初めてのお客様5〜思春期の子供、親と下着買いに行く時絶対気まずい説〜
それから三日間、私は寝る間を惜しんで『サキュこい』を読み込んだ。大切なのは、フローレンスの想いだ。彼女の『サキュこい』への愛と、そのときめきをデザインに反映させなければならない。頭を悩ませながら大体のイメージ図を完成させて、クロウリーにスケッチブックを提出した。
「どうです?」
「美術2だな」
これでも丁寧に描いた方なんだけどな。
でも、伝わらなかったら意味がない。
描き直しか、とがっくりと肩を落としていると、クロウリーはスケッチブックをひょいと取り上げた。
「でも、アンタが相当努力して考えたのはよく分かる。これならなんとかなりそうだ」
クロウリーは顎に手を当て、ふむ、と考え込んでいる。
「明日、フィルから生地が届きますわ」
「明日?三日かかるんじゃなかったのか?」
「そう思って、前もって注文しておきました。生地だけは先に決めておいたんです。多少デザイン性を犠牲にしても、しなやかで通気性のある生地にしたくて」
「素人なりにこだわりがあるんだな」
「……彼女はまだ子供ですもの。まだこれから成長もするでしょうし、不慣れなワイヤーよりも伸縮性のあるゴムを使ったスポーツブラタイプにすることはマストでした」
私も初めてのブラジャーは、スポーツブラだった。ちょうど、フローレンスと同じくらいの年齢。母親と一緒に買いに行った時のことは今でも忘れない。
どこか照れ臭くて、正直ちょっと気まずかった。
「まずはスポーツブラの感覚に慣れてから、徐々にホックタイプに」と言われて、何も考えずに従ってしまった苦い思い出だ。
全然楽しくなかった。第一、スポブラって可愛くないし。
でも、スポーツブラにしたこと自体は大正解だった。
楽で、動きやすくて、嵩張らない。
初めてのブラジャーには、まさにうってつけなのだ。
「俺がもし、このデザインを却下したらどうするつもりだったんだ?」
「『こんなこともできないの?あなたは腕のいい仕立て屋なのでしょう?』と悪役令嬢っぽいことを言ってけしかけようかと……」
腕のいい職人はプライドも一流のはずだ。だから、『やりたくない』ではなく『できる』『やってやる』と言わせる方向に持っていくつもりだった。
「アンタ、意外と経営者向いてるかもな」
ははは、とクロウリーは歯を見せて笑った。
ツンデレイケメンの不意の笑みに正直、ちょっとときめいた。
面白いと思ったら評価・ブックマークして頂けると嬉しいです!
厳しいご意見もしっかり受け止めますので、じゃんじゃんおっしゃってください。
悪役令嬢が好みの下着を手に入れるために気合いを入れて続編を書きたいので、よろしくお願いします!