初めてのお客様7〜なんということでしょう!匠の手により最高のファーストブラが完成〜
「それは?」
娘からそう尋ねられ、フローレンスの母が気まずそうに目を逸らした。
フローレンスは何かを察したようで、母の手からそっと小包を取り上げて、中身を確認した。
「すごい、かわいい……」
『注文品』を手に取り、フローレンスは目を輝かせた。
感激しているところを申し訳ないが、コホン、と咳払いをする。
「商品の説明をしてもいいかしら?」
カップの生地は多少デザイン性は犠牲にしても、通気性を重視して肌触りの良いメッシュ生地。ノンワイヤーかつ着脱しやすいかぶって着けるタイプにすることで、ストレスのない着心地を心がけた。
そして、デザイン。サキュバスといえば黒ということで、最初はブラックを基調にすることも考えたけど、いかんせん透けやすい。思春期のフローレンスには避けた方がいいだろう。
ならば、何色がいいか。
フローレンスにとっての『サキュこい』は発展途上の恋愛のモダモダを楽しんでいる。読み跡がついているシーンは勘違いやすれ違いの場面が多かった。
くっつきそうでくっつかない二人。白でも黒でもない、その中間。
これだ。
グレー。グレージュであれば、若々しさもあり、透けにくい。
それだけだと味気ないので、カップ上部からストラップにかけて、サキュバスの羽根に似たレースをあしらい、小悪魔感を演出した。
胸元中央にはハニーナの髪色と同じ、ローズピンクの蝙蝠風チャームを付けた。ちなみに着脱可能。
上品かつキュート。そして機能性も抜群。中学生が着けても問題のない、親も安心して贈れる一品だ。
「これ、私に?」
「えぇ。どうぞお納めください」
「でも、こんないいもの……ウチは貧乏だし、とてもじゃないけど買えないです」
「最初に申し上げたはずです。モニターとして、お渡ししますわ。そちらを着けて、宣伝して頂ければお題は結構です」
「うちの娘はまだ子供ですよ。下着を着けて宣伝なんてとんでもない!」
「誰が着けて他人に見せろなんて言いましたの?下着は下着。上に服を着て、生活するのが普通じゃなくて?」
ぐぬぬ、とフローレンスの母親が唇を噛んだ。
「そちらを着て、普段通り暮らしてください。もしもそれで楽しい気分になったり、テンションが上がったりすれば、自ずと周囲に滲み出るはずですわ。それだけでモニターモデルとして十分過ぎる対価です」
フローレンスは感激し、目を潤ませた。
そこまで喜んでもらえるなんて。思わず、もらい泣きしそうになる。
「リリア様。本当に、ありがとうございます。大切にします。可愛くて着けるのがもったいないわ」
「大切にしなくていいのよ。くったくたになるくらい、たくさん着けてね」
ひらひら、と何でもないように手を振る。
フローレンスは下着をぎゅっと宝物のように抱きしめた。
「そうだ、フローレンスさんのお母様。こちら、お返ししますわ」
先日、置いていった『サキュこい』をフローレンスの母親へと返すと同時に、こっそり耳打ちする。
「私も最初はバカみたいだと思ってたんですけど、途中から段々面白くなってきますわ。恋愛小説ではなく、エンターテイメント小説として読んでみてください」
「え、あ、はい……」
「どうか、娘さんの好きなものを認めてあげてね」
正直、これが一番伝えたかったことだった。
自分が好きなものの良さを親も分かってくれる。それだけで、もっと親のことを好きになれるはずだ。
ありがとう、と再度頭を下げるフローレンスを店の外まで見送りながら、その姿にかつての自分と親の関係を重ね合わせていた。
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悪役令嬢が好みの下着を手に入れるために気合いを入れて続編を書きたいので、よろしくお願いします!