が本物のリリアではないと知っているのはクロウリーだけだ。
何も知らない人からは、ランドロフ卿に失恋した上、当人たちの結婚式で恋敵からの酷い仕打ちを受けてもなお、気丈に振る舞う女に見えてもおかしくない。
本当のことを話そうか迷っていると、クロウリーが意味ありげな視線を送ってきた。
まるで、『今はまだ話さない方が良い』と言われているようだ。
「喧嘩したら、同じ土俵に上がったようなもんだろ。あの性悪にとっちゃ、ああやっていなすのが一番効くんだよ」
クロウリーの言葉に、フィンもチャルカも納得できなさそうに私を見た。
「まぁ、最初はぶん殴るつもりでしたし、開き直られてもっと腹が立ったのも事実です。でも、お金を頂いている以上、私達はプロでしょう?」
殴ったり、口論をすれば、一時的にスカッとするかもしれない。
でも、私個人の感情だけでなく、クロウリーやフィン、チャルカの希望を叶えたかった。
彼らは職人だ。商品を愛して貰った方が、より心が満たされるに違いない。
「それに、あなた方はお客様をぶん殴ることを、本当に望んでいたとは思えなくて。そんなことしたら、ミモザに商品を受け取ってもらえない可能性もありました」
それでは元も子もない。
目を向けるべきは、怒りや悲しみではなく、もっと純粋な感情。
「やっぱり、作ったからにはたくさん着けて頂いた方が嬉しい……ですよね」
その言葉に、フィンは小さくため息を吐き、チャルカは何度も頷いた。
その二人の口元には笑みが浮かんでいた。
良かった。
なんとか丸く収まったみたいだ。
緊張の糸が解けると、どっと疲れが押し寄せてきた。
身体は限界に近い。でも、心は羽根のように軽い。
良い仕事をした。
とびきりの解放感で、私は振り返って三人を見た。
「さ、一仕事終わったことですし、パーっと食事でもいかがですか?」
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